うらみちお兄さんは、みんなの心の代弁者
──子供教育番組「ママンとトゥギャザー」で「体操のお兄さん」を務めるうらみちお兄さんですが、子供相手にお仕事をするのって大変ですよね。ずっとニコニコしていないといけないし、「体操のお兄さん」って実はかなりハードな仕事だろうなと、大人になった今こそ感じます。
そうなんですよね。今、お子さんを育てていて子供向け番組をリアルタイムで観ているお母さん方からも、結構ご感想をいただきますし。あとはやはり、すでに働いている社会人の方ですよね。それも、20代前半くらいの、社会に出たばかりの方から愛読いただいている印象です。
──仕事を始めたばかりのパリッとした気分がちょっと落ち着いて、いろいろ小さなストレスも発生するようになってきて、発散したくなってきた頃合いの人たちが……。
そうですね(笑)。シンプルに面白いと言ってくださったり、「キャラクターが好き」と感想をいただいたりするのもうれしいんですけど、「共感した」という声が思いのほか大きくて。
──「体操のお兄さん」というジャンルを超えて、“お仕事”を描いているのが素晴らしいなと思います。
やりたくて始めた仕事であっても、いろいろストレスが溜まって発散したいときもある……というのは、どんな仕事でも一緒だなと思うんですね。こちらとしても、裏道を「特別変な人」だと思って描いているわけではないんです。誰にでもある心の裏表両方を体現している人というつもりで描いているので、共感の声をいただけるとうれしいですね。
──31歳という年齢も絶妙ですよね。もう若くないけど、まだ酸いも甘いも飲み込んで寡黙に生きる経験値は積んでいないというか……。
裏道のキャラを思いついたときには、もう自然と31歳に決まっていましたね。読者の方からも、「31歳だからいい」という感想は多いです。
イヤなことがあるほど、アイデアが浮かぶ
──裏道はだいぶネガティブなキャラですが、久世さんご自身も似ているところはありますか。
そうですね、まあ働いていれば誰もが経験することですが、物事がいろいろ降りかかってきて「あーっ!」となることはあります。でも最近は、イヤなことがあればあるほど、「うらみち」のネタとして使うことができるなと(笑)。
──なるほど(笑)。個性的で魅力あるキャラたちが多数出てくる「うらみちお兄さん」ですが、彼らが発するセリフ1つひとつにもパンチがあります。どうやって思い付くのでしょうか?
日常生活のなかでいいなと思った言葉や、浮かんできたポエムをケータイのメモに書き留めています。外を走り回っているときとか。
──外を走り回る……?
夜にジョギングするようにしているんです。走っているときにいいアイデアが思い浮かぶことが多いですね。体を動かすことで、脳も活性化するんでしょうか。
──うらみちお兄さんたちが歌う謎のオリジナルソングも、いちいち中毒性があってたまらないです。あれはメロディも決まっているんでしょうか?
いや、さすがに私も作曲まではできないので、あくまで歌詞だけですね。でも原稿にさりげなく「イ短調」とは描きましたが(笑)。
──かなり暗いトーンの曲だということは、想像できました(笑)。
単行本にはフルバージョンの「歌詞カード」も付けているので、ぜひご覧いただければと思います。
読者から送られてくる「チン」ワード
──アラサー女性の立場で読むと、「歌のお姉さん」である多田野詩乃(ただの・うたの)さん(32歳)が出てくるたびに「幸せになってね……」とも思います。
彼女の過去を想像するのが楽しくて、つい設定が細かくなってしまって。
──元売れないアイドル歌手で、ものまね演歌歌手を経て、ナイトクラブのジャズシンガーから歌のお姉さんという流浪すぎる遍歴のうえ、売れないお笑い芸人の彼氏と同棲6年目……。
1巻の描き下ろしでは、各キャラの休日の過ごし方についても描いているのですが、彼氏の姿も少し出てきます。
──うらみちお兄さんも、Web連載回ではいつも仕事をしていて、休日の光景がないですもんね。彼はあれだけ弱音を吐きつつも毎日きちんとスタジオに行っていてえらいと思います。裏道のような人が、いったいどうして体操のお兄さんになってしまったのか、かなり気になっているのですが……。
自ら志を持ってオーディションを受けて、体操のお兄さんになったのだと思います。だから、彼は別に子供が嫌いってわけではなく、仕事が楽しいところもあると思うんですよ。うらみちお兄さんは、働く社会人としての悲哀はぶっちゃけますけど、子供をけなしたりはしないんです。
──たしかに。ウサオやクマオのような後輩相手にも意外と面倒見がいいですしね。
あれは体育大出身特有の、年齢による縦社会にこだわっている感じが出てますよね。
──あと「歌のお兄さん」にして、低レベルな下ネタが好きすぎる残念なイケメン・蛇賀池照(だが・いけてる)が、いちいち「チンワード」に反応してしまうのが、しょうもなくて笑ってしまいます。
あの「チンワード」も、普段から書き留めていたんですけど、あれだけ「チン」の付くワードを探すのは結構大変でした。でも、なんと読者の方々が、新しい「チンワード」を教えてくださるんですよ。中にはTwitterのDMを使って、20ワードくらい送ってくださった方もいました(笑)。
──親切な読者さんですね(笑)。
ありがたく使わせていただきました! 本当に、「うらみちお兄さん」を連載していると、読者の方が即時に反応を返してくださって、とても励みになっています。受賞した「次にくるマンガ大賞」「WEBマンガ総選挙」も、読者の方たちによる選出ということで、そのことがとてもうれしかったですね。投票期間中に、投票をお願いするマンガも投稿したのですが、ものすごく拡散してくださって。
次にくるマンガ大賞(https://t.co/0Tp0SkFzQ7)
— 久世岳@トリマニア③発売中 (@9zegk) 2017年7月16日
の投票締め切りが7月21日13時までとなっております。
どうかお力添えを頂けましたら大変幸いです。#次にくるマンガ大賞 pic.twitter.com/HhwpneIsDb
──あのネガティブなうらみちお兄さんが、「次に来たいの?」という女の子の問いに対して、「来たい」と間髪入れずに答えている……。
「うらみち」は本当に、読者の皆さんに支えていただいているなと思います。
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描いていると、新コーナーがどんどん思いつく
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よい子のみんな~! 裏表のあるお兄さんは好きかな~?
教育番組「ママンとトゥギャザー」の体操のお兄さん・表田裏道31歳。 爽やかだけど情緒不安定な“うらみちお兄さん”が垣間見せる大人の闇に、よい子のみんなはドン引き必至…!? 大人になった“よい子”たちに送る、哀しみの人生賛歌!
- 久世岳(クゼガク)
- 2014年、第25回スクウェア・エニックス マンガ大賞で入選を受賞しデビュー。現在、comic POOLで「うらみちお兄さん」、ガンガンONLINEで「トリマニア」を連載中。