「ゴーストマスター」ヤング ポール×小出祐介|アクセルを踏め!もっと踏め!“やりすぎ上等”のハイテンションホラーコメディが爆誕

三浦貴大と成海璃子がダブル主演を務め、ヤング ポールがメガホンを取った「ゴーストマスター」が12月6日に公開される。第2回TSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILMで準グランプリを獲得したポールの企画を原案とする本作は、キラキラ青春映画の撮影現場が悪霊にとりつかれた脚本「ゴーストマスター」によって惨劇の舞台へと変わるさまを描いたホラーコメディだ。

公開を記念し、映画ナタリーでは本作で長編監督デビューを果たしたポールと、主題歌「Fear」を手がけたマテリアルクラブの小出祐介との対談をセッティングした。映画好きとして知られる小出ならではの見どころが語られるほか、Jホラー愛に満ちた「Fear」のある歌詞に、ポールがまさかの“敗北宣言”をする場面も? また、あるキャストのビジュアルについての裏話も明かされており、本作鑑賞後にこのインタビューを再度読むことをお勧めする。音楽ナタリーでは、ヤングとキャストの成海璃子、本作の劇伴を担当した渡邊琢磨の鼎談を近日公開予定。

取材・文 / 佐藤希 撮影 / 曽我美芽

スペインのガチな「イエーイ!」(ヤング)

小出祐介 海外の映画祭にもたくさん呼ばれているそうですが、作品の反響はどうですか?

ヤング ポール

ヤング ポール スペインのシッチェス・カタロニア国際映画祭では、あるキャストが殺されるシーンで観客の半数が「イエーイ!」って言ってました(笑)。半数は「キャー!」なんですけど、もう半分はスペインのガチな「イエーイ!」です。キラキラ映画からどんどんブラッディな世界に変化していく、この映画の象徴的なシーンだったので、その場面を喜んでもらえてうれしかったです。

──小出さんは、ご覧になっていかがでしたか。

小出 一言で言うと、「粗削りだけど光るものがある」というか。すみません、偉そうですけど……。

ヤング いえいえ!

小出 僕自身の映画の好みとしては、誰が観ても完成度が高くて、脚本も撮影も編集も音楽もすべてがしっかりと作られていて、素直に「よかったなー!」と思える映画よりも、むしろ観終わってから「これ面白かったのかな?」と考えて、一拍置いてから好きだったかもと思える作品のほうが好きなんですよ。「ゴーストマスター」も一拍置いてから、言語化できない謎のエモさが湧き起こってきて、印象に残りました。

ヤング ありがとうございます!

小出 言葉で説明するのは難しいんですけど、最後まで観ると、「あのエモさはなんなんだ」という反芻が止まらないんですよ。その感じがすごくよかったんです。

ヤング 文字にすると逃げていく何かって、ありますよね。

ものすごく、ド初期衝動が詰まっている(小出)

小出 ポール監督はもうこんな映画は二度と撮れないんじゃないか、とも思ったんですよ。ものすごく、ド初期衝動が詰まっているので。

ヤング それ、周りからすごく言われるんですよ(笑)。「ポールくん、次大丈夫なの? 何やるの?」って聞かれるんですけど、作っているときはそんなことは考えていませんでした。「肩ぶっ壊れるかもしれないけど、とりあえず投げるぞ!」というスタンスだったので、次の作品の心配はしていなかったです。

小出祐介

小出 次にもし、「ゴーストマスター」よりバジェットの大きい商業映画をやることになったら、間違いなく制約は多いし、いろいろ考えなきゃいけないことは多いじゃないですか。そこと、自分のエモーションのバランスをどう取るかという問題も出てくると思いますし。ですけど、この映画はTSUTAYA CREATORS' PROGRAM(TCP)の受賞作として制作されているので、監督が全力投球できる環境だったというのが、映画の出自としてもよかったんじゃないでしょうか。

ヤング そうですね。今回、映画化が決まってからは楠野(一郎)さんという脚本の方と一緒に作業を進めていったんですけど、TCPに参加するときはすべて自分が脚本を書いていたので、やっぱりすごく思い入れもあるんです。そうなると、バランスの取り方が難しくて。

──というと?

ヤング ほかの人の企画なら「ここはこうすれば面白くなるんじゃないか」という技術的なアプローチや、自分が理解できるポイントを探すという、一歩引いた立場での仕事の仕方になるんですけど、今回は僕自身の作品なのでアクセルを踏みすぎてしまうんですよ(笑)。とてもうれしいことに、周りもやる気があるスタッフばかりだったので、そこで僕がブレーキを踏むわけにもいかないじゃないですか。アクセルを踏みまくった結果、できた映画です。

──みんなが「やろうぜやろうぜ!」って盛り上がっているところで、監督が尻込みするわけにもいかないですよね。

小出 自分だけポンピングブレーキ踏んでたら、周りに「なんでお前がビビってんだよ!」とか思われそうですもんね。

「ゴーストマスター」

ヤング みんなで狂っていったというか、狂騒状態の中で作っていきました。「アクセルを踏め! もっと踏め!」って(笑)。けど、そのこと自体はハッピーだと思っていました。いい意味で仕事っぽくない空気がスタッフの中に漂っていたので、「こんなことやりたいです」っていう提案があったり、「監督はこうしたいって言ってましたけど、それつまんないと思います」って言われたり、みんな前のめりでやってくれたので、そこが作品にも出ていると思います。

小出 「それつまんないと思います」ってハッキリ言えるスタッフさん、すごいですね。危うくスベりかけたところを救ってくれた(笑)。

ヤング (笑)。でも、自分のこうしたいっていう希望に対して、「はいはい、こんな感じでしょ」って言った通りの仕事をやるんじゃなくて、もっと面白くしよう!っていうみんなの気持ちがこの映画を形作っているんです。

成長も描きたいと思っていた(ヤング)

小出 お話を聞いていると、やっぱり映画って、監督がイニシアティブを握るけれど、基本的にはチームプレイなんですね。

ヤング ある監督の言葉なんですけど、「監督は、課長や部長クラスの能力があればできる」と。いろんな人たちの思いを受け止めて、交通整理しつつ映画を作っていくことが主になるので「俺の思い、理想のビジュアル、ストーリーはこれだから、お前らこれを100%再現してくれよな!」ということではないと思うんです。そうなっちゃうと、自分のイメージした枠から出られないので。

──本作で言うと、三浦貴大さん演じる助監督・黒沢明も、疲弊しきった現場でスタッフやキャストの意見を交通整理しようと奔走しています。今のお話を聞くと、黒沢は監督向きの人物だったということなんでしょうか?

「ゴーストマスター」より、三浦貴大演じる黒沢明。

ヤング 最初は上から怒られて、ダメダメな助監督だったんですけど、幸か不幸かホラーな世界に放り込まれ、周囲の人たちの信頼も得て撮影というクライマックスに向かっていく。黒沢明の成長物語としても観てほしいなと思っています。

小出 「クロサワアキラの成長物語」って、言葉の響きだけだとこいつ何言ってんだ?って思いますよね(笑)。

──黒澤明監督と同音異字ですからね……。

ヤング小出 クロサワアキラの成長物語(笑)。

ヤング 三浦さんもキャスト紹介のときに「黒沢明役の三浦貴大さんでーす!」って言われるのがキツいって言っていました。


2019年12月9日更新