映画ナタリー Power Push - 「ぼくのおじさん」

白鳥久美子(たんぽぽ)/ 山下敦弘インタビュー ダメダメだけど癒やしてくれる、“おじさん”の不思議な魅力

山下敦弘インタビュー

山下敦弘

普段と違う部分の脳みそを使った

──本作を山下監督の過去作と比較すると、「もらとりあむタマ子」のようなまったりした空気がありながらも、セリフが文語調なせいかまたひと味違った印象がありました。意識された点はありますか?

「ぼくのおじさん」撮影現場の様子。

やっぱり言葉ですね。北杜夫さんが原作を書かれた時代のしゃべり言葉というか、もともとおじさんは言い回しが独特ですし。いつもと違う部分の脳みそを使いながら、(松田)龍平くんと探り探りやっていきましたね。(大西)利空を含めていろんな子供たちが来てくれた子役オーディションのときに、あのセリフ回しでずっと進めていったので、それを見ながらつかんでいったところはあります。意外と、ああいうセリフは子供のほうがすんなり言ってくれるんですよ。

──そうなんですね。

「ぼくのおじさん」より。

まあ、基本棒読みの子もいましたけど(笑)。オーディションをやりながら、これはあんまり現代の言葉に直さないほうが面白いなと思いましたね。

──子役の選び方も、これまでの作品とは違いますよね。例えば「天然コケッコー」だったらもっと自然体な子を選ばれていたというか。

そうそう。利空もそうだし、妹役の小菅汐梨ちゃんも、あくまで自分の中では子役らしい子役を選んだつもりですね。「天然コケッコー」のときは芝居のうまい下手は抜きにして、子役ではない“子供”を選んでた気がします。でも今回はある意味、子供の“役者”を意識して。迷いもあったんですけど、プロデューサーの根岸(洋之)さんに意見を聞いたら「おじさんがボケで雪男がツッコミ。2人ともナチュラルだと、ボケボケになってしまう」って。なるほど!と思いましたね。

──今回は企画者の須藤泰司さんが、春山ユキオ名義で脚本を手がけていますね。山下さんが監督を務めると決まったとき、もう脚本は完成されていたんですか?

須藤さんが「苦役列車」をすごく気に入ってくれていたそうで、1度一緒にやりたいと言ってくださって。お話をいただいた時点で、龍平くんの主演と、前半の日本パートの脚本はできていたんです。エリーさんが登場するまではほぼ原作に近い形なので、それ以降のハワイパートを含めて、僕も一緒に考えていきました。

龍平くんは、映画を作り続ける中でずっと見てきた人だった

──松田さんとご一緒されるのは初めてですよね。

>「ぼくのおじさん」撮影現場の様子。

そうですね。龍平くんと僕は、ほぼデビューが一緒なんですよ。俺はまだ学生時代でしたけど、長編デビュー作「どんてん生活」が1999年で、龍平くんのデビュー作「御法度」も同じ年。ざっくり言うと、自分が映画を作り続ける中で、ずっと見てきた人だったんです。独特の空気感を持っていて、とがった役も多かった龍平くんと、いつか一緒にやりたいと思っていて。いつ、どういう映画でやるかをずっと探ってたら今回ぽんとこの企画が来て、この映画で龍平くんとやるっていうのは面白いなと。僕はこういうぐうたらな人間を撮るのは比較的得意ですが、それを龍平くんとやるのは想像できなかったというか、興味深いなと感じました。

──自分のことを“おじさん”と呼ぶ松田さんは初めて見ましたし、おじさんが雪男を呼ぶときの「ゆきおー」という独特のイントネーションは頭から離れなくなりました。演出するうえで気を付けたところは?

「ぼくのおじさん」より。

龍平くんと一緒に作り上げていった感じです。「ゆきおー」の言い方も、僕ではなく龍平くんから出てきたものだったんですよ。さっきも言ったようにデビューが一緒という気持ちなので、龍平くんのほうが歳下だけど先輩後輩っていう関係でもなく。僕から「こういうおじさんで」ってお願いするようなことも言ったとは思うんですけど、明確にイメージがあったわけではなくて。でも龍平くんが普段持ってる謎のオーラや説得力は、おじさんと共通する部分がありますよね。まあ今回の映画に関しては、その説得力も子供にしか通用しないわけですけど(笑)。あの何を考えてるのかわからない部分というか、相手に考えさせる部分は、龍平くんもおじさんも同じだと思います。

──撮影時期は違うかもしれませんが、山下監督の近作「オーバー・フェンス」には松田翔太さんが出演されていますよね。ご兄弟を連続で演出して、いかがでした?

2人は持っている資質が全然違うんですけど、翔太くんにしても龍平くんにしても、ふとおやじさんのことがよぎる瞬間があるのは一緒でしたね。やっぱり、僕ら世代は松田優作の作品を観て映画を好きになったので。ふと気を抜くと、たまにおやじさんの影がスッと出てきて、ドキッとしたこともあったし。だけど、それぞれが独立した役者だと思うし、性格も違うし。まあ……単純に言うとすごい兄弟だなって思いますよね(笑)。

「ぼくのおじさん」

映画『ぼくのおじさん』

ストーリー

「自分の周りにいる大人について」をテーマに、作文の宿題を出された小学4年生の雪男。そこで、居候している父親の弟、“おじさん”を題材にすることに。そんなある日、おじさんにお見合いの話が舞い込む。気乗りしないおじさんだったが、そこに現れたハワイ生まれの日系4世で絶世の美女・エリーに一目惚れ。しかしエリーは、亡き祖母のコーヒー農園を継ぐため、ハワイへ帰国してしまう。彼女と再会するためになんとかしてハワイへ行こうと、おじさんは策を練り始める。

スタッフ / キャスト

監督:山下敦弘
原作:北杜夫「ぼくのおじさん」
脚本:春山ユキオ
出演:松田龍平、真木よう子、大西利空、戸次重幸、寺島しのぶ、宮藤官九郎、キムラ緑子、銀粉蝶、戸田恵梨香

山下敦弘(ヤマシタノブヒロ)

1976年8月29日生まれ、愛知県出身。1999年に大阪芸術大学芸術学部の卒業制作として手がけた「どんてん生活」が高い評価を得る。2005年の「リンダ リンダ リンダ」がヒットし、2007年の「天然コケッコー」では報知映画賞最優秀監督賞を最年少で受賞。ほか代表作に「マイ・バック・ページ」「苦役列車」「もらとりあむタマ子」「超能力研究部の3人」「味園ユニバース」など。2016年には「オーバー・フェンス」が公開されたほか、松江哲明とともにいまおかしんじ監督作「あなたを待っています」のプロデュースも担当した。