第21回東京フィルメックスで審査員特別賞を受賞した「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」が3月26日に公開される。
これまで手がけた作品がロッテルダム国際映画祭、バンクーバー国際映画祭でグランプリを獲得するなど、世界がその才能を認める池田暁の監督最新作。一癖も二癖もある個性派俳優たちとともに、理由や目的もわからず、川の向こう岸にある太原町と毎朝9時から夕方5時まで規則正しく戦争をしている津平町の日常をユーモアたっぷりに描き出す。
映画ナタリーでは本作の魅力を紐解くべく、一足早く映画を鑑賞した片桐仁のコメントを掲載。さらに死後くんによるイラストコラムもお届けする。
取材・文 / 金子恭未子
“片桐界No.1”片桐はいりさんに注目
まず俳優陣が豪華。ベテラン陣がとにかく濃い! フランス映画みたいな、つかみどころのない日常が繰り返されていて、あまり今の日本映画にはない作品だと感じました。共演したことのある役者さんが多いこともあって、現場でどんな演出を受けているのか、役者目線ですごく気になる場面が多かったですね。どこまでを決めて、どこまでを任せているのか? 後半になるに従って、この作品の空気感やリズム感がわかってきました。役者はだんだんゾーンみたいなものに入っていくのかな〜?と思いました。
登場人物はみんな機械的なしゃべり方です。でも、ベテラン陣の演技にはかなり抑揚があって、やりたいようにやっている感じがして面白かったです(笑)。注目したのは、やっぱり“片桐界ナンバーワン”の片桐はいりさん。はいりさん演じる定食屋の女将が悲劇に見舞われてからの芝居がやばくて! 終始笑っちゃいました。監督も笑っちゃって、カットがかけられなかったんじゃないでしょうか? 共演者もよく笑わずに演じられるなと思う生っぽいシーンも多かった気がします。
終始観客は想像し続ける
映画の中には現代劇っぽい表現が多々見られました。カメラという正面がはっきりあって、そこに向かって芝居をする。
そして、物語は常に思った展開には進まない。例えば主人公の兵隊・露木は音楽隊へ異動を命じられますが、楽隊の本部が一向に見つからない。泥棒も1人は警察官になってもう1人は兵隊になる。そこに描かれていない余白の部分で、何が起こったのか? 終始観客は想像し続ける。ずっとこのテンポでやるのか?と疑っていると、本当にそのままぐーっと進んでいくんです。10年前、15年前に小演劇界がやっていたような寸止め感が作品に漂っている。いつからか「白黒付けろ」と言われるようになって、演劇でもこういうことはあまりやらなくなりました。すごくチャレンジしているなと思います。
カウリスマキなどの巨匠たちに通ずる表現
劇中で描かれる同調圧力は日本的視点。一方で、淡々と進む人間の営みを傍観者として見るという表現は、ロイ・アンダーソン監督やアキ・カウリスマキ監督と通ずるものを感じました。世の中を引いた目線で見るようになった兵隊が川を渡るけれど、彼のその後の描かれ方もぼんやりしている。
今は、謎がどうだったかとか、どうしても観客は作品にオチを求める。もちろんこの作品にも結末があるけれど、“しっかりしたオチ”というところからはズレている。“ひと夏のお話”みたいな雰囲気がありました。
「自分だったらどうする?」違和感みたいなものを楽しむ
戦争をテーマに扱っていると敬遠する観客もいると思います。だから戦争映画って捉えちゃうとちょっと違うかもしれない。誰かにこの作品をお薦めするなら「ファンタジーです」と伝えます。
僕は人間同士の関わり合いを主軸にこの映画を観ました。同調圧力の中で生きていて、当たり前に起こっている日常の中で、ふと、あれ?って思う瞬間は誰にでもあると思うんです。引っかかるものを見つけるきっかけになる映画なのかなと。主人公の露木に感情移入するというよりは、この世界はどういうことなのか、自分だったらどうするんだろう?と想像して、違和感みたいなものを楽しむ映画だと思います。
- 片桐仁(カタギリジン)
- 1973年11月27日生まれ、埼玉県出身。多摩美術大学卒業。俳優・声優業に加え、彫刻家としても活躍している。映画「空母いぶき」「“隠れビッチ”やってました。」や、ドラマ「99.9-刑事専門弁護士-」「あなたの番です」などに参加。現在、NHK Eテレ「シャキーン!」にレギュラー出演しているほか、公式YouTubeチャンネル「ギリちゃんねる」を不定期更新中。
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死後くんのイラストコラム