「ベートーヴェン捏造」山田裕貴×古田新太×関和亮 音楽の天才を愛しすぎた男の狂気とは?バカリズム脚本で描かれた“今の時代とのリンク”

ベートーヴェンをシンドラーが介護するシーンはずっと観ていられる(関)

──今回、山田さんと古田さんは「ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~」に続いて2度目の共演でしたが、古田さんから見て山田さんはどんな役者ですか?

古田 演じるうえで役を信じる力が強いと思うんです。オイラは何も信用していないんで(笑)、一緒に演じていて頼りになるんです。役者によって、信じる力が強かったり弱かったりするんですよ。信じる力が強い人は、いろいろな役になりきることができる。逆にあまり信じられない人は、何を演じても“その人自身”のまま。

左から山田裕貴、古田新太

左から山田裕貴、古田新太

──なるほど。スター級の役者さんは役を信じて別人になりきるより、“その人自身”であることを求められることがありますよね。それがキャラクターの魅力につながるので。古田さんの話を聞いて、山田さんはどう思われますか?

山田 すごくうれしいです。自分はいろいろな役を演じ分けられる人になりたいと思っているので。「ヒノマルソウル」で共演したとき、自分の思いをわーっとしゃべるシーンがうまくいかなくて、古田さんが「『すごい』というセリフをもう1回続けてみたら?」ってアドバイスをしてくれました。そしたらセリフに気持ちが通った気がしたんですよね。僕が見たところ、古田さんは共演者にアドバイスするタイプの人ではないような気がしていて。それでも指導してくれたのは、僕に興味を持ってくれたからだと思うんですよ。それがすごくうれしくて、もっといろいろなところで褒めてほしいです(笑)。

──いい評判を広めてほしいですね(笑)。監督から見て、古田さんと山田さんの絡みで印象に残ったシーンはありますか?

 病気になったベートーヴェンをシンドラーが介護するシーンですね。シンドラーは寝たきりのベートーヴェンにごはんを食べさせようとするんだけど、なかなかうまくいかない。

「ベートーヴェン捏造」より、シンドラー(右 / 山田裕貴)がベートーヴェン(左 / 古田新太)を介護するシーン

「ベートーヴェン捏造」より、シンドラー(右 / 山田裕貴)がベートーヴェン(左 / 古田新太)を介護するシーン

山田 口に運ぼうとするんだけど、ベートーヴェンがしゃべり出すからやめて……という繰り返しなんですよね(笑)。

 そうそう(笑)。「ベートーヴェン、もういいよ!」って。ずっと観ていられる面白いシーンで、バカリズムさんもあの場面は好きだと言ってました。

──山田さんは劇中の演技に加えてモノローグもあるじゃないですか。映画の中で、シンドラーはずっと自分の心境を語っている。芝居とモノローグのバランスの取り方が難しかったのではないですか?

山田 それが一番難しかったですね。シンドラーの感情を演技で表現するべきか、それともナレーションで表現したほうがいいのか、どっちがいいのかわからなくて。ナレーションはあとから加えたんですけど、それって曲を作ってあとから歌詞を乗せるような感じに近いと思うんですよ。ナレーションの入れ方でお芝居が与える印象も変わってくるので、もはや「モノローグが本編かもしれない」という心境になりました。

山田裕貴

山田裕貴

 モノローグは何パターンも録りましたね。毎回それを聞いて、山田くんが「ここを少し録り直したい」って言ったり。

──あとでモノローグを入れることを意識して演技するというのも大変ですね。

山田 完成した映像を観たときに「ここはもうちょっとこうしておけば、モノローグが生きたのに……」と思うシーンも出てくるのかなと。あと、バカリズムさんの作品で登場人物が感情をあふれさせるようなイメージがなかったんです。例えば大声で泣いたりとか……。だから演技をする際はなるべく抑え目にしていたのですが、それが合っているかわからないままモノローグ録りに入ったのも難しかったですね。

山田裕貴

山田裕貴

中学生が先生に告げるラストの一言にゾワッと / この映画は“今”を描いている(山田)

──監督は脚本に関してバカリズムさんとどんな話をされたのでしょうか。

 脚本の方向性に関しては全面的にお任せしました。結果、バカリズムさんがすごく面白い台本を書いてくださったのですが、初めは量がものすごくて。それをどんなふうに2時間に収めるのか、バカリズムさんと何度も話し合いましたね。でも、最終的にバカリズムさんがどうしても書きたいと言っていたところは全部残しました。

──脚本を読んでどんな感想を持たれました?

 シンドラーの異常さを描いていますが、ある種の芯の強さを持っている点が印象的でした。もしかしたら、シンドラーとバカリズムさんは通じるところがあるのかもしれないと思いましたね。だからシンドラーの内面を、あんなに細やかに書けるんじゃないかって。

関和亮

関和亮

──なるほど。バカリズムさんと付き合いがある古田さんはどう思われますか?

古田 どっちかというとバカリちゃんはベートーヴェンタイプですよ。

山田 あー!(納得)

──天才肌という点で?

古田 そう。バカリちゃんは“思い付き”が面白い。

古田新太

古田新太

山田 バカリズムさんと話をしたとき、「脚本を書く前に原作を読まないといけないから困った」と言われたんですよ。「自分はマンガくらいしか読まないから」って。あんなに面白い文章を書くのに、意外だと思いましたね。

古田 ベートーヴェンタイプだから、活字を読まなくても文章が書けるんだよ。

山田 なるほど!

──ベートーヴェンタイプのバカリズムさんがシンドラーを主人公にした物語を書く、というのも面白いですね。完成した映画を観て、古田さんはどんな感想を持たれました?

古田 シンドラーもベートーヴェンも友達にはなれないですね。ベートーヴェンがグダグダ言ったら、とりあえず「黙ってろ!」って殴っとく(笑)。

「ベートーヴェン捏造」より、左から古田新太演じるベートーヴェン、山田裕貴演じるシンドラー

「ベートーヴェン捏造」より、左から古田新太演じるベートーヴェン、山田裕貴演じるシンドラー

 実力行使に出る(笑)。

古田 でも、ベートーヴェンよりシンドラーのほうが面倒くさいなあ。殴ったら余計ニコニコしそうで。「殴られちゃったよ~(笑)」って。

山田 全然、痛さを感じないでしょうね(笑)。

──そのゆがんだ愛情が暴走して、ベートーヴェンを捏造してしまったわけですね。

山田 僕はそこがこの映画で一番刺さったところでした。真実がわからないまま、あたかも真実であるかのように語り継がれていく。映画の冒頭と終盤には現代のシーンが登場しますが、中学生が音楽の先生に告げるラストの一言に、僕はゾワッとしたんです。もしかしたら、今の世の中にあふれかえっているフェイクニュースが、事実として語り継がれてしまうこともあるんじゃないかって。だから、この映画は“今”を描いている話でもあるんじゃないかと思います。バカリズムさんは、そこも強く意識されていたんじゃないでしょうか。

「ベートーヴェン捏造」場面写真

「ベートーヴェン捏造」場面写真

──確かにそうですね。過去を題材にしながら現代を描いている。

 バカリズムさんの脚本を映像化する、という難題からスタートした作品でしたが、できあがった作品を観ると予想以上に壮大な作品になった気がしますね。

──歴史上の人物の隠れた事実を描く、という点でも本作は興味深い作品でしたが、古田さんが今後演じてみたい歴史上の人物はいますか?

古田 織田信長!(即答)

山田 おおー!

──それもハマりそうですね。そして、山田さんは信長に仕えた森蘭丸を演じるとか(笑)。

山田 いいですね! やりたいです。

 じゃあ、次は時代劇ということで(笑)。

左から関和亮、山田裕貴、古田新太

左から関和亮、山田裕貴、古田新太

プロフィール

山田裕貴(ヤマダユウキ)

1990年9月18日生まれ、愛知県出身。2011年に特撮ドラマ「海賊戦隊ゴーカイジャー」で俳優デビュー。2022年にエランドール賞新人賞、2024年に第47回日本アカデミー賞話題賞を受賞した。主な出演作にドラマ「ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と」「どうする家康」「君が心をくれたから」、映画「東京リベンジャーズ」シリーズ、「BLUE GIANT」(声の出演)、「キングダム 大将軍の帰還」「ゴジラ-1.0」「木の上の軍隊」など。10月31日に「爆弾」の公開を控える。メインパーソナリティを務めるラジオ番組「山田裕貴のオールナイトニッポン」がニッポン放送で毎週月曜25時よりオンエア中。

ヘアメイク / 小林純子
スタイリング / 森田晃嘉

古田新太(フルタアラタ)

1965年12月3日生まれ、兵庫県出身。大阪芸術大学在学中、劇団☆新感線の公演「宇宙防衛軍ヒデマロ」に出演し、その後同劇団の看板役者に。2008年に「小森生活向上クラブ」で映画初主演。主な出演作に、連続テレビ小説「あまちゃん」「とと姉ちゃん」やドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」「俺のスカートどこ行った?」「不適切にもほどがある!」「となりのナースエイド」「モンスター」、映画「空白」「ヴィレッジ」「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」など。11月28日に「栄光のバックホーム」の公開を控える。

ヘアメイク / 田中菜月
スタイリング / 渡邉圭祐

関和亮(セキカズアキ)

1976年5月9日生まれ、長野県出身。アーティストのMVを数多く手がけ、代表作にサカナクション「アルクアラウンド」やOK Go「I Won't Let You Down」、星野源「恋」、Perfume「ワンルーム・ディスコ」、藤井風「燃えよ」などがある。バカリズム脚本作品「かもしれない女優たち」ほかドラマ作品の監督も務め、2021年に「地獄の花園」で商業映画デビュー。2025年5月に監督作「かくかくしかじか」が公開された。