「ヴェノム」押切蓮介インタビュー|自分の内なる破壊衝動が刺激される、負け犬同士がのし上がっていくバディ・ムービー

トム・ハーディが主演を務める映画「ヴェノム」が、11月2日に公開される。マーベルコミックをもとにした本作は、スパイダーマン最大の宿敵であり、絶大な人気を誇るヴィランであるヴェノムに焦点を当てた物語だ。

コミックナタリーでは「ミスミソウ」「ハイスコアガール」などで知られる押切蓮介にインタビューを実施。「ヴェノム」の主人公・エディが持つ“破壊衝動”に共感したという押切に、映画の感想をたっぷり語ってもらった。

取材・文 / 大谷隆之 撮影 / 佐藤類

映画「ヴェノム」とは

敏腕記者エディ・ブロック(トム・ハーディ)は、人体実験で死者を出しているという「ライフ財団」の真相を追う中、ある“最悪な”ものを発見し、接触してしまう。

映画「ヴェノム」より。

それは“シンビオート”と呼ばれる地球外生命体だった。

映画「ヴェノム」より。

この意思を持った生命体との接触により、エディの体は寄生され、その声が聞こえるように。「1つになれば、俺たちはなんだってできる」とシンビオートはエディの体を蝕み、一体化し、ヴェノムとして名乗りを上げた。

映画「ヴェノム」より。

そのグロテスクな体で容赦なく人を襲い、そして喰らうヴェノム。

エディは自分自身をコントロールできなくなる危機感を覚える一方、少しずつその力に魅了されていくが──。

マンガ好きならココにハマる!「ヴェノム」注目ポイント

1 アンチヒーローの心に芽生える新しい感情

映画「ヴェノム」より。

「ヴェノム」と聞くと「スパイダーマン」に登場する邪悪な悪役を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。ヴェノムの正体は、シンビオートと呼ばれる意思を持った地球外寄生生命体。「スパイダーマン」の中で、彼は凶悪な力を持つヴィラン(悪役)として描かれ、その一種のカリスマ性によって熱心なマーベルファンからはカルト的人気を持つ。

映画「ヴェノム」より。

本来敵であるはずのヴェノムだが、本作では一転。その気味の悪いルックスや容赦ない残忍性は残しつつも、エディという正義感の強いジャーナリストに寄生したことで、心の底に眠っていた新しい感情を呼び起こしていく。果たしてそれは“正義”なのか“悪”なのか……。

映画「ヴェノム」より。

本作は過去のマーベル作品を見ずとも楽しめる、ほかのマーベル映画にはない観方のできる貴重な作品であり、さらには「ヴィランとしてのヴェノム」に馴染みがある人にとっては、彼の新たな魅力に触れることができる作品になるはずだ。

2 エディとヴェノム、共闘関係から生まれる“ニコイチ感”に萌える

映画「ヴェノム」より。

激しいバトルや殺戮シーン、グロテスクな寄生生命体など、ホラーな世界観が見どころの本作だが、それだけにとどまらない魅力がある。それはエディとヴェノムの関係性だ。2人(?)の関係は単なる寄生生命体と宿主、というだけにとどまらない。

映画「ヴェノム」より。

ヴェノムに肉体を奪われながらも、自我を保つために必死に抵抗を試みるエディに対し、人間の肉体に入り込まなければ生命を維持できないヴェノムは、彼を知り尽くし取り込もうと躍起になる。1つの肉体を奪い合い葛藤する2人だが、偶然にも共通の“敵”を得たことから、互いのない部分を補完し合うようになっていく。

映画「ヴェノム」より。

正義感の強いジャーナリストのエディと、人間を喰らう寄生生命体のヴェノム、決して相容れるはずのない2人の間に奇妙な共生関係が芽生えていくさまがユーモラスに描かれる。2人の見せる“ニコイチ感”や、ウィットに富むやり取りは、「寄生獣」のミギーと泉新一、もしくは「DEATH NOTE」の夜神月とリュークを彷彿とさせるだろう。

3 ほかのマーベル作品では味わえない、ヴェノムならではの戦い方

映画「ヴェノム」より。

ヴェノムが、アイアンマンやスパイダーマンなど人間と同じ造形を持つヒーローたちと大きく異なるのは、彼らが地球外生命体であり、変幻自在に造形を変化させる能力を持つことだ。人間のように地を走ることもあれば、蜘蛛の巣状や板状に姿を変えたり、ほぼ液体化して隙間に潜り込んだりすることも可能。いくつかの弱点はあれど、人間の物理的な攻撃はほぼ効果がない。

映画「ヴェノム」より。

ダイナミックに触手を操るヴェノムの姿には、不思議な爽快感すら漂う。またエディの肉体を乗っ取り暴走するだけだったヴェノムが、エディとの交流を深めるにつれ次第に戦い方を変化させていくのも興味深い。ヴェノムがエディの意志や希望に応えることで、2人にしか作り出させない“ヴェノム”が生まれる。

映画「ヴェノム」より。

まさにキャッチコピーにある通り、「俺たちがヴェノム」なのだ。互いの目的が合致し100%の力を発揮した最終決戦がどんな結末を迎えるのか、スクリーンで確認しよう。

押切蓮介インタビュー

インタビュー後、押切蓮介が描き下ろした“ヴェノム”。

「ミスミソウ」の押切蓮介が、マーベルキャラの中でも絶大な人気を誇るヴィランであるヴェノムを描き下ろし!

久しぶりに、自分の内なる破壊衝動が刺激されました

──マーベル史上、最も残虐なヴィランとも言われるキャラクターが主人公の本作「ヴェノム」。率直にいかがでした?

押切蓮介

予備知識ほとんどゼロで観たんですけど、いやあ、面白かったですね! 僕、割とヒネくれた映画好きなんで、こういうこと言うのくやしいんですけど……娯楽作としてはちょっと非の打ちどころがないレベルだと思います。実は試写の前には、ポスタービジュアルの印象なんかもあって、もう少し陰惨な内容を想像してたんですよ。

──映画のキャッチコピーもずばり、「最悪」ですしね。「地球外生命体に寄生された男は、その悪に支配される」と。

そうそう。主人公のヴェノムが超残酷で、暴虐の限りを尽くすダークヒーローなのかなと勝手に考えていました。でも実際に観てみたら、少なくとも僕は陰鬱さよりも爽快感のほうが強かったですね。今回は試写室で観せてもらいましたが、本当ならポップコーン食べながら劇場で鑑賞したかったくらい(笑)。

──改めて説明すると、ヴェノムとは“シンビオート”という未知の宇宙生命体が、あるいきさつからエディ・ブロックというフリー記者に寄生して誕生した存在。マーベル作品に登場する数多くのキャラクターの中でも、非常に人気を誇るヴィランです。

原作では“スパイダーマンの宿敵”として登場するんですよね。悪役を物語の中心に据えて映画を1本作ってしまうって、なかなかの度胸だと思います。これまで、マーベル関連の作品はそれなりに観てきたつもりですけど、今回の「ヴェノム」はかなり異質じゃないですか?

──そうですね。だと思います。

映画「ヴェノム」日本版ポスター

娯楽としては、明らかにヘンテコな企画。それでいてヒーローものの定石みたいなものはしっかり押さえられているでしょ。先ほども話したように、僕はそこに感心するんですよね。例えば、これはネタバレにならないように話すのが難しいけど……実はヴェノムって、行動にある種の規範があるじゃないですか。「もっとも残虐なダークヒーロー」と言いつつ、やっつけていい相手とそうじゃない相手を自然に分けている。で、観客もストーリーが進むにつれて、なんとなくその基準が飲み込めてくる。「ヴェノム、お前ほんとはいい奴なんじゃね?」みたいな。

──とはいえ、自分を捕獲にきた特殊部隊を一気に叩き伏せたり、サンフランシスコの街中で壮絶なカーチェイスを繰り広げたり、相当な暴れっぷりでしたよ。

気分がアガりますよね、ああいうシーンは。「いいぞ! 全部ブッ壊しちまえ!」ってなる(笑)。久しぶりに、自分の内なる破壊衝動が刺激されました。たぶん男の子は誰でも、どこかそういう願望を抱えているじゃないですか。何もかもうまくいかない思春期とか、特に。

──そうですね。ありますよね。

映画の前半くらいは、僕もそうやって感情移入してたんです。つまり、このままヴェノムが暴走を続け、なんなら殺戮を繰り広げてくれたら、自分の中の暗黒部分がもっと刺激されるんじゃないかなって。でも、そうは思いつつ、ダークな感情をひたすら増幅されるのって娯楽映画としてはけっこうつらい。こっちももう大人ですし(笑)。

──ははは。確かに。もう十代の頃とは違う。

その点、今回の「ヴェノム」は、ダークヒーローが大暴れするカタルシスを最大限に生かしつつ、途中からしっかりと王道の展開になっていくでしょう。作り手側が変に深刻ぶったり、理屈をこねてる雰囲気がない。前半でちりばめてあった伏線も、最後に全部回収してくれて、気分がスカッとする。「これぞエンタテインメント!」って感じでした。