「ゴーストマスター」ヤング ポール×小出祐介|アクセルを踏め!もっと踏め!“やりすぎ上等”のハイテンションホラーコメディが爆誕

すべて元ネタを飛び越えていく(小出)

──もともとが青春キラキラ映画の撮影現場を舞台としているので、「この表現はキラキラ映画でよく見るな」というパロディも登場するんですが、それ以外にも映画好きな人ほど反応するシーンが満載でしたね。

小出 元ネタがどうとかいう以前に、モンスター化した板垣(瑞生)さんに襲われた人たちが……(笑)。プロデューサー役の手塚(とおる)さんの見た目がえらいことになるんですけど、「普通だったら絶対死んでるのに何してるんだよ!」という描写がありますよね。

ヤング (笑)

小出 骨がすっごいことになってるじゃないですか。あれはもう美術さんが悪ノリしているとしか思えない。いい意味で、絶対にやりすぎてる! この映画はすべて元ネタを飛び越えていくんですよ。

左からヤング ポール、小出祐介。

ヤング まさにそうで、僕は「骨を出してくれ」とは言ってなかったと思うんですよ……。スタッフに「骨とか出したいんですよね」と言われて、「面白いですね、出しちゃいますか!」とOKしたら、説明されたビジュアルより骨が増えてるんですよ!

小出 (爆笑)

ヤング という経緯で、手塚さんのあのフォルムができあがりました。バンドでもこういうことってあるんじゃないかと思うんですけど、メンバーのやりすぎ問題にはどう向き合えばいいんでしょうか?

小出 いや、僕はやりすぎなぐらいのほうがいいと思うタイプなので、止められないです。

ヤング そうですよね。撮影中はもうお互い高め合っちゃって、最終的に体の構造として、どこの部位かわからないものも飛び出していて……。「これどこの骨ですか?」って聞いたら、「どこの骨っすかね……?」って(笑)。

小出 自分の想像していなかった悪ノリって、うれしいですよね。

ヤング 本当にうれしいんです。自分のイメージしているものを説明して、「はいはい、わかりましたー」ってその通りのものが出てきたときに、「その通りだけど……その通りじゃん!」って怒るのも違うじゃないですか。

聴いた瞬間「負けた……」と思いました(ヤング)

──本作の主題歌は小出さん主宰のマテリアルクラブが書き下ろした「Fear」です。ポール監督、最初に聴いたときはいかがでしたか?

ヤング 「小出さん、最高にヤバいな」と思いました。

小出 (笑)。ありがとうございます。

左からヤング ポール、小出祐介。

ヤング 正直、どういう曲がこの映画に合うんだろう、難しいなあと考えていたんです。小出さんにラップという提案をいただいたときも「ラップですか!? ほおー!」と思っていたんですが、完成したものを聴かせていただいたら、合うんですよ! 映画の内容を説明するんじゃなくて、映画が終わったあとに内容を拡張するものになっていて、よくこんな曲作っちゃうなあと驚きました。そもそも、どうやってあの構成を考えたんですか?

小出 最初は、Jホラーでラップをしたら面白そうだなというところから始まったんです。トラックのイメージを作るのに時間が掛かったんですけど、映画のラストシーンからどういう音が鳴り始めたらエンドロールが盛り上がるかなと思って、あっこ(福岡晃子)とアイデアの出し合いをしました。時間も限られていたので、あれこれ展開していろんなことが起きる曲はやめて、1小節をループさせて世界観を膨らませていこうという結論になったんですよ。

ヤング なるほどー。

「ゴーストマスター」

小出 で、歌詞を書き始めたんですけど、恐ろしく筆が乗ってすぐ書き終わりました(笑)。日頃から考えている好きな内容について思いっきり書けるので、すごく速くて。サビのメロディと歌詞はあっこが考えたんですけど、「リング」の主題歌(「feels like “HEAVEN”」)の「きっと来る~」みたいなテイストは欲しいよねということは伝えていました。

ヤング 歌詞は全部すごく好きで、映画に寄りすぎず離れすぎずという絶妙な距離感が心地よかったです。歌詞で特にツボに入った部分が1カ所あるんですが……。

小出 え、どこですか?

ヤング 「小中理論からネクロノミコンまで」っていう部分(笑)。小中理論(※1)とネクロノミコン(※2)をくっつけた人って初めてじゃないですか!?

※1 オリジナルビデオ版「ほんとにあった怖い話」などのホラー作品や「ウルトラマンティガ」などの脚本を手がけた小中千昭が、ホラー作品の表現手法について論じたもの。

※2 アメリカの作家ハワード・フィリップス・ラヴクラフトが創造した、クトゥルフ神話の中で重要なアイテムとして登場する書物。

小出 この話を宇多丸(RHYMESTER)さんに話したら、めっちゃ悔しがってくれましたよ。「俺が思い付きたかったのに!」って(笑)。この2つで韻を踏んだのは僕が最初で最後だな、よっしゃ!って思いました。

ヤング もう発明ですよね。

小出 最初から、歌詞に小中理論は絶対使おうと思っていたので、韻を踏める言葉は何かなーと考えたら「あっ、ネクロノミコンじゃん!」とひらめいて。勝ったと思いました。

ヤング 曲を聴いた瞬間「負けた……」と思いました(笑)。

答えは聞かなくていい(小出)

──いよいよ12月6日に公開ですが、ひと足先に鑑賞されている小出さんの「ここに着目してほしい」というシーンはありますか?

左からヤング ポール、小出祐介。

小出 そうだなあ……。個人的に一番笑ったのが、やっぱり手塚さんのシーンですね。けっこう長い時間骨が出たまんまなので「まだ死なないのか!」「何本骨が出てるんだ!」という点が僕としては見どころです。あと、あるキャストが耳なし芳一状態になるんですけど、そこも好きでした。2018年(の撮影時)に耳なし芳一……“今やる!?感”があってよかったです。

ヤング “今やる!?感”ばっかりの映画ですね、言われてみると。

小出 でも何より一番好きなのは、終わり方ですね。「こんなに作品世界が膨らんでいって、最後はどう終わるんだろう?」と考えながら観ると、「こう来るのか!」と思わせてくれる。解釈は人それぞれあると思いますけど、作品は受け取った側が想像してなんぼだと思うので、あえて答えは聞かなくていいんじゃないかと思います。

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2019年12月9日更新