- 死後くん(シゴクン)
- 1977年生まれ、愛知県出身。NHK総合の番組「おやすみ日本」や、anan、BRUTUS、POPEYE、クイック・ジャパンといった雑誌のほか、書籍やWebなどさまざまな媒体でイラストやマンガを手がける。2013年にはマンガ「I My モコちゃん」を出版。
オフビートな笑いを交えて描かれる規則正しい戦争
川の向こう岸にある“とてもコワイらしい“太原町と、毎朝9時から夕方5時まで規則正しく戦争をしている津平町の住民。一体なぜ彼らは戦争を? なぜ規則正しく? 太原町はどれほど恐ろしいところなのか? そんな疑問が浮かんだあなたは、この物語が持つ不思議な魅力に早速とりつかれているかもしれない。
本作では、なんの疑問も持たず、よく知らない相手を恐れて、機械的に争い続ける津平町の住民がユーモアたっぷりに描かれる。石橋蓮司扮する夏目町長は向こう岸の脅威を声高に伝えるも「どんな脅威かは忘れました」と、超いい加減。
住民のとぼけた様子にクスッと笑っていると、あれ、これはどこかで……?とふと自分の周囲に目が向き始める。よく知らない相手を恐れ対峙すること、融通が効かない社会のルール──思い当たる節ばかりではないだろうか?
一見奇妙な架空の町の生活から浮かび上がるのは、我々もよく知っている普遍的な人間の悩みと世の中の不条理。アキ・カウリスマキやロイ・アンダーソンを彷彿とさせるオフビートな笑いで包み込まれた物語の中から、観客は人間のおかしみと哀しみを発見するはずだ。この心地よい毒をぜひ劇場で味わってほしい。
唯一無二の世界を生み出す新たな才能!
監督を務めたのはロイ・アンダーソンのほか、つげ義春や水木しげるからも影響を受けたと公言する1976年生まれの池田暁。長編2作目「山守クリップ工場の辺り」(2013)にて、ロッテルダム国際映画祭、バンクーバー国際映画祭のグランプリを受賞するなど国内外の映画祭で高く評価されている人物だ。
池田にとって初の劇場公開となる本作は、あえて舞台となる時代を設定せず制作された。その理由を池田は「どの時代にも通じる普遍的なテーマを描ける」と語る。またどの人物の表情も感情が読みづらく、話し方にも抑揚がないことについては、「観ている人がその人なりの解釈ができる余白を大切にしたい」とこだわりを明かしている。
そんな池田ワールド満載でつづられた「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」は、日本人監督の作品としては初となる東京フィルメックスの審査員特別賞を獲得。斬新でオリジナリティあふれる世界観で、国内外から注目を集めている。
個性豊かなキャストが大集結
“ちょっと変わった”池田の世界観を表現するため、本作には個性的なキャストが集結した。
音楽隊への異動を突然言い渡される真面目な兵士・露木を演じたのは、映画「あゝ、荒野」や「とんかつDJアゲ太郎」などで知られ、本作が映画初主演となる前原滉。前原の写真を見た池田が「この人がいいです!」と即決したという。
また、露木の同僚に今野浩喜、中島広稀が扮し、清水尚弥、橋本マナミ、矢部太郎も物語を彩る。さらに片桐はいりがきまぐれな定食屋女将・城子、嶋田久作が物知りな煮物屋・板橋、きたろうが“楽隊の頭脳“と自称する指揮者・伊達、竹中直人が優秀なトランペット奏者・大木、石橋蓮司が肝心なことばかり忘れてしまう津平町の町長といった、一癖も二癖もあるキャラクターに息を吹き込んでいる。
池田は「出演者の皆さんから、色々と意見をいただいたんですが、それがとても面白くて。人物ごとの独特なルールなど、キャストのアイデアをけっこう取り入れています」と回想している。池田ワールドとキャストのアンサンブルに注目を。