「ターゲットは人間」みたいな（蒼樹）

──蒼樹さんが連載中の「微熱空間」は、親の再婚によって同い年の姉弟となった2人の高校生が、甘酸っぱいやりとりをしながら少しずつ距離を縮めていくという……。

蒼樹　自分のマンガは“恋愛系コミック最先端”じゃないと思ってます（笑）。

──どういった経緯で、楽園で連載をすることになったんですか？

蒼樹　編集長の飯田さんが私の知人と知り合いで、全然仕事とは関係なく「ご飯に行きましょう」となりまして。何度かご飯をご一緒して、献本をいただくようになったり、私も同人誌を持っていって「良かったら見てください」って言ったり。そうしたらその同人誌をすごく気に入っていただけて、「タイミングがあったらぜひ一緒にやりましょう」となったんです。

──そうして「微熱空間」につながるんですね。

蒼樹　はい。「微熱空間」は、「男女の恋愛ものが結構好きなんです」ってお話を飯田さんにしたら、「いいですね」とストレートに受け止めていただいて。ハードルがある関係のほうが好きなので義理の姉弟という設定にしたらOKをいただいて、連載が始まりました。

シギサワ　「微熱空間」を野球で例えると、ズバンズバンとキャッチャーミットのど真ん中に投げてくるピッチャーのイメージですね。

位置原　豪速球のストレートを投げるエース。

──ある意味王道の恋愛マンガですよね。蒼樹さんが考える “恋愛系コミック最先端”とはどんなマンガですか？

蒼樹　女性向けとか男性向けとか、百合もの、BLとかっていうジャンルにとらわれていないのが、楽園の中で感じる“恋愛系コミック最先端”なのかなと思います。どの作品も、あんまり型にはまっていない。女性が読んでも男性が読んでも大丈夫で、購読対象をあまり雑誌や描き手側が絞ってない感じがすごくするんです。

位置原　確かにその辺は最先端かもしれない。

──少女向け雑誌やBL雑誌、大人の女性向け雑誌……などターゲットやジャンルを明確にする雑誌が多い中で、楽園は読者を選ばない。

蒼樹　「ターゲットは人間」みたいな（笑）。

一同　あはは（笑）。

蒼樹　年齢が上の人も下の人も読めるので、対象年齢も特になく「皆さんどうぞ」という。

そもそもジャンルがすでにあるってことは、最先端じゃない（幾花）

シギサワ　なんていうか、楽園は闇鍋とかおでんって感じの雑然さですよね。

──楽園をおでんに例えるの、いいですね。創刊3年を記念した前回の座談会（参照：恋愛アンソロジー「楽園」総力特集、中村明日美子×沙村広明×かずまこを×木尾士目座談会）では、沙村広明さんが楽園を軍隊に例えていらっしゃいました（笑）。

シギサワ　じゃあおでんだったら私はカラシ。

蒼樹　カラシ、重要ですよね！

シギサワ　いや、カラシ嫌いなんです。

蒼樹　え！

幾花　じゃあ僕は黒ハンペンがいいです。

蒼樹　初めて聞きました。黒ハンペン……？

幾花　静岡の名物です。あ、でも静岡人でもないのに黒ハンペンなんて言ったら怒られてしまうからやめとこう。やっぱり昆布巻きに巻いてあるよくわからない白いヒモで。

位置原　かんぴょうですね。まあいろんな具がある中で、やっぱりカラシは重要ですよ。

蒼樹　すべての具に付きますからね。

シギサワ　私は付けない。

幾花　いやいや（笑）。

位置原　じゃあシギサワさんはおでんで言ったら出汁じゃない？ 表紙も描いてて占める割合がめちゃくちゃ大きいから。

シギサワ　……困った、話がまとまらない。

幾花　本当に（笑）。でも話を戻すと、“最先端”って蒼樹さんのおっしゃる「型にはまってなさ」……つまりジャンルにとらわれないことなのかもって皆さんのお話を聞いていて思いました。そもそもジャンルがすでにあるってことは、最先端じゃない。なんだったら今からその人の作品がジャンルになっていくようなものが最先端なのかなって。例えばコミケには同じジャンルやカテゴリーのサークルが集まる「島」って言葉がありますが、今後「楽園」という島ができるイメージ。

シギサワ　ジャンル「楽園」！

「先っぽだけだから」と近しい（位置原）

位置原　それは確かになんらかの最先端な気がしますね（笑）。“恋愛系コミック”のほうはどう思う？

幾花　うーん、ちょっと話は逸れちゃいますが、そもそも僕は楽園が恋愛マンガの雑誌だって知らなかったんですよ。今回この座談会の質問リストに「楽園は“恋愛系コミック最先端”を謳う雑誌ですが」って書いてあったのを見たときに「あ、そういう雑誌だったんですね！」って。

──幾花さんはどんな経緯で、楽園で連載をすることになったんですか？

幾花　僕はcomicアンスリウム（ジーオーティー）と快楽天（ワニマガジン）でお仕事させてもらってるんですけど、筆が遅いので2誌でいっぱいいっぱいで。だからこれまでもほかの方から連載のお話とかいただいていたんですが、片っ端から全部断っていたんです。何人かは「それでも」ってさらに返事をくれるんですが、やっぱりお断りしていて。飯田さんも何度か断ったんですが「一度お話だけでも」って僕の住んでいる地方まで来て、美味しいものを食べさせられて……（笑）。

位置原　すげえな（笑）。

幾花　それでも断る気満々でいるんですけど、「4ページだけでもいいから」みたいなことを言い出すんですよ。

位置原　飯田さんのその口説き文句、よく聞きますね。「先っぽだけだから」と近しい。

シギサワ　（黙って頷く）

幾花　「楽園は年3回だから、年3回で4ページとかでいいから。本当に全然描かなくていいんだよ」とか、「しかも今仕事受けても、次に描くのは来年の2月とかだから」みたいなことを次々に言われて……。ちょっとずつ断り文句を削がれていった感じです。