アヌシー国際アニメーション映画祭2016の長編部門で、グランプリにあたるクリスタル賞と観客賞をダブル受賞したストップモーションアニメ「ぼくの名前はズッキーニ」が2月10日に公開される。亡き母に付けられた愛称“ズッキーニ”を大切にしている9歳の少年が、心に傷を抱えた友人たちとの出会いや交流を通して成長していく。
映画ナタリーでは映画の封切りを前に、日本語吹替版で主人公ズッキーニに声を当てた峯田和伸と、ズッキーニが一目惚れするカミーユを演じた麻生久美子にインタビューを実施。作品の感想やアフレコへの意気込み、互いの印象などを語ってもらった。ほかに日本語吹替キャストの浪川大輔のコメントや制作過程に迫る紹介記事も展開する。
取材・文 / 伊東弘剛 写真(1P~2P)/ 岩崎美里
峯田和伸×麻生久美子 インタビュー
初めてのときはいつも麻生さんが隣にいる(峯田)
──まずは吹替を引き受けた理由から教えてください。
峯田和伸 麻生さんがいるって言うから(即答)。吹替は初めてだし、大丈夫かな?と思ってたんですが「麻生さんとリリー(・フランキー)さんが出るっぽいよ」って聞いて。経験はないけど楽しくできそうだなと。
麻生久美子 初めに峯田さんが決まっていることと、声優は初めてというのを聞いたんです。そのときは、また峯田さんとやらせてもらっていいの?と思いました。最近よくお仕事させていただいているので、なんか峯田さんのバーターみたいになっちゃってないかなって(笑)。
峯田 (笑)。僕の初めてのときはいつも麻生さんが隣にいてくれています。
麻生 ほんとだー。ヤバい、バーターだ(笑)。
峯田 初めて映画(「アイデン&ティティ」)に出たときも、初めてのドラマ(「奇跡の人」)のときも、今回も。もう恩人です。
麻生 私、なんにもしてないよー。そう言われると困っちゃう。
峯田 麻生さんがいなかったら僕何もできてなかったです。本当に。
麻生 そんなわけない(笑)。
──峯田さんはクロード・バラス監督が来日された際お会いしたそうですね。そこでも麻生さんのことを絶賛されていたとか。
峯田・麻生 (笑)
峯田 そう、監督にも直接伝えたんですよ。「カミーユ役の人は僕にとって運命の人だ」って。そしたら監督も喜んで「ベストキャスティングだ」って言ってくれました。
子を持つ親として考えさせられた(麻生)
──作品を観た感想を教えてください。
峯田 感動しました。フランス語のオリジナル版を観て、物語の内容はもちろんなんですけど、声優を務めた子供たちの飾ってない声が、すごくよくて。あと人形を使ったストップモーションアニメだからこそ、ズッキーニたちが大人のように見える瞬間もありました。大人の中にある子供の部分がデフォルメされて表現されているようで、自分とも重なりましたね。もちろんもう9歳や10歳ではないけど、そういう部分はどんな大人の中にだって残ってる。子供の時代があって今があるわけだから。だからズッキーニたちの気持ちがわかるわけだし、この映画を観て自分の中のその気持ちを強く感じました。
麻生 孤児院が舞台だと聞いてから観たので、あまり楽しい話ではないんだろうなと覚悟はしていたんですけど、やはりグサッときました。子供たちが置かれている状況が切なくて、胸が痛くてたまらなかったです。もう元気に笑っているだけで泣けてくるんですよ。特に終盤のシモンが本当に切なくて。でも、そんな中でも子供たちは成長して明るく前向きに生きていく。その姿を見て、子を持つ親として考えさせられました。長いとは言えない上映時間の中で子供たちのバックボーンもしっかりと描かれ、どれぐらい理解できるかわからないけど自分の子供たちにも観せたいと思いました。
──印象に残ったシーンを教えてもらえますか?
峯田 ブランコに乗ってるカミーユを僕(ズッキーニ)が押すシーンがあるんですけど、音楽の効果もあり不思議な感覚になりましたね。なんか麻生さんと2人でブランコで遊んでいる感覚になっちゃって(笑)。
麻生 (笑)
峯田 そのシーンでカミーユから秘密がバレてることを知らされるんですけど、そのあとに映るズッキーニの顔のアップがめちゃくちゃいいんですよ。なんとも言えない顔で、俺もこういう顔したことある!って思えて。スイスの監督が作ったアニメだけど、子供の顔ってどこの国の人でも変わらないし、同じ心を持っていると思えてうれしかった。
麻生 私は、カミーユが初めて登場する場面のズッキーニの顔。一目惚れをするとき子供ってこういう顔をするんだなって。子供が一目惚れをするところってあんまり観たことがないから新鮮でした。それと、終盤のカミーユの涙。いろいろなことが想像できて胸が締め付けられるんですけど、とてもきれいな涙だなと。
──印象に残ったセリフはありますか。
峯田 レイモンとズッキーニやカミーユの関係を知ってしまったあとに、シモンがズッキーニに向かって言うセリフがカッコよかった。初めは意地悪なガキだなと思ったけど、本当はいいヤツなんですよね。
麻生 シモンの「皆、同じさ。誰にも愛されていない」みたいなセリフが観終わって一番心に残っていました。孤児院の子たちってこういうふうに思っちゃうのかなって。考えさせられるセリフでしたし、大人たちで何かできたらいいのになと思いました。
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麻生さんはカミーユであり、メーテルであり、ミューズ(峯田)
- 「ぼくの名前はズッキーニ」
- 2018年2月10日(土)公開
- ストーリー
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ママが付けた“ズッキーニ”という愛称を大切にしているイカールは、いつも屋根裏部屋で1人絵を描いて遊んでいた。そんなある日、ビールを飲んでは怒ってばかりだったママが不慮の事故で帰らぬ人になってしまう。事故を担当した警察官のレイモンは、ズッキーニを不憫に思いながらも、孤児院・フォンテーヌ園に連れていく。入園初日からクラスメイトでリーダー格のシモンによる手痛い洗礼を受けるズッキーニ。しかし、ズッキーニの心の傷を知ったシモンは、自分もほかの子供たちもそれぞれに複雑な事情を抱えながら園生活を送っていることを明かす。ズッキーニはシモンと心の痛みを共有する友人となり、ほかの仲間たちとも楽しい日々を過ごしていく。そんな中、園にどこか大人びた少女カミーユが入園。ズッキーニと意気投合したカミーユは、園を照らす太陽のような存在になっていく。だが、カミーユの叔母が扶養手当欲しさに姪を引き取ると言い出し、園に乗り込んできて……。
- スタッフ
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- 監督:クロード・バラス
- 脚本:セリーヌ・シアマ
- キャスト
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- 声:ガスパード・シュラター、シクスティーヌ・ミュラ、ポーラン・ジャクー、ミシェル・ヴュイエルモーズほか
- 日本語吹替:峯田和伸、麻生久美子、浪川大輔、リリー・フランキーほか
- 「ぼくの名前はズッキーニ」公式サイト
- 「ぼくの名前はズッキーニ」公式 (@boku_zucchini) | Twitter
- 「ぼくの名前はズッキーニ」公式 (@bokuzucchini0210) | Facebook
- 「ぼくの名前はズッキーニ」作品紹介
©RITA PRODUCTIONS / BLUE SPIRIT PRODUCTIONS / GEBEKA FILMS / KNM / RTS SSR / FRANCE 3 CINEMA / RHONES-ALPES CINEMA / HELIUM FILMS / 2016
- 峯田和伸(ミネタカズノブ)
- 1977年12月10日生まれ、山形県出身。1996年にロックバンドGOING STEADYを結成し、CDデビュー。2003年、GOING STEADY解散後に、ソロ名義で銀杏BOYZを始動させる。その後、バンド体制となった銀杏BOYZの活動と並行し、2003年公開の主演作「アイデン&ティティ」で銀幕デビュー。以降も「少年メリケンサック」「色即ぜねれいしょん」「ボーイズ・オン・ザ・ラン」「ピース オブ ケイク」などの映画や、「植物男子ベランダー」「奇跡の人」、NHK連続テレビ小説「ひよっこ」といったドラマに出演。2019年放送の大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」への出演が決定している。
- 麻生久美子(アソウクミコ)
- 1978年6月17日生まれ、千葉県出身。1995年公開の「BAD GUY BEACH」で女優デビュー。1998年に公開された「カンゾー先生」での演技が評価され、第22回日本アカデミー賞の新人俳優賞をはじめ多数の賞を獲得する。その後、黒沢清が監督した「ニンゲン合格」「回路」、相米慎二の遺作「風花」、こうの史代のマンガを原作にした「夕凪の街 桜の国」、アボルファズル・ジャリリがメガホンを取った「ハーフェズ ペルシャの詩」などに出演。「時効警察」をはじめドラマでも活躍しているほか、銀杏BOYZトリビュートアルバム「きれいなひとりぼっちたち」では歌声を披露している。出演作「散り椿」が2018年9月28日に封切られる。