SABUがEXILE NAOTOに求めたのは“かっこ悪さ”、「DANCING MARY ダンシング・マリー」対談&ソロインタビュー

SABUが監督、EXILE NAOTOが主演を務めた「DANCING MARY ダンシング・マリー」が11月5日より全国で順次公開されている。

本作は市役所職員・藤本研二と霊能力を持つ女子高生・麻田雪子が、解体予定のダンスホールにすみ着いた幽霊マリーの恋を成就させようと奔走するヒューマンコメディ。無気力に日々を過ごす藤本を演じたNAOTOは本作で長編映画単独初主演を飾った。

今回映画ナタリーではSABU、EXILE NAOTOにインタビューを実施。対談パートでは初タッグを組んだ2人がそれぞれ互いの印象を語る。またソロインタビューでは、SABUがブチ切れシーンで見せたNAOTOの身体能力をたたえ、NAOTOは“夢が叶っている瞬間”を日々噛み締めた撮影現場を振り返った。

取材・文 / 熊谷真由子撮影 / 須田卓馬

SABU×EXILE NAOTO対談

かっこ悪さを出してくださいと言ったら「もちろん!」と(SABU)

──2018年に撮影された本作で初タッグを組んだお二人ですが、お互いの第一印象を教えてください。

SABU 芝居に対してこんなに真面目な方だと思っていなかったんですよ(笑)。そしたら映画が大好きで芝居にとても本気の方だったので、そこは第一印象とまったく変わりました。現場でも役者向きの人だなと日に日にわかりましたね。

EXILE NAOTO いやいや(照)。

SABU クランクイン前に、かっこいいNAOTOはEXILEや三代目 J SOUL BROTHERSでやってください、こっちはかっこ悪さを出してくださいと言ったら「もちろん!」と答えてくれたのが特にうれしかったです。

SABU

SABU

NAOTO 僕はもうずっとSABU監督の作品が好きでしたし、役者として出演されている作品も観ていましたし、監督としても役者としてもずっと追っていた存在だったんです。それで、お会いしたときは佇まいに迫力がありました(笑)。寡黙でハードボイルドで厳しい方だと勝手に思っていて、クランクインまでそういうイメージがあったんですが、いざ撮影に入ったら監督の優しい一面にばっかり触れて。すごいギャップでした。

SABU そう?(笑)

NAOTO ただ、撮影中いつかSABU監督のハードボイルドな一面が出てくるんじゃないかと思って、きちんと映画に集中してその一面だけは引き出さないように意識していました。

SABU 最近、別の現場ではハードボイルドな一面をバンバン出してますけど(笑)、この作品では全然なかったですよ。あと、実はNAOTOくんをイメージして書いた脚本が本作とは別にあるんです。

NAOTO それを読ませていただいたんですけど、自分が演じたらこうなるかなとか、SABU監督が撮るならこうなるんじゃないかとか、妄想が膨らむ作品で、すごく面白かったんです。いつか実際に撮れたらいいなと思います。

SABU 実現したらいいですね。「ダンシング・マリー」がバンバンヒットしたらあるかもしれない。

NAOTO 俺に懸かってますね、がんばります!(笑)

EXILE NAOTO

EXILE NAOTO

──その作品の内容は? アテ書きのNAOTOさんはどんな役なのでしょう。

SABU ちょっと暗い感じの主人公です。

NAOTO 妄想の中の華々しい瞬間と、現実とのギャップがすごくあるんですよね。でも誰しも妄想する世界が描かれています。

SABU この作品よりもっとロマンチックになりそうだね。

僕は監督の作品の純粋なファン(NAOTO)

──ところで「DANCING MARY ダンシング・マリー」はコロナ禍以前の撮影でしたが、ロケ地の北九州では一緒に食事に行かれたりしたことはあったのでしょうか?

SABU 焼き肉に行きましたね。

NAOTO 撮影中に1度、行かせていただきましたね。そのときは「藤本の心情はこうなんでしょうか」といった話をさせていただきましたが、それ以前に僕は監督の作品の純粋なファンなので、単純に「あの作品はどうだったんですか?」と自分の質問もぶつけました。「ポストマン・ブルース」「弾丸ランナー」「MONDAY」とか、本当に好きなんです。特に「ポストマン・ブルース」のほのぼのしているんだけど、周りが振り回されていく絶妙な感じはほかに見ない作品だと思います。オリジナルで面白いって最強ですよね。

SABU ありがとう(笑)。

SABU ソロインタビュー

攻めじゃないとイヤ

──本作の着想はどこから得たのでしょうか?

もう20年くらい前ですかね。シカゴ国際映画祭に行ったとき、そこのスタッフとおばけ話になって、近くにある古いダンスホールにマリーっていう女の幽霊が現れるという話を聞き面白いと思ったんです。そこから着想を得てシナリオを書きました。

──実際に“ダンシング・マリー”がいたんですね!

きっかけになったその話では単純に夜な夜な霊が出てきて踊っているだけで、誰かを恨んでいるとかはなかったんですけど、なんとなく切なそうというか、美しいイメージが頭に浮かんだのでそこから話を膨らませました。

──ちなみに監督作では必ず脚本も一緒に執筆されますよね。

デビュー作からずっとですね。俺なんて役者上がりだから、オファーを待っていても来ない。役者時代にもつまらない台本が多かったから自分で(物語を)考えたほうがいいっていうのが始まりなんですよね。どれだけ勉強したところで話が来ないと何もできないのが性に合ってない。攻めじゃないとイヤなので自分で脚本を書いて、できるだけ1年に1本のペースで動いてきました。

SABU

SABU

NAOTOくんが想像を超える動きをしてくれたので感動しました

──本作でEXILE NAOTOさんが演じた主人公・藤本は、これまでのSABU監督作品の情けない主人公に通じるものがあると思いました。

藤本を公務員の設定にしたのは、今はどうかわからないですけど、俺の時代では公務員って堅くて無難で安定している職業というイメージだったからなんです。言われたことしかやらないとか責任を取らない主人公にしたら面白いかなと思ったのと、仲間内で責任を押し付け合ってダラダラした雰囲気を出せたらいいなと思いました。

──後半、藤本が自分の“役目”を見つけて、殻を破っていくさまがよかったです。

でも、実はそんな簡単に人は変わらないじゃないですか。そういう意味では藤本もずっと逃げようとし続けます。藤本は俺のイメージする普通の男で、劇的に変わったり燃えたりしない。でも初めて追い込まれて感情が爆発して、最後の最後にやっとブチ切れる。その後に「自分は努力したことなんてなかった」というような告白はありますが、結局そんなには変わらないと思う(笑)。ただ、一歩くらいは踏み出せたということだと思います。

──藤本のブチ切れシーンは圧倒されました。どのように演出されたのでしょう?

パイプ椅子などは実際に体に当たっても大丈夫なものを用意しましたが、まあ、当たったら痛いです。痛いけどみんな我慢(笑)。長回しで撮るので、だいたいのカメラのコースを決めて、あとはNAOTOくんの身体能力に期待した部分と、足元の砂利で砂埃がすごく立つだろうという計算があって、ああいう画になりました。NAOTOくんが想像を超える動きをしてくれたので感動しましたね。

──はちゃめちゃに動いているように見えて、ちゃんと計算しながらだったんでしょうね。

そうですね。距離感なども意識しながら動いてくれたと思いますし、もちろん逃げるほうにもきちんと逃げてもらって。藤本より逃げる相手のほうが余裕があるんですよね。そこが切なく見えるから、かっこいい方向には持っていかないようにしました。かっこ悪さの中にかっこよさがしっかり出るようにしたいという話をNAOTOくんとしたら、すごく理解してくれて。あのシーンはNAOTOくんのあの動きがあってナンボですね(笑)。

──いい意味で言うんですが、あのシーンの藤本、かっこ悪かったです(笑)。

コケ方1つとってもね(笑)。砂利なんでNAOTOくんは痛かったと思うんですけど、3テイクくらい撮りました。

事務所の方に「俺のNAOTO」と

──NAOTOさんは長編映画初主演でしたが、役者としての印象は?

最初に会ったときからすごい好青年でした。しかも「ポストマン・ブルース」が大好きですと言ってくれたので、俺の中でますますいいヤツ!ってなったんですけど(笑)。衣装合わせでちょっと話したときに、EXILEとか三代目 J SOUL BROTHERSのNAOTOくんと今回の役はちゃんと切り離してくださいと言ったら、NAOTOくん本人は俺以上にそういう考えで。できるだけEXILEや三代目 J SOUL BROTHERSのことは忘れてほしいと思っている、役者としてちゃんと見てほしいというタイプでした。

──役所の人という堅い雰囲気が出ていましたし、作業着っぽい上着も似合っていましたね。

めっちゃ似合っていましたね。あんまり役場の人は着ないかもと迷ったんですが、ユニフォームとしてそろえたらいいかなと思い、着てもらった瞬間にもう公務員にしか見えなかったので、正解でしたね。本人もあれを着たら気持ちが切り替えられたそうなのでいいアイテムでした。

EXILE NAOTO演じる藤本研二。

EXILE NAOTO演じる藤本研二。

──演技面はいかがでしたか?

初日に雪子と2人でダンスホールに行くシーンを撮ったんですけど、恐る恐るという演技や、霊が見えて驚くリアクション芝居がけっこう大きかったので、これはどうかなとちょっと焦ったんです。それで話してみたら、NAOTOくんは全開からだんだん落としていくやり方だったようで、そのあとからはセリフ1つの言い方にしても、すごく俺好みの芝居だったのでうれしかったです。テイクを重ねるごとによくなりました。

──ではクランクインとアップの日では全然違った?

はい、そうですね。事務所の方に「俺のNAOTO」って言うくらいでしたから(笑)。それくらいよかったです。役やセリフの意味を理解し、飲み込みをちゃんとしてくれているので、説明なんかしなくても全然大丈夫でした。

──SABU監督は現場で役者にはあまり演出を付けないタイプですか?

役者によりますね。マリーとジョニーのデートシーンはすごく細かく言いました。2人の芝居でなんとも切ない感じを出したかったので、ジャケットの裾をちょっときゅっと持つとか、初めて頼ってもいいって思ってしまったという表現をしたいなと思ったので。

──デートシーン、素敵でした。ジョニーの破天荒さに少しびっくりしながらもマリーが楽しんでいて、はかなげだけどイキイキしていました。

俺もすごい楽しみだったシーンです。意外と俺、デートシーンが好きなんですよ(笑)。

アニキの回想シーンは「昭和残侠伝」のパロディ

──石橋凌さんについても教えてください。とてもかっこよかったです。

かっこよかったですよね。いつも一緒にやっているアクションの小池(達朗)さんにイメージを伝えるとアクションコンテを作ってきてくれるんです。そこからまた絵コンテにして、石橋さんご本人に説明してというやり方でした。石橋さん演じるアニキの回想シーンで刺青が入っている背中をカメラが追っていくシーンは、高倉健さんの「昭和残侠伝」シリーズのパロディです。

石橋凌演じるアニキ。

石橋凌演じるアニキ。

──苦労されたことはありましたか?

撮影時期が本当に寒かったんです。北九州の地元の人でもこんな寒いのは初めてだと言うくらいでした。雪が降って雷も鳴っているという荒れた天気ですごかったです(笑)。障子の向こうに降ってる雪は本物ですね。石橋さんは上裸でしたが、一言も寒いとは言わなかったです。

──台湾でヤクザと戦うシーンと、この回想シーンでは、アクションの雰囲気がガラッと違っていました。

そうですね。回想シーンはある意味、様式美。スローモーションなのでそういう印象が強いと思います。光の入り方や雪の舞い方、障子などの和もののかっこよさや美しさを意識しました。台湾のほうは群衆とのやり取りなので泥臭く激しいイメージでしたね。