歴代で一番何を考えているかわからないゴジラ(嶋佐)
──70年続いているということは、常に新しいドラマを作り出す苦悩も抱えます。クリエイターとして皆さんはどのようにご覧になりました?
赤坂 今ってリメイクをすることはリスクでしかないんですよね。どんなにクオリティの高い映像や技術を使ったとしても、面白くなるのかは別問題。なぜなら、今のエンタメが多様化・複雑化しているから。その点では、「ゴジラ-1.0」はかなり攻めの姿勢できて、しかもいいところまでいってると思います。
嶋佐 確かに難しいですよね。例えば先輩芸人がやられていた名作ネタを「じゃ、やってください。そのままじゃなくて、自分たちでアレンジして」と言われたら、めちゃ困る。
赤坂 完全に出尽くしている「銀行強盗」ネタとかを渡されてショートコントの新作を作れと言われたりしたら、困りますよね。
屋敷 それや。ほんとそれ。それこそ俺らの今の課題は「ジョンソン」ですよ……(※編集部注:TBS系で過去に放送されたバラエティ「リンカーン」の後継番組)。ゴジラみたいなもんで、番組が始まるときから過去の肩書は外してくれ、って思ってましたもん。
小出 周知が行き届いたネタほど、更新していくことは難しいですよね。
嶋佐 とすると、ゴジラの造形はダントツで新しかった。不気味で怖い。これまで観た中では一番怖いんじゃないかな。放射熱線の破壊力と、あれが放たれたときの絶望感、半端なかった。平成ゴジラのシリーズのほうが、もうちょっと優しかった気がする。そもそもなんでいつも日本に何度も来るのかわからない怪獣じゃないですか。今回のゴジラは、歴代で一番何を考えているかわからないから怖い。
赤坂 これまでだったら、ゴジラが襲ってきたら、国が用意した専門家や学者が出てきて、ゴジラに対抗する策を練り始める。けど、今回はそういう専門家がまったく出てこないし、ゴジラの目的も定かじゃない。
小出 基本は海に帰っていくし、レジェンダリー版では帰る場所があるから帰っていく、っていう設定。でも、今回のゴジラはそういった動物的なパターンが読めず、恐怖のシンボルとしたかったのかなと思いました。
子供たちには忘れられない記憶になる(小出)
嶋佐 今回のゴジラは、バカでかく見えたんですよね。
屋敷 4DXScreenだからじゃない?
──実はIMAX GTフォーマットでアップになるゴジラは、リアルに近い大きさだと監督がおっしゃってました。
小出 だとすると、今の子供たちにはいい意味でトラウマみたいな忘れられない記憶になる。海で船を追いかけるゴジラはかなり怖いですし、今まで描かれたことがなかったパターンです。
赤坂 水中戦ができるのは、VFXのおかげですよね。
嶋佐 あれってどうやってるんですか?
屋敷 まさか本当に海で撮った?
──ゴジラはもちろんCGですが、外洋まで出て撮っています。海洋撮影の経験豊富なスタッフでも一度は止めた、というほどです。
赤坂 海の実景とVFXの融合もすごいんですが、僕が気になったのはセット。すごいお金が掛かっていますよね、あれ。
嶋佐 え、まさかと思いますが、東京の焼け野原ってCGじゃないんですか?
──遠景はVFXで足してますが、美術スタッフが「土木作業」とぼやいたほど凝りに凝ったスタジオセットです。
屋敷 えー! めちゃくちゃお金掛かってる!
小出 山崎監督らしいですよね。これまでの作品でも、作れる範囲内はほぼ美術で作り込んでますから。画に入ってる情報量が詰めすぎくらいに詰まっている。
嶋佐 めちゃ丁寧なんですね。
赤坂 そこはさすが実写映画ですよね。実はアニメって背景を省略しちゃうんですよ。
屋敷 それはどうして?
赤坂 マンガでもそうなんですけど、背景をたくさん描き込んでしまうと、同じカットのときにまた大量に描かないといけないから。だから、アニメやマンガの背景をよく見ると、意外と置いてあるものが少ないんです。
嶋佐 4DXScreenで細かいところまで見えていたはずなのに、まったく違和感がなかった……。
屋敷 VFXの映画はあまりたくさん観てこなかったけど、大きいスクリーンで観たいと思う話ですね。
爆風の威力が容赦ない(屋敷)
小出 雨のシーンは日本らしい演出だな、と思いました。雨に降られて空に向かって叫ぶ。
屋敷 実際あったら絶対に叫ばないでしょうし、見上げないですよね。
嶋佐 目に入っちゃうもん。
赤坂 でも確かに感情描写としてはわかりやすいんですよね。マンガに描くとしたら、空を見上げて絶叫させるかも。海の話に戻りますが、決戦の地が海といえば傑作怪獣映画の「パシフィック・リム」があるじゃないですか。
嶋佐 あー! 好き! あの監督(ギレルモ・デル・トロ)は「ゴジラ」のファンですよね。
赤坂 なんせ出てくる怪獣は“カイジュウ”ですからね。あの作品以降の怪獣映画は、どこかであの影響を受けていて、リアルな路線にシフトしているんじゃないか、って思っているんですよ。
嶋佐 1990年代にハリウッドで作られた「GODZILLA/ゴジラ」とは大違いですよね。あれはまるでトカゲだった。
小出 ローランド・エメリッヒ監督の1998年版ですね。エメリッヒ版のゴジラを存在したものとして扱っている「ゴジラ・モスラ・キングギドラ/大怪獣総攻撃」という作品もありますし、最近も「ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!」でそれっぽい描写がありました。
赤坂 「ゴジラ-1.0」で最初に出てくるゴジラ、ちょっとエメリッヒ版っぽくなかったですか?
嶋佐 あー、ちょっと恐竜っぽかった。
赤坂 「シン・ゴジラ」ではまったく違う造形のゴジラが最初に登場し、成長による変態をして、全体像が見えるのは本当にラストパート。「隠す美学」なのかな、と思ったほど。
嶋佐 確かに。「シン・ゴジラ」で上陸したてのあれはゴジラだと思わなかったですから。
赤坂 そこをスパッと最初からゴジラを登場させた「ゴジラ-1.0」はスッキリしましたね。
嶋佐 ゴジラがアップになる銀座のシーンもすごかったですね。浜辺美波さんの電車のシーン。あれ、めちゃ怖いと思ったけど、その一方でどうやって撮ってるんだ?とも思いました。
屋敷 あと、爆風の威力も。容赦ない。
小出 電車の車両を狙うとか、銀座に襲来とか、そのあたりはゴジラの約束事を守ってるんですよね。
敬礼をちゃんと分けてるところに、おお!と思った(赤坂)
──細かい部分で気になったところは何かありますか?
屋敷 バイクがかっこよかった(笑)。
嶋佐 確かに! 見たことないほどデカいバイク。しかも、あんな焼け野原の時代に。
※編集部注:撮影には、戦後当時に存在していたメグロという車体が使われた。
小出 面白かったです。ゴツいバイクに乗って、ハイスペックな戦闘機に乗る。で、最後の作戦。そのあたりから急にフィクションのラインが上がった感じがありました。
赤坂 面白いですよね。僕もフィクションパートについては冒頭で感じました。空襲警報が鳴ったときって、電灯が全部消えて真っ暗になるはずなのに、映像的な都合なのか、ちょっと薄明かりが残ってるんですよね。時代考証をめちゃくちゃ真面目にやっていたことは、細かいところにも出てきているのに(笑)。ちなみに元陸軍の人と元海軍の人の敬礼の仕方をちゃんと分けてるところには、おお!と思いました。
小出 ラジオのアナウンサーがゴジラ襲来をニュース報道するシーンがあったり、ガイガーカウンター(放射線測定器)が初代で出てきたものと似た形だったり、オマージュもたくさんありましたね。
嶋佐 おおお。踏まえるところはきちんと。
屋敷 やっぱり何度か観ないとダメだな。
──役者の芝居や音楽に関してはいかがでしたか?
赤坂 皆さん素晴らしいですよね。強いて言うなら、浜辺さん演じる典子が、働いてる姿をもうちょっと観たかった(笑)。
嶋佐 確かに。働き始めてすぐにゴジラが来ちゃったから。
屋敷 それにしても浜辺さん、あの時代にいても違和感ないですよね。サザエさんみたいな髪型で。めちゃしっくりくる。
小出 神木さんにとっては、こういう役は珍しいんじゃないですか? これまでのキャリアだと朗らかな好青年役が多かったイメージですけど、今回はちょっとずるくて、人間の弱い部分を出してくる役。
赤坂 だからこそ闇堕ちして怖くなるんですよね。真面目な人ほど堕ちると怖い。
小出 吉岡秀隆さんの「学者」感もすごかったですね。
嶋佐 海に出るチームはすごくいいですよね。
赤坂 船の専門家で船長、オタクのような学者、それに鉄砲玉のような若者。チームとしてのバランスが非常にうまく取れていて、わかりやすい。子供たちに向けたスタンスなのかな、と思いました。
嶋佐 あるシーンで山田裕貴さんが途中から助っ人に来るところなんて、少年マンガみたいなノリですよね。ただ、あの作戦はどうかと思いますが(笑)。
屋敷 時間掛かりすぎやろ、って(笑)。
小出 音楽はすごくよかったですね。「シン・ゴジラ」では、初代ゴジラの音源からBPMを抽出して再現した劇伴も制作されたんですよね。庵野秀明監督の判断で劇中では使われなかったんですけど(笑)。今回はオリジナルを使うのか、新録を使うのか、って楽しみにしていたんですが、既存の曲から新録のスコアにつなげた。これはとてもうまいと思いました。
プロフィール
赤坂アカ(アカサカアカ)
新潟県出身。2011年に杉井光のライトノベル「さよならピアノソナタ」のコミカライズ連載をスタートさせ、マンガ家デビュー。2013年から「ib -インスタントバレット-」、2015年からは「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」を連載した。2022年よりマンガ原作者としての活動に専念し、原作を手がけた「【推しの子】」が2020年より連載中。同作は2023年4月よりテレビアニメ版が放送・配信され、第2期の制作も決定している。12月6日から21日まで、展覧会「赤坂アカの世界展~『かぐや様』『【推しの子】』『恋愛代行』にみる脳内探求~」が京都・大丸ミュージアムで開催される。
ニューヨーク
嶋佐和也と屋敷裕政による、2010年1月結成のお笑いコンビ。2018年には第3回上方漫才協会大賞の話題賞に輝いた。2019年と2020年に「M-1グランプリ」のファイナリストになり、2020年の「キングオブコント」では準優勝。主なレギュラー番組にTBS「ラヴィット!」「ジョンソン」、テレビ朝日「なにわ男子の『逆転男子』」、Abema「愛のハイエナ」などがある。ラジオ番組「ニューヨーク・小湊よつ葉のマジックミラーナイト」が毎週土曜に文化放送で放送中。Xではバラエティ番組「ニューヨークジャック」が隔週木曜に配信されている。
嶋佐 和也 KAZUYA SHIMASA (ニューヨーク NEWYORK) (@Shimasahead) | X
小出祐介(コイデユウスケ)
1984年12月9日生まれ、東京都出身。2001年に結成されたロックバンドBase Ball Bearのボーカルギター。アップアップガールズ(仮)、花澤香菜、KinKi Kids、Hey! Say! JUMPなどのアーティストの楽曲の作詞や作曲を手がけている。2018年、小出によるソロでもバンドでもユニットでもグループでもない新プロジェクト・マテリアルクラブが始動。2021年6月には詩集「いまは僕の目を見て」を発表した。Base Ball Bearの新曲「Endless Etude」は、2024年公開予定の映画「みなに幸あれ」の主題歌に決定している。
Base Ball Bear 小出祐介 (@Base_Ball_Bear_) | X
Base Ball Bear | ビクターエンタテインメント