TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ |台湾映画・ドラマの成長は止まらない! アジアのコンテンツビジネスの祭典を現地取材 「僕と幽霊が家族になった件」「詐欺者」ジン・パイルンが語る台湾エンタメの今 「SHOGUN 将軍」宮川絵里子が見たクリエイターの姿勢

宮川絵里子が感じた
「PITCHING」参加者たちの前向きな雰囲気
TCCFのワークショップに参加した宮川絵里子(中央)

TCCFのワークショップに参加した宮川絵里子(中央)

「SHOGUN 将軍」がスポットライトを浴びて…夢の中にいるようでした

──宮川さんがプロデューサーとして関わった「SHOGUN 将軍」がエミー賞史上最多の18部門で受賞しましたね、おめでとうございます。

あそこまで大きな快挙を遂げることができて本当にうれしかったです。真田広之さんとは批評家の反応がいい、こんな記事が書かれていたといった情報をいつも共有していたので、好感触だということはわかっていました。授賞式直後はみんなに囲まれて、真田さんとゆっくりは話せませんでしたが、「本当にお疲れ様でした」と。メインキャストの皆さんも一緒に会場へ行きましたが、「すごい経験をしてしまったね」と話しました。ロサンゼルスのあんな大きな会場で「SHOGUN 将軍」がスポットライトを浴びて、観客の皆さんの会話の中心にいるような状況なんて、夢の中にいるようでした。真田さんが渡米から20年がんばってたどり着いた席ですよね。

──映画「キル・ビル」に通訳として参加してキャリアをスタートさせた宮川さんにも、多くの積み重ねがあったと思います。

そうですね……。アメリカの現場はファーストネームで呼んだり、細かい敬語もあまりない、とてもカジュアルな印象があるようにも思えるんですが、ポジションに応じた発言権の有無がはっきりしています。アクセスできる情報も違ってくるんですね。私はいい仕事をしたい、もっとやらせてほしいと思いながら今までやってきました。今回のようにプロデューサーとして最初から発言権をもらえる形で入るのは初めてだったので、ありがたかったです。

──「SHOGUN 将軍」では真田さんができるだけ、日本の文化を正確に伝えることを目指していました。大きなバジェットで信念を貫くことは難しい部分もあったと思いますが、結果として大きな評価も得て、クリエイターたちの意識も変わりそうです。

アメリカのスタジオで働いていた中国人プロデューサーから「ハリウッドのような大きなスケールでやりたい企画があったんだけど、この企画では実現できないとあきらめて引き出しにしまっていたものがあった。でも『SHOGUN 将軍』の成功を見て、やりたいことをやるチャンスがあるのかもしれないと思い、また企画をブラッシュアップし始めている」と言われたことがあって。こういったお話を何人かからいただいてすごくうれしかったです。この成功がいろんな人にいろんな扉を開いていくと思います。

ワークショップは10時から17時まで缶詰状態

──宮川さんは今回TCCFの「PITCHING」ドラマシリーズ部門のプレゼン指導を担当されました。企画リストを見てどんな印象を受けましたか?

ホラーやスリラーなどのジャンルものが多く、力強くていいラインナップだと思いました。あまりお金を掛けずに作れるようにジャンルを混ぜたクレバーなものもありましたし、国をまたいでいくつかのマーケットにアクセスできるような工夫されたものもあった。中でもフィリピンから参加されていた企画「Love at 310」が気になりました。ほかの企画とはアイデアが少し違う感じがして、ほろ苦い感じもありそうで。監督と一度話したときに、ビジョンをしっかり持っている方だと感じました。何をやりたいか、ちゃんと表現できているいいプレゼンになるのでは、と思いましたね。

「Love at 310」ビジュアル

Love at 310

製作地:フィリピン
エピソード:各話30~45分、全6話
ジャンル:人間ドラマ / 恋愛 / コメディ / LGBTQIA+ / 社会問題

フィリピン・マニラのラブホテルでカップルたちが織りなす愛と喪失を描くアンソロジー。各エピソードで異なるカップルが取り上げられ、ベルボーイ・Emmanと清掃員・Roseがストーリーに絡んでいく。製作ステートメントには「フィリピンのセクシュアリティをクローゼットから引き出す」「愛と情熱についての物語」とあり、「私たちはセックス、身体、関係性について正直な会話を促進したいと考えています」とつづられている。

──仕上がった映像が想像できるような、いい企画だと私も感じました。今回は会期前にプレゼン指導の時間が設けられましたが、実際に参加してみていかがでしたか?

あっという間の2日間でした。彼らは8分間という限られたプレゼン時間で、審査員や投資家といった観客の心をつかまなくてはいけません。それぞれの作品の特性と売りを検証したうえで、プレゼン内容に磨きをかけました。説明が明快であること、スライドの画像やデザインが作品を的確に反映していること、プレゼンする際には作品のトーンを意識すること。そして何より、監督・ショーランナーたちプレゼンターの自信と情熱を観客に感じさせることが大事なので、できる限り助言をさせていただきました。10時から17時まで缶詰状態でワークショップをしましたが、参加者の方々はその後もホテルで遅くまで作業をしていました。それぞれの素晴らしい企画に見合ったピッチになると思います。本番を生で見ることができずとても残念です。(※このインタビューは「PITCHING」の本番以前に実施)

ワークショップで指導にあたる宮川絵里子(右から2番目)

ワークショップで指導にあたる宮川絵里子(右から2番目)

「PITCHING」参加者は多国籍で経験値もさまざまでしたが、エゴがなく前向きで雰囲気がよかったです。台湾、シンガポール、マレーシア、フィリピンにおける映像制作の現状や傾向など生の声も聞けて面白かった。また私事になってしまいますが、皆さんから「SHOGUN 将軍」に関するうれしいお言葉をたくさんいただきました。日本だけではなくアジアのクリエイターの方々に夢や刺激を与えることができたなら、大変光栄です。

──各国から参加者たちが集まるTCCFにはどんな魅力がありますか?

こういったイベントではネットワークを作ることができますし、すごく刺激になる場だと思います。プレゼンをすることで自分の企画を深く検証する機会にもなります。このようなワークショップがあれば、ほかのクリエイターのプロセスやフィードバックを知れますし、そこで取り入れられるものは自分のものにできる。国際的なクリエイターが集まっていたので、ドラマ部門にも日本の企画があったらよかったですね。今回TAICCAのチェアマンであるツァイ・ジャジュン(蔡嘉駿)さんともゆっくりお話しする機会があり、台湾業界の現状やTAICCAの取り組みなど、大変勉強になりました。台湾で活躍しているプロデューサーの方々もご紹介いただいたので、近い将来よい形でご一緒させていただきたいです!

プロフィール

宮川絵里子(ミヤガワエリコ)

映画、テレビ番組プロデューサー。米ジョージタウン大学を卒業後、クエンティン・タランティーノ監督作「キル・ビル」に通訳として参加。コーディネーターやスーパーバイザーなどを経て、映画「沈黙-サイレンス-」の共同プロデューサー、ドラマ「SHOGUN 将軍」のプロデューサーを務める。

TCCF現場取材&プロデューサーインタビューを終えて

映画ナタリーでは3年連続で「TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ(Taiwan Creative Content Fest)」の取材を実施。台湾政府の政務次長スー・ワン(王時思)が「TCCFをマッチングの場にして、より多くの国際協力を促進できるようにしていきたい。国際市場を開拓したいという野心を持った人々がここで新たなチャンスを見つけられるようにできれば」と開会式で語った通り、企画者と投資家、コンテンツホルダーとバイヤーが有益な交流ができるような場を作りたいというTAICCAの熱を十分に感じることができた。

今回はプロデューサーのジン・パイルンと宮川絵里子にそれぞれインタビューを行い、台湾エンタメの現在地とTCCFの裏側を語ってもらった。台湾人俳優のクー・チェンドン(柯震東)、ウー・クーシー(呉可熙)、リン・ジェーシー(林哲熹)、エスター・リウ(劉品言)にもコラムインタビュー(参照:エスター・リウ、クー・チェンドンら台湾人俳優4名、国際共同製作をテーマにトーク)で話を聞いたが、台湾エンタメ業界に生きる人々が国際市場へ真剣なまなざしを向けていることは明らかだった。そしてジン・パイルンの「文化部やTAICCAの支援があり、魅力的で質の高い俳優たちがそろい、クリエイターたちがより大胆に作品作りを進められている状況」という言葉は、台湾エンタメの一層明るい未来を予感させる。今後もTCCFと台湾コンテンツの発展から目が離せない。