「ジオラマボーイ・パノラマガール」山田杏奈×鈴木仁 / 瀬田なつき|岡崎京子の言葉×変わりゆく東京の風景、今しか撮れないボーイミーツガールムービー

瀬田なつき監督インタビュー

街の変化は今しか撮れない

──瀬田さんは「ジオラマボーイ・パノラマガール」を監督することになる前から、岡崎京子さんの作品を読まれていたのでしょうか?

好きでした。なので今回プロデューサーから「岡崎京子さんの原作で何か作りませんか?」というお話をいただいて、ぜひやりたいです!と返事しました。

──この作品は瀬田監督のリクエストだったんですか?

扱う作品を検討しているときに、プロデューサー側から提案がありました。実は当時はまだ「ジオラマボーイ・パノラマガール」を読んだことがなくて。タイトルに惹かれてすぐ読んでみましたが、「どう映画化すればいいのだろう?」と感じました。1つひとつのエピソードはすごく面白いけど、時代的な要素がけっこう大きい話なのと、バラバラにいろいろなエピソードが詰め込まれていて、どんなふうに映画の形にまとめればいいのだろうと。

──そこで物語の舞台を1980年代から現代に変えたのはどうして?

瀬田なつき

撮影したのは去年になりますが、原作に描かれているバブルで開発が進む30年前の東京と、東京2020オリンピックを控えて街が変わろうとして、いろんな場所で工事をしている今の東京の風景が重なると思ったんです。それに、そういう街の変化は今しか撮れないので、オリンピック前の東京の姿を映画の中に残して、そこに生きる若者を描く、という方向でやろうと考えました。

──変わりゆく街と、刻々と変わっていく10代の若者たちの姿を重ねる?

そうですね。あと、原作には“刺さる”言葉やイメージがたくさんあって、それらをなるべく生かしたかった。岡崎さんの言葉は今も全然古びていないですよね。今の東京の風景と原作の言葉をハイブリッドさせることで、不思議な時間を映画の中で作れたらいいなと思いました。

──確かに映画が始まって最初のうちは、1980年代なのか現代なのかわからないですね。そんな中で、ハルコが友達に小沢健二の「LIFE」のレコードを貸します。原作にはないシーンですが、岡崎さんへのオマージュを感じさせますね。

岡崎さんと小沢健二さんのつながりももちろんありますが、私も小沢さんの楽曲を好きだったので出してみました。小沢さんは試写を観てとても気に入ってくださって、感想や、温かいメールをいただきました。

──それは心強いですね! 岡崎さんはご覧になったのでしょうか。

岡崎さんも映画を観てくださいました。小沢さんのTシャツを着て、ベレー帽をかぶって試写に来てくださって、グッときました。めちゃくちゃ緊張したのですが、観終わって、喜んでくださっていて、この映画を作れて本当によかったと思いました。

一緒にハルコを作っていける

──原作のキャラクターを映画的に肉付けするのは大変だったのでは?

最初は、原作のハルコみたいにすごく軽くて何をしでかすかわからない天然の女子高校生が実際にいるのではと思い、いろんな方に会ってみました。でも、なかなか難しくて。そんなときにドラマ「セトウツミ」でご一緒した山田さんのことを思い出しました。そのときは撮影が1日だけでしたが、ちょっとやり残したような気がしていて。もっとすごいことが、彼女から引き出せたんじゃないかと勝手に感じていたんです。

──原作のキャラクターに合わせたキャスティングではなく、山田さんにキャラクターに近付いてもらう。

そうですね。すごく、真面目な方なので、一緒にハルコを作っていけるんじゃないかと思いました。

──映画を観ていたら、山田さんの顔の雰囲気が岡崎さんに似ているなと感じる瞬間もありました。

「ジオラマボーイ・パノラマガール」

確かに。あの凛々しい眉とか似ていますね。撮影に入る前に眉が見えるまで前髪を切ってもらったのですが、山田さんは耳もキュートなんですよね。

──ケンイチ役の鈴木仁さんは何が決め手だったのでしょうか。

本人の雰囲気がケンイチみたいなところです。ひょろっとしていて、天然っぽいけど憎めなくて、なんだかつかみどころがない感じが。メガネをかけると、原作のケンイチにも似ていて。

──山田さんとは反対に、素がキャラクターに近かった。

でも演じるとなるとケンイチについていろいろ考えてしまうみたいで。今回は撮影前に下準備期間を作って、リハーサルを重ねながら鈴木くんと役について探りました。鈴木くんのままで芝居をするにはどうしたらいいのかって。

──ケンイチの天然な感じは意識してやるとあざとくなってしまいますよね。

そうなんですよ。ケンイチは突然学校を辞めちゃったり、何をするかわからないキャラクターで、ちょっと間違えると嫌なヤツになってしまう。鈴木くんが演技するとかっこよくなってしまうところがあって、「そんなに力を入れなくてもいいよ」と伝えました。その難しいバランスの調整をがんばってやってくれました。

──ハルコに関してはどんなふうに役作りしていったのでしょうか。

山田さん本来のキャラクターとハルコをうまくシンクロさせていきたくて、山田さんが最初に演技したものをなるべく生かしながら探っていきました。演技がちょっと重くなっちゃうときがあって、“軽く”というのはけっこうお願いしたかもしれないですね。

──そういえば、山田さんはこれまでこういう元気な女子高生の役はあまり演じてこなかったですよね。

重い役というか、しっかりした役が多かった。本人もそういう落ち着いたタイプなのかもしれないですね。だから「自分が思っているより若干キャッキャした若い感じで!」とか言ったりしました(笑)。

──ハルコを中心にした仲良し3人組のアンサンブルは、毎回キャピキャピしていましたね。

それぞれはバラバラなタイプの女の子だけど、3人集まると変なエンジンがかかってチャーミングにドライブすればいいなと思って、撮影中は「動いて! 動いて!」と声を掛けてとにかく、動きながら、セリフの掛け合いをしてもらいました。