銀河鉄道の父|役所広司と菅田将暉、親子役で初共演!親バカ×ピュアなダメ息子が織りなす愛のドラマ

役所広司が主演を務めた「銀河鉄道の父」が5月5日に全国公開される。

門井慶喜の同名小説を原作とする本作では、宮沢賢治の父・宮沢政次郎の視点を通して賢治の生涯と宮沢家の物語がつづられる。「ソロモンの偽証」「いのちの停車場」などの成島出が監督を務め、役所が政次郎、菅田将暉が我が道を行く長男・賢治、森七菜が賢くしっかり者の妹・トシに扮した。豊田裕大、坂井真紀、田中泯もキャストに名を連ねる。

映画ナタリーでは、映画の公開を記念して同作の魅力を伝えるレビューを掲載する。名俳優たちの共演、ひと足早く試写を鑑賞した人々の声、そして宮沢賢治に影響を受けたクリエイターの紹介によって、「銀河鉄道の父」を紐解いていく。

文 / 前田かおり

レビュー

名優・役所広司、菅田将暉、森七菜の心揺さぶる熱演

世界的な詩人であり、童話作家として知られる宮沢賢治。そんな彼の37年の生涯と家族の物語を父親・政次郎の視点で綴った門井慶喜著「銀河鉄道の父」をもとに映画化した本作。全編通して描かれるのは、賢治の才能を信じ、一番の味方であり続けた父親や宮沢家の家族愛の深さだ。

「銀河鉄道の父」より、役所広司演じる政次郎(左)と菅田将暉演じる賢治(右)。

演じるキャストも最高の顔ぶれが揃った。なかでも、成島出監督たっての希望で実現した父役の役所広司と賢治役の菅田将暉は初共演だが、2人が顔を合わせたシーンから、なるほど、この父にしてこの子ありと納得させる父子像を見せてくれる。

「銀河鉄道の父」より、役所広司演じる政次郎。

政次郎は厳格な父であろうとしながらも、幼い賢治が入院すると医者任せにはできないと病室に泊まり込むような男。明治生まれにしては珍しく子育てに熱心で子煩悩だった。つまり、とてつもなく親バカだったわけだが、役所は政次郎の厳しさと愛らしさをユーモアを交えて演じつつ、時に対立しても、根っこでは息子を信じ続け、ずっと寄り添う愛情深い父親を体現する。

「銀河鉄道の父」より、菅田将暉演じる賢治。

一方、父のあふれんばかりの愛情を一身に受けた賢治は、だからこそ純粋で夢見がち。跡継ぎ息子にもかかわらず家業を嫌い、農業や人造宝石づくり、宗教にと迷走するという親泣かせのバカ息子に育ってしまう。そんな賢治を坊主頭で少年期から演じた菅田は、何者かになろうと懸命に道を模索しながらも、純粋さゆえに不器用な生き方しかできずもがき苦しむ姿を熱演し、観る者の心を揺さぶる。紆余曲折を経て、賢治の紡ぐ物語の一番のファンになった政次郎と、ようやく生きる道を見つけた賢治を演じる役所と菅田。終盤の父と子の情感こもったドラマは涙なくしては見られない。

「銀河鉄道の父」より、森七菜演じるトシ。

賢治の創作の原動力にもなった妹トシ役には森七菜。菅田とはドラマ「3年A組 ―今から皆さんは、人質です―」で教師と生徒を演じて以来の共演で、本作では幼い頃、「日本のアンデルセンになる」と語った兄・賢治の夢を後押しするという役どころ。女子に教育など要らないという考えが強かった時代に、父を説得して女学校から東京の女子大へと進学した聡明でしっかり者のトシをのびのびと演じている。

「銀河鉄道の父」より、坂井真紀演じるイチ。
「銀河鉄道の父」より、田中泯演じる喜助(右)と役所広司演じる政次郎(左)。

また賢治の母で政次郎の妻イチ役には坂井真紀。我が道を邁進する賢治と、その息子に振り回される政次郎をいつも笑顔で見守る母の強さを演じる。賢治の祖父・喜助には田中泯。一代で質屋稼業を成功させた人物で、賢治に甘い政次郎を厳しく戒めるが、晩年には気弱な姿も見せる。脚本段階からあて書きだったというだけあって、田中が存在感たっぷりに演じることで、宮沢家の歴史や家族の物語に深みを与えている。そして、兄を慕い、賢治の代わりに家業を引き継ぎ、宮沢家を盛り立てていく弟の清六には注目の若手俳優・豊田裕大が扮している。

「発見だらけ」「愛あふれる作品」
試写鑑賞者から感動の声届く

生まれてから旅立つまで、どんなことがあっても信じてくれた父親と、心から愛し支えてくれる家族がいた宮沢賢治。37年間という短い生涯ながら、濃密で素晴らしい家族の愛にあふれた彼の物語と、豪華キャスト陣の渾身の演技に、ひと足早く試写会で観た人たちからのコメントがSNSにも上がっている。

「銀河鉄道の父」場面写真
「銀河鉄道の父」場面写真

まず多いのは、「苦労人というイメージがあったが、こんなにも素敵な家族に恵まれていたなんて驚きました」「こんなにも家族に愛されていたとは知らなかったので新しい発見だらけでした」という、教科書などで知っていた宮沢賢治とのギャップや、家族との物語に驚いたという声。また、家族愛の深さに感動したという声も多く、「父・政次郎の深い愛がなければ、作家・宮沢賢治は生まれず、作品も世に出ることはなかっただろう。そんな姿を見ながら、息子を思う主人と重なり、私の父を思い出した」と自分の家族と重ねてしまったという声や、「トシとの兄妹の愛にも心を揺さぶられました。最初から泣いてしまい、こんなにも温かい気持ちがずっと残る映画に出会ったのは初めてでした。今度はぜひ家族と観に行きたいと思います」という感想が寄せられた。

「銀河鉄道の父」場面写真
「銀河鉄道の父」場面写真

そのほか、「役所広司と菅田将暉の豪華共演が本当に素晴らしかった!」「喜怒哀楽全部のシーンがあって、全てに家族1人ひとりの優しさが伝わってくる愛あふれる作品でした。試写会場では笑い声やすすり泣く声が伝わり、自分もそうだけど、映画を観た全員の心に優しさや温もりが届いた素敵な映画でした」と大絶賛する声も数多く見受けられた。

松本零士、米津玄師、峯田和伸…
多くのクリエイターに影響を与える、宮沢賢治の世界

本作で宮沢賢治を演じ、劇中、彼の「星めぐりの歌」をチェロを弾きながら歌った菅田将暉。成島監督によれば、菅田も賢治の作品を愛読しているファンらしいが、そのように昔から宮沢賢治に影響を受けたクリエイターや作品は数知れない。わかりやすいところで言えば、「銀河鉄道の夜」にオマージュを捧げた「銀河鉄道999」を手掛けた松本零士がいるし、宮崎駿はインタビューで「となりのトトロ」のトトロは賢治の「どんぐりと山猫」がモチーフになっていると語っている。

「銀河鉄道の父」場面写真

また、賢治の「セロ弾きのゴーシュ」をアニメ映画化した高畑勲監督は「平成狸合戦ぽんぽこ」は「宮沢賢治へのオマージュである」と述べている。音楽界でも宮沢賢治好きは多い。近年では今をときめくミュージシャン、米津玄師が2020年に発表した「カムパネルラ」は「銀河鉄道の夜」をモチーフにしたと語り、インタビューなどで宮沢賢治好きを公言。2012年に発表した「恋と病熱」は、賢治の「春と修羅」からタイトルを借りていることをTwitterで認めている。

「銀河鉄道の父」場面写真

俳優としても活躍する峯田和伸は、GOING STEADY時代に、「銀河鉄道の夜」「夜王子と月の姫」を発表。ほかにも、ヨルシカが「よだかの星」をモチーフにした「靴の花火」という楽曲をリリースしているなど、賢治が作り出した唯一無二の詩や物語には時代やジャンルを超えて、今なおアーティトたちを刺激してやまない世界観がある。映画「銀河鉄道の父」は、そんな代表作のいくつかを史実とフィクションをからめて登場させているところも見逃せない魅力となっている。