ケンコバさんレベルでシャバくない人はいないですよ!(嶋佐)
──ところで「ビーバップ」シリーズを代表するフレーズとして「シャバい」というものがありますよね。実は今回ニューヨークさんのお二人に来ていただいたのは、「シャバい」というフレーズをテレビで使ったり、YouTubeでも「芸人にとって何がシャバくて何がシャバくないのか?」という動画をアップしていたという理由もあるんです。お二人は「シャバい」を現代によみがえらせたのではないかと。
ケンコバ え、「シャバい」をニューヨークがよみがえらせたの!? 俺はずっと言い続けていたけど。
嶋佐 それなんですが、僕らはまず「シャバい」が普通に使われていると思ったんですよ。
ケンコバ そうやんな。公用語やんな。
──皆さんにぜひ聞きたいのですが、昨今「自分は今、シャバくないだろうか?」と自問自答しすぎて、逆に悩んでいる人がいるように思います。そういう自意識とうまく付き合うためのアドバイスをもらえますか?
屋敷 俺らが「シャバい」と言っていたら、特に若手が「シャバい」「シャバくない」を気にするようになったのは感じますね。SNSでファンと仲良くなったりするのはシャバいのか?とか。
嶋佐 いわゆる社会人の方とかも気にしたりするんですか?
──僕の周りで聞くのは、たとえば会社で「シャバい」と思われるのが嫌で、やらなくてもいいことやっちゃう、みたいなパターンはありますね。
屋敷 ようわからんメシ会に顔出しまくるヤツはシャバいんじゃないかとか。
嶋佐 そっか、そういうのがあるのか。
屋敷 芸人で言うと、今って俺らの若手時代より“シャバいトラップ”が多いじゃないですか。SNSやTikTokをやるとか。「シャバい」と言われがちな場が多いから、余計に悩むんだろうなぁと思います。
ケンコバ まぁ、シャバくない人のほうが珍しいですもんね。俺は「俺以外、全員シャバい」とマジで思ってるから。
嶋佐 いや~、ケンコバさんは一番シャバくないですよ。
ケンコバ SNSに触れた時点でシャバ憎ですからね。他人にどう見られたいのか? 他人は何をしているのか? 俺は他人とズレていないか? 今、世の中はどうなっているのか? 俺は取り残されていないのか? そんなのが気になるからSNSに触れるわけでしょう。基本的には。
──はい、基本的にはそうだと思いますが……。
ケンコバ シャバっ!
屋敷 ケンコバさんはバケモノみたいな人やから。
ケンコバ 俺は現代(の若者)に生まれていてもSNSは絶対やらないもん。自分の基準を自分で決められんへんのか、シャバっ!ってなる。
嶋佐 ケンコバさんレベルでシャバくない人はいないですよ!(笑)
ケンコバ いないいない。俺以外にはいない。
嶋佐 でも、ちょっと思うのは、ケンコバさんみたいなシャバくない人って、かわいさがありません?
ケンコバ よくわかってくれたね。俺、かわいいやろ?
嶋佐 シャバくない人って、目がかわいいんですよ。ケンコバさんなんて、逆に童貞に見えるときがあります。
ケンコバ お前、ケンドーコバヤシ評論家としてやっていけるよ!
嶋佐 僕が思うのは、シャバいことをしてしまうのは、ケンコバさん以外はしょうがないんですよ。でも一個譲れないものを持って、それを譲らずに守れたらいい。そこのあんばいというか。中途半端が一番よくないなと思いますね。
屋敷 「シャバい」と言えば、ノブオ役の古川勉さんがInstagramをやられてて。
ケンコバ インスタやってんの!? シャバいなぁ!
屋敷 いやいや(笑)。でも、プロフィールに「BE-BOP-HIGHSCHOOL全作出演 兼子信雄役」と書いてあったんです。それをシャバいと思う人もいるかもしれないけど、僕はすごくかわいいと思いましたね。今の年齢でも「代表作は『ビーバップ』」って言えることが、すごくいいなって。
何を整合性取ってるねんな、俺たちお笑いごときが(ケンコバ)
──では、話を映画に戻しまして。皆さんからまだ「ビーバップ」を観たことがない人に向けて、「ビーバップ」の見どころを教えてください。
屋敷 アクションシーンとかはもちろんなんですが、絶妙にコンプラがゆるい感じですね。何気にすごいと思ったのは、主人公の2人がヒロインの今日子の家に行って、トイレでたばこを吸うシーン。吸い終わったたばこをトイレの給水タンクの上のところに捨てるじゃないですか。あんなん今やったらめっちゃ悪じゃないですか? でも、確かに昔を振り返ってみると、ラーメン屋の器でたばこを消してる人とかおったなと。そういうちょっとした価値観の違いを追うだけでも、90分、全然楽しめると思いますね。
嶋佐 アクションもいいですけど、ギャグもめっちゃ面白かったです。
屋敷 サッカーのシーンとかめちゃくちゃやし。
嶋佐 あれはマジで面白かった。真面目にサッカーをしてたら、急に喧嘩して、最後はシュート決めて。
ケンコバ あそこ、オーバーヘッドキックでプツっと切れて、次のシーンは普通の生活に戻っとるんよな。
屋敷 そうそうそう!
嶋佐 あの編集は今のお笑いが見直すべきところというか、お笑いが失くしてしまったものというか。整合性ゼロ、でもめっちゃ余韻があるんですよ。
屋敷 最後のオーバーヘッド、絶対にゴールに入らんやろって角度やったし。
嶋佐 そこで止まって、すぐ次のシーン。
ケンコバ 日常に戻って。
嶋佐 あとはノブオがヒロシとトオルを追いかけてる途中で転んで冷凍車に突っ込んで、出てきたら一瞬で凍ってるみたいなシーンも笑いました。ああいうのいいですよね。
ケンコバ いいよね。整合性の取れてなさが素晴らしい。
嶋佐 あそこまで整合性が取れてなかったら、逆にめっちゃ面白いですよね。
屋敷 だから終わり方も「勝ったー!」でいいんやろうなぁ。
ケンコバ そうやな。何を整合性取ってるねんな、俺たちお笑いごときが。
──では、ケンコバさんはいかがでしょうか?
ケンコバ 見どころで言うと、デパートのシーンで、どこかの事務所が売り出したいバンドが演奏しているところですね。映画と関係あらへんのに、1.5曲くらい、けっこうしっかり目でやってて、ちゃんとバンドの演奏を(カメラで)抜いて。露骨すぎて今だと嫌がられそうですけど、その粗さがまたいいというか。
屋敷 プロモーションですもんね(笑)。
ケンコバ あとは笑ってしまったシーンで言うと、僕は原作ファンだったんで……。「マンガを実写にしてしまうと、こうなるよな」となるシーンは多々ありますよね。少女隊の乳を求めるシーンとか。マンガやから笑えてたんやなぁと。(編集部注:第4作「高校与太郎狂騒曲」には、当時のアイドルである少女隊のトモ・レイコ・ミホが、中学生の里子・百合・エミ役で出演。ヒロシとトオルが中学生のマサオから喧嘩の助っ人を頼まれ、そのお礼として里子たちが「私たちの乳、吸わせてあげる」と申し出るという今では考えられないシーンがある)
屋敷 それは生々しいってことですか?
ケンコバ 生々しいねん。「乳~! 乳、吸わせろ~!」って。
──えっと、初見の方にお薦めのポイントで言うと……?
ケンコバ そういうところです。
──(笑)
ケンコバ でも、今の若者が観たらどう思うやろうな?
屋敷 おもろいと思いますけどね。
嶋佐 釘付けにはなると思います。感覚的には、「トロン」みたいな映画を観ているのと変わんないっす。SFじみていました。
屋敷 これが社会的なヒットになったという事実込みで興味深いですね。
ケンコバ でも俺、ニューヨークが高校同士の関係性はわかってなかったの、ほんまにめちゃくちゃショックやわ。
屋敷 いや、わからんですよ。
ケンコバ ってことは、俺の「念力出すか~?」とか、「おっ、『ビーバップ』ですね」ってわかってもらえてなくて、流されとったんやな。(編集部注:「念力出すか~?」は、2作目「高校与太郎哀歌」における城東工業生徒のセリフ。テルたちは複数人で襲ったトオルを後ろ手で縛り、「頭割られて縛られてんのに、どうしようってんだ!」「念力出すか~!」と罵りながらリンチを加える。「ここから逆転するには超能力でも使うしかないぞ」という意味の、詰んでいる相手への煽り)
嶋佐 もちろんっす。
屋敷 やから「ビーバップ」を観ると、「これケンコバさんや!」ってなると思いますよ。
ケンコバ あ! それはあるかも!
屋敷 お笑い好きには、そういう見方もオススメですね。
ケンコバ 俺、くっきー!(野性爆弾)、あとはザコシ(ハリウッドザコシショウ)か。このあたりは「ビーバップ」のセリフを、はしばしに放り込んでるから。「ビーバップ」を知らんであろう人たちのところにも放り込んでて。しかも俺は受け止めてくれてると思ってたからね。そしたら流されていたっていう……。
屋敷 映画を観たら「ケンコバさんのノリってこれか!」とわかるかもしれないです。
ケンコバ 「念力出すか~!?」って、どっかで聞いたことあるって思うかもしれんな。
嶋佐 やっぱすごいよなぁ、青春時代の作品って。
屋敷 そうなぁ。ずっと残ってるってことやもんな。
ケンコバ ただ……屋敷、演技のことだけは言わんといてくれ。
屋敷 それはケンコバさんが言わんから、俺も言わんようにしてたんですが……。
ケンコバ そこだけは那須監督も目をつぶってたんやと思う。この映画はそうじゃない、と。勢いが必要やと。だから「ビーバップ」ってパンクロックなんよね。粗さで勝負しているというか。こんなに粗いのに、なんでこんなに心に来るねんやと。
屋敷 歌がうまいとかじゃないんですよね。でも皆さん、顔の演技は完璧でした。
プロフィール
ケンドーコバヤシ
1972年7月4日生まれ、大阪府出身。大阪NSCに11期生として入学し、1993年にデビュー。松口VS小林、モストデンジャラスコンビといったコンビを経て2000年にピン芸人としての活動を開始した。「アメトーーク!」や「人志松本のすべらない話」といった番組への出演により関東でも知名度を獲得。現在の主なレギュラー番組に「にけつッ‼」「ケンコバのほろ酔いビジホ泊 全国版」「漫道コバヤシ」など。
ニューヨーク
嶋佐和也と屋敷裕政による、2010年1月結成のお笑いコンビ。2018年には第3回上方漫才協会大賞の話題賞に輝いた。2019年と2020年に「M-1グランプリ」のファイナリストになり、2020年の「キングオブコント」では準優勝。主なレギュラー番組に「ラヴィット!」「なにわ男子の『逆転男子』」「ザ・グレイテスト・ヒッツ」など。Xではバラエティ番組「ニューヨークジャック」が月1回配信されている。


