古書店が密集し、“本の街”として親しまれる東京・神田の神保町。その一角でひときわ目を引く近未来的な建物が神保町シアターだ。2007年7月にオープンして以来、日本の旧作を中心としたラインナップで多くの映画ファンの心をつかんできた。このたび10周年を迎えて盛り上がる神保町シアターに、映画を愛する女優・柳英里紗が突撃! 大好きな映画館に来て胸躍らせる彼女が、支配人・佐藤奈穂子によるナビゲートのもと劇場の魅力に触れていく。
取材・文 / 金須晶子 撮影 / 佐藤友昭
街になじむ映画館
かつて映画館や演芸場がたくさんあったという神保町。ここに新しい映画館を、と出版社・小学館が作ったのが神保町シアターだ。まるでSF映画から飛び出してきたようなビルの外観に、柳は「初めて来たときはびっくりしました」と笑う。現在では全国有数の名画座として知られる神保町シアターだが、当初は小学館の新作映画もラインナップに含まれていた。こけら落とし作品が「ポケットモンスター ダイヤモンド&パール ディアルガVSパルキアVSダークライ」だったと聞くと、柳は目をまん丸に。しかし佐藤いわく「『神保町の街には古い映画のほうがなじむんじゃないか』という意見もあり、旧作特集を組んでみたら好評で」という経緯で、今のスタイルになった。昭和のクラシック作品を中心に、1980年代や1990年代に作られたトレンディな作品や、アニメ「ドラえもん」の劇場版特集など多彩なラインナップに魅了されるファンが増え続けている。
来るたびに特別な映画体験を
オレンジ色の照明に灯されたスタイリッシュな階段を下ると、地下の劇場へ。約100席を有する劇場は広々とした作りで、35mmフィルムとデジタルコンテンツどちらの上映にも対応している。劇場に足を踏み入れると、柳は「お気に入りの席はここです!」と言って後方端側のG列9番に腰掛ける。柳が出演した「ローリング」の監督・冨永昌敬も神保町シアターがお気に入りらしく、「冨永さんとは去年、今村昌平監督の『にっぽん昆虫記』を一緒に観にきました」と教えてくれた。また初めて神保町シアターを訪れた際は、満席で泣く泣く帰った思い出があるという彼女。座席は整理番号制・自由席なので、お気に入りの席で観たい人は早めにチケットを買っておこう。
待ち時間も楽しめる空間
特集ごとに変わるロビーの装飾も、神保町シアターの人気ポイントの1つ。取材時にはちょうど「開館10周年特別企画『神保町シアター総選挙2017』」として、これまでの人気企画から厳選された作品が上映されていたため、壁には高峰秀子、小津安二郎、原節子、成瀬巳喜男、岡田茉莉子といったそうそうたる映画人のポスターが。中でも憧れの人物を尋ねてみると、柳は「秀子ちゃん♡」と目を輝かせ、「高峰秀子さんの書く文章が好きなんです」と語る。また柳がチラシ置き場を眺めながら、「神保町シアターのチラシだ!っていつもすぐわかります。すごくかわいいですよね!」とコメントすると、佐藤は「今時珍しい二色刷りなんですよ」と説明。そして「デザイナーは、古い映画が好きな方で。昔の映画の雰囲気が出るよう、当初から一貫して同じイメージで作ってもらっているんです」と明かした。
気軽に感想を話し合える“共犯関係”
柳英里紗 今年、名古屋のシネマスコーレで「第1回 柳英里紗映画祭」を開催していただいたんです。そこで思ったのは、映画を観終わったあとに話せる人がいるとうれしい!ということ。同じ映画を観ると共犯関係というか、謎の一体感が生まれて面白いですよね。
佐藤奈穂子 当館でもお客さん同士で、あのシーンがどうだったこうだったと話していますよ。話しかけ方が自然すぎて、知り合い同士かと思ったら実は他人ということがよくあります(笑)。
柳 素敵です。私もしゃべりかけたいなあ。
佐藤 この(シアターからロビーまでの)階段を登りきるまではみんな謎の一体感があるけど、ロビーに戻るとそれぞれ帰っていく。そんな光景がありますね。
特集上映「女優・倍賞千恵子」について
柳 9月2日から倍賞千恵子さんの特集上映がスタートしますね。私、映画(鑑賞)デビューは“寅さん”なんです。父が「男はつらいよ」シリーズが好きで。家のビデオで観たのか、地元・横浜の綱島映画(2005年5月閉館)で観たのか思い出せないのですが……。倍賞さんの特集は今回が初めてですか?
佐藤 はい。名画座の特集って、女優さんの映画人生を皆さんに紹介する側面があるんです。ただ、現役の女優さんだとまだ“真っ最中”ですし、なかなか紹介しづらいんです。今回は松竹さんからご提案いただき、当館としても新たなチャレンジということで特集を組ませてもらいました。
柳 そうだったんですね。佐藤支配人のイチオシ作品はどれですか?
佐藤 「踊りたい夜」はお客さんにも人気が高いです。倍賞さんはショーダンサー役で、ピンクのタイツ姿で歌って踊るんですよ。さすが松竹歌劇団出身という感じで、よく体の動く女優さんだと知っていただけるのではないでしょうか。ソフト化もされていません。
柳 それは貴重ですね。
佐藤 「離婚しない女」は妹の倍賞美津子さんとの共演作で、監督は神代辰巳さんです。姉妹でショーケン(萩原健一)を取り合うという恐ろしい映画なんですけど(笑)。ぜひ観にいらしてください。
柳 ぜひ、神保町シアターで体感したいと思います。
- 特集上映「女優・倍賞千恵子」
- 2017年9月2日(土)より神保町シアターで開催
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女優・倍賞千恵子の出演作を集めた特集上映。20歳の倍賞がスクリーンデビューを果たした「斑女」をはじめ、初主演を務め主題歌も歌った「下町の太陽」、さくら役で知られる「男はつらいよ」シリーズの1作目、2014年公開「小さいおうち」など全17作品がラインナップに並ぶ。東京で開催後、神奈川・横浜シネマリン、大阪のシネ・ヌーヴォ、愛知・シネマスコーレなどへ巡回していく。
- 上映作品
- 神保町シアター 基本情報
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住所:東京都千代田区神田神保町1-23
電話番号:03-5281-5132
座席数:101席(車椅子スペース2席含む)
基本料金:一般 1200円 / シニア 1000円 / 学生 800円
※当日券のみ
※特集によって変動あり
※マチネ、レディースデー、映画サービスデーなど割引あり
- 柳英里紗(ヤナギエリサ)
- 1990年4月30日生まれ、神奈川県出身。子役としての活動を経て、2000年に犬童一心監督作「金髪の草原」でスクリーンデビューを飾る。主な出演作は「天然コケッコー」「あしたの私のつくり方」「グーグーだって猫である」「惑星のかけら」「チチを撮りに」「ローリング」「シン・ゴジラ」「黒い暴動♥︎」「くも漫。」「まんが島」など多数。テレビドラマやCM、ラジオでも活躍しているほか、榊英雄監督作「アリーキャット」が現在公開中だ。森ガキ侑大監督作「おじいちゃん、死んじゃったって。」の公開を11月に控える。