鈴木仁としても、森田望智さんに振り回された(鈴木)
──誕生日のシーンも印象的でしたね。部屋の中を2人でずっと動きながら演技していて。
山田 あれは大変でした……。
鈴木 どこを歩いたらいいんだろう?と思ったよね。なんか止まっちゃうんですよ。
山田 私もあのシーンは全然できなかった。現場でリハを何時間かやらせてもらって、みんなで探っていった日があったよね。
鈴木 あったね。動き方に決まりがなかったので、どちらかがハチャメチャな動きをすると両方ハチャメチャになってしまうんですよ。
山田 そう。だから、お互いに様子を見ながらやっていきました。どのシーンも動きを決められていなかったので、楽しくやらせてもらいましたね。
──ハルコ、カエデ、マルの仲良し3人組のアンサンブルも楽しかったです。
山田 あれも3人の関係を作るのがけっこう難しかったです。(役を演じた)3人とも“個”という感じの人たちなので、3人のノリで一緒に動くときにスッとハマるための空気感は、リハーサルで作っていきました。学校のシーンは長回しが多くて現場で演じながら作ったところもありますけど、面白くできたと思います。
鈴木 うらやましいなあ。ケンイチはすぐ学校を辞めているから、ずっと1人だった(笑)。
──ケンイチが学校を辞めるときに先生にしたとんでもない行動には、彼らしい突拍子のなさがありました。
山田 あれ、楽しそうだった!
鈴木 あのシーンが一番テイクを重ねたんだよね。
──ケンイチはマユミとの絡みでは一方的に振り回されていましたね。
鈴木 鈴木仁としても、森田望智さんにはずっと振り回されてました(笑)。森田さんはもともとマユミに近いところがあって、オフのときもマユミみたいでした。
山田 すごく自由な方でしたね。森田さんはカメラが回っていないときもずっとさすらっている感じで、見ていて面白かったです。
鈴木 いきなりヨガのポーズを始めたりして、何をやりだすかわからない! 最初は付いて行くのがやっとで、監督に「がんばって!」と言われていました。やっと付いて行けるようになってからは、歳上のマユミに対するケンイチの憧れみたいな感じが出るようになって、ちょうどいい距離感になったと思います。
──ケンイチの背伸び感が出てましたよね。瀬田監督の演出についてはどう思われましたか?
山田 現場では、ハルコのちょっとしたしぐさに関する指示が多かったんです。ここでちょっと振り返るとか、回ってみるとか。でも、なぜ振り返るのか?という説明はなくて。理由がわからないまま動いていましたが、完成した映画を観るとハルコらしさが出ているし魅力的に見える。それはすごいなと思いました。
鈴木 そうそう。あと現場で生まれたものをすごく大切にされる方だなと思いました。ちょっとしたミスはNGにならないんですよ。
山田 確かにそうだね。
鈴木 (成海璃子演じる)姉ちゃんとのシーンでお茶がこぼれたのなんて、ハプニング中のハプニングですよ(笑)。じゃれ合っている場面で投げたクッションがカップに当たってしまって。そういったハプニングもNGにせずにきれいに使ってくださる監督です。
岡崎さんと瀬田さんの魅力の融合が楽しい(山田)
──お二人にとって、岡崎作品の面白さはどんなところにありますか?
山田 私はずっと岡崎京子さんが原作の作品に出たいと思っていました。「ジオラマボーイ・パノラマガール」は読んだことがありませんでしたが、「リバーズ・エッジ」や「ヘルタースケルター」は読んでいて。岡崎さんは言葉1つひとつがすごく魅力的ですよね。あと、ケンイチとハルコもそうですが、登場人物が突拍子もない行動を取るじゃないですか。それを実写にする、しかも瀬田さんが撮ると聞いて、どうなるんだろう?と興味が湧きました。最初は岡崎さんと瀬田さんが結び付かなかったけど、映画を観たら瀬田監督の「ジオラマボーイ・パノラマガール」になっていて、岡崎さんと瀬田さんのどちらの魅力も感じられる。その融合が楽しかったですね。
──確かにそうですよね。鈴木さんはいかがですか?
鈴木 日常の感覚で理解できそうだけど、理解できすぎないのが原作の魅力かなって思っています。ケンイチやハルコに寄り添えそうだけど、彼らにはちょっと現実離れしているところもある。現実に近いけど異世界感があるっていうのは、ほかのマンガにはない感覚なのかなと思います。
──リアルとファンタジーの間で揺れ動く浮遊感みたいなものがありますね。そんな中で、岡崎さんの作品では東京という街が大きな役割を果たしています。この映画でも独自の視点で今の東京を捉えていましたが、お二人から見て東京はどんな街ですか?
山田 (鈴木に)東京出身だよね?
鈴木 そう、地元。東京は進化が絶えない街というか、毎日変わっていきますよね。この映画でも工事中の場所を魅力的に見せていますが、東京は変わり続けているからこそ全部を知りきれない気がします。そういうところが好きですね。
山田 私はいい意味で他人に興味がないというか、“個”の集まりの街という感じがして好きです。いろんなところからいろんな人が来ていて、それぞれに向かう場所がある。東京だと撮影をしていてもみんな興味なさそうだし。
鈴木 慣れているんじゃないかな?
山田 慣れているというのもあるし、自分が向かう先がはっきりしている人が多いから気にしないんだと思います。それぞれが自分の目標に向けてがんばっているから他人のことが気にならない。
──自分の好きにさせてくれる街?
山田 本当にそうですよね。「私はこんな感じだけど、別にいいですよね」というのが受け入れられる環境。居心地がよくて、自分にはすごく合っていると思います。
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瀬田なつき監督インタビュー
街の変化は今しか撮れない