「失ったから手に入るもの」はたくさんある(小籔)
──個人的に印象に残ったのは、「人生には、大事なものを失っても何かを成し遂げなければならないときがある」「失ったから手に入るものだってあります」という斎藤監督のセリフです。皆さんは、仕事や人生のうえでそんなふうに感じた瞬間はありますか?
イッキュウ 多かれ少なかれ、そうやって失ったり得たりしながら人生が続いているのかもしれないですよね。tricotもメンバーが脱退して、その代わりに新しいメンバーが加入するなど環境もいろいろ変わったりしているので。これまでの環境は失うけど、その代わりに新しい出会いがあったりとか、いろいろ経験しながら自分の人生はどんどんよくなっていっている気がします。
川谷 僕の場合は、失う前に新たに得るという感じでしたね。失うというか、あらかじめアウトプットをいろいろ作って、そのうちのどれかが落ちそうになったらほかでバックアップしてっていう。それによってまた浮上する仕組みになっているというか。どのプロジェクトも休まずに同時並行で動かしているつもりです。
新垣 私は言うまでもないのですが、騒動を起こして自分はもうあれで人生が終わったと思ったので、「その先のハッピーエンド」がまさにこのジェニーハイでの活動だと思っています。
小籔 僕は母親が亡くなったとき、「もう一生この人とはしゃべられへんのや」と思ってものすごく落ち込みました。普段からそんなにしょっちゅう会話するような親子ではなかったんですけど、最初のうちは「この世の終わり」と思ったくらい。でも、思えば母を失ったことで気付いたこともたくさんあるなと。例えば子供や嫁さんに対して、自分がいつか死んでこの世からいなくなり、迷惑をかけるのかと思うと接し方がちょっと変わる自覚もあって。そういう感覚は、母がまだ生きていたら自分の中に芽生えていなかったと思うんですよね。そういう意味で「失ったから手に入るもの」は至るところにたくさんあるのだなと思いますね。
恥をかいてもいいからとりあえず一回乗っかってみる(中村)
──ほかに印象に残ったシーンはありますか?
小籔 六角精児さん演じる作画スタジオの社長である関さんというキャラクターが、プロデューサーからの無理な要望に対して「ノー」を出しているところはすごく印象に残っています。関さんは、自分の後ろにおるスタッフらのことも考えているわけです。「今こいつらは俺が無茶な仕事の受け方をしたことで、めっちゃしんどい思いをしている」と。「これ以上はもう無理だ」と判断し、彼らを守るための苦渋の決断だったわけですよね。きっと観ている人の中には「冷淡だ」と思う人もいたかもしれないけど、僕は「かっこええな」と思った。自分があの立場やったら、俺1人ならいくらでも仕事を受けてもかまわないけど、あまりにもホイホイ受けてると相手も調子に乗って無理な要求もしてくるだろうし、「たとえ角が立っても、ここは一旦断っておかなアカンな」と判断することもあると思うんです。
──確かにそうですね。
小籔 斎藤監督が、高野麻里佳さんが演じる声優の群野葵に腹を立てるところもいいですね。
──群野葵はアイドル人気で「サウンドバック」にキャスティングされるものの、斎藤監督のイメージする演技ができないためにやり直しをさせられるシーンがありました。
小籔 こちらの都合だけで判断したら、仕事上でも腹立つことってあると思うんですけど、相手の立場に立てば「落としどころ」って絶対にあるはずで。ほかにも(尾野真千子演じる)有科プロデューサーが、制作スタッフが徹夜で作業してるときに自ら握ったおにぎりを振る舞うじゃないですか。ああいう気遣いやフォローが仕事ではとても大切なんですよね。どうしても要求を通したかったら、相手の立場を考えつつその後のフォローも大事にする。もちろん、いくら頼み込まれてもここは絶対に「ノー」だと思ったらきっぱり断る。そのバランスをどうやって取るかが社会では大切なんですよね。そこがきちんと描かれているからこそ、僕も子供に見せたいんやろなと思います。
──そろそろお時間ですが、せっかくなのでお互いに何か聞いてみたいことがあったら。
吉岡 ええ、どうしよう。……じゃあ、皆さん「座右の銘」ってありますか?
新垣 僕は一択ですね、「嘘はつかない」。
小籔 思いっきりついとったやないか。
一同 (笑)
小籔 思ったよりボケるんですよ、この人。ちなみに僕は、「腸内フローラ」「体を冷やさない」「医食同源」それから「人間万事塞翁が馬」の4つでいかせてもらっています。
イッキュウ 座右の銘……私は考えたことがなかったです(笑)。
川谷 俺もないかなあ。
小籔 これから3年くらいかけて座右の銘、決めましょ。個人の座右の銘と、ジェニーハイの座右の銘、両方。
くっきー! 僕は「ボリューミー根本はるみ」です。根本さんのお眼鏡に適うような男になるために、芸能活動をしているようなものなので。(吉岡に)嫉妬させちゃったらごめんな。
吉岡 あははは、大丈夫です。
小籔 逆に、中村さんと吉岡さんはあるんですか?
中村 俺は「一回乗っかる」かな。恥をかいてもいいからとりあえず乗っかってみる。その代わり、舞台挨拶とか見切り発車でしゃべりはじめて、結局どこにも行きつかないときとかあるんですけどね。それでもいいやって(笑)。
小籔 いやいや、大事なことですよ。
──最後に吉岡さんと中村さん、この映画はどんな人に観てほしいでしょうか?
中村 俺は、3歳から90歳ぐらいの人に、必ず観てもらいたいです。
吉岡 広っ(笑)。
中村 とりあえず来てくれっていう。それだけです。
吉岡 私は……何かをまっすぐがんばって、壁にぶち当たった人には観てほしいです。「その続きがあるから」ということが描かれているので、そういう人に届いたらうれしいです。
プロフィール
吉岡里帆(ヨシオカリホ)
1993年1月15日生まれ、京都府出身。2016年、NHK連続テレビ小説「あさが来た」で話題に。その後数々のドラマや映画に出演し、2018年のドラマ「きみが心に棲みついた」で初主演を飾る。2019年には「見えない目撃者」「パラレルワールド・ラブストーリー」に出演し、第43回日本アカデミー賞の新人俳優賞を獲得した。2022年には「ハケンアニメ!」のほか、「ホリック xxxHOLiC」に出演。またNHK BSプレミアムのドラマ「しずかちゃんとパパ」では笑福亭鶴瓶とダブル主演を務めた。
吉岡里帆 (@riho_yoshioka) | Instagram
中村倫也(ナカムラトモヤ)
1986年12月24日生まれ、東京都出身。2005年に俳優デビュー。主な代表作はドラマ「初めて恋をした日に読む話」(2019 / TBS)、「凪のお暇」(2019 / TBS)、「美食探偵 明智五郎」(2020 / 日本テレビ)、「この恋あたためますか 」(2020 / TBS)、「珈琲いかがでしょう」(2021 / テレビ東京)、映画「水曜日が消えた」(2020)、「ファーストラヴ」(2021)、「ウェディング・ハイ」(2022)など。そのほか2022年には映画「ハケンアニメ!」に出演するほか、「仮面ライダー BLACK SUN」(2022年秋配信)、主演作「MUSICAL『ルードヴィヒ ~Beethoven The Piano~』」(2022年10月・11月開幕予定)などを控えている。初のエッセイ集「THE やんごとなき雑談」が発売中。また、雑誌「ダ・ヴィンチ」にて、3月より新連載「中村倫也のやんごとなき雑炊」がスタートした。
中村倫也 (@senritsutareme) | Twitter
ジェニーハイ
BSスカパー!「BAZOOKA!!!」の知名度をあげるために始動したプロジェクト。音楽番組や音楽フェスなどへの出演を目標に、小籔千豊(Dr)、くっきー!(B / 野性爆弾)、中嶋イッキュウ(Vo / tricot)の3人で結成された。オリジナルメンバーのアプローチを受け川谷絵音(indigo la End、ゲスの極み乙女。、ichikoro、美的計画)がプロデューサー兼ギタリストとして加入したのち、小籔の推薦でピアニストの新垣隆がキーボーディストとして参加し現体制となる。目標であった音楽番組やフェスへの出演も重ね、2021年9月には初のアリーナ公演も開催。映画「ハケンアニメ!」主題歌となる「エクレール」には、同作に群野葵役で出演する高野麻里佳がゲストボーカルとして、また劇中アニメに出演する梶裕貴、潘めぐみ、高橋李依、花澤香菜も掛け声で参加している。
ジェニーハイ プロフィール | Warner Music Japan