描きたいものを描くために、エロというツールを使っているだけ(幾花)
蒼樹 幾花さんのお話をお聞きしていてちょっと感じたのが、成年マンガを描く中で、行為そのものに対してそんなにこだわりがない……?
幾花 エロに対するこだわりはないですね。
蒼樹 意外です! 私、あんまり成年マンガを多く読まないんですけど、その理由として、失礼ながら、行為が始まったら作品の個性の違いを感じづらい、と思ってしまっていて。でも幾花さんのマンガって、感情の動きがすごくあるんですよね。この行動を取ったことで、こういうふうに気持ちが変わったとかがキャラクターの手の描写に出ていたり。すごく丁寧に描かれていて、こだわりを持っていらっしゃるのかなって思っていたので。
幾花 こだわりはあるんですけど、それはエロに対してじゃなくて。僕が描きたいものを描くために、今はエロというツールを使っているだけです。
位置原 でも、エロって縛りとしては結構大きいと思うんだけど。
幾花 大きいですね。
位置原 やりがいが逆に生まれる感じですか?
幾花 縛りは窮屈ではあるんですけど、だからこそいろんな工夫ができる部分もあるんだと思います。僕はキャラクターや絵を描きたいという思いが一番強くて。キャラクターの太もも、膝、ふくらはぎのラインが気持ち良く描けたから、今日はいい日だ!みたいな。線を描くのが好きなんです。成人マンガや恋愛マンガは、そのツールとして最適だと思っています。
尊すぎて目が潰れる(位置原)
──位置原さんも快楽天でも描いていらっしゃいますが、エロは縛りとして大きいですか?
位置原 僕は自分が描くとなると邪魔って思っちゃうこともありますね。割と冗談のほうに茶化しちゃう感じです。
蒼樹 位置原さんのマンガは、読むと最後に幸せになれるイメージです。かずまこをさんの作品と、根底に同じものが流れていますよね。身悶えしちゃうような。
位置原 かずまさんの「ディアティア」、好きなんです。なんていうんですかね、僕はギスギスした話が苦手で……。読んでいて「ううっ」ってなるから。
幾花 わかります! わかります!
シギサワ そのままの君たちでいてほしい。
一同 あはは(笑)。
位置原 シギサワさんのマンガはコメディなパートをすごく楽しみにしていて、ギスギスすると「うっ」となって、早くまた幸せなテンポに戻ってくれ!ってなりますね。僕は幸せにやっているのを見てニコニコしたいタイプなんですよ。
幾花 すごくよくわかります……!
位置原 「ディアティア」も25号で最終回でしたけど、ずっと初々しくてもどかしい2人だったから、いずれはそういうシーンを迎えるんだろうと思っていたけど、いざ来たらもうキスの段階で「あああー!」って!
蒼樹 悶えますよねー……。
位置原 尊すぎて目が潰れる的な。
幾花 位置原さんのマンガも、例えばひどい下ネタが入ってきても、あの世界の人たちがみんな幸せな時空に生きている感じがして、読んでいて幸せになれるんですよ。キャラクターが世界に愛されている感じがする。
位置原 ありがとうございます。ほのぼのエンドにしたくなっちゃう。ほのぼのが好きなんです。
楽園チームはキャッキャしてます(位置原)
──お話を聞いていると、皆さんがほかの方のマンガを楽しく読んでいる感じが伝わってきました。同じ雑誌だとライバル意識……みたいなものが湧いてくることもあると思うのですが。
位置原 楽園は居心地がいいんですよね。
蒼樹 そうですね。プレッシャーをあまり感じないと言うか。例えば私がある作品を読んで影響を受けたとして、それが読んだ人にバレるとちょっと恥ずかしいんです。影響を受けること自体は恥ずかしいことじゃないと思ってますし、いっぱい吸収したいけど、影響を受けたものを自分で消化して自分の作品にできているのか、自信がないとちょっと恥ずかしく思ってしまって、なかなか「この人の影響を受けました」とか言えない。でも楽園は皆さん本当に個性的で、それこそ影響を受けるんですけど、「受けても大丈夫なんだろうな」って。
──と言いますと?
蒼樹 皆さんものすごく個性が強いので、多少影響を受けたところで作品や表現が被ることはないだろうという安心感があります。あと「誰かと作品の傾向が近い」とかもあんまり意識していなくて。すごくのびのびと描かせていただいています。あとやっぱり飯田さんが好きな作品が載っているので(笑)。もちろん読み手さんに対して描いているものでもあるんですけど、1回飯田さんのフィルターを通っていることで、読む人の目線を良くも悪くも感じすぎないんです。
位置原 確かに。あと、雑誌内での競争みたいなものもないですよね。
蒼樹 そうですね。雑誌の中でどれくらいの位置にいる……とかまったく考えずに、感じずに描けるのは結構希少な雑誌かもしれないと思います。自分と向き合って描けますし、飯田さんと向き合って描くっていう環境が心地よくて。それはほかの作家さんも感じていらっしゃるんじゃないかなと。
位置原 そうですね。白泉社の新年会でも、楽園チームはキャッキャしてますよね(笑)。
蒼樹 そうですよね(笑)。白泉社さんの新年会が終わったあと、描いている雑誌ごとに作家が分かれて二次会になって。結構広い部屋で丸いテーブルがいっぱいあったんですけど、みんなで「くっつけようくっつけよう」って言って丸いテーブルを無理やりくっけてましたね。「なんだここは、小学校か!?」って思ってたんです(笑)。
幾花 いいな! 楽しそう! 僕も行きたいです!
位置原 行きましょうよ。
蒼樹 男子は男子同士で固まってたんですよ。
──“男子”というのは、楽園の男性作家ですか?
位置原 そうです(笑)。木尾(士目)先生とかはやっぱり大人だから女性陣とも会話できて、「お前ら男子は!」「お前らもっと女子と混ざれよ!」みたいなことを言ってくれて。
蒼樹 ノリが中学生みたいですよね。
私たち、もう仲間でしょう……?(シギサワ)
──名残惜しいのですが、そろそろお時間になってしまいまして。最後にニューフェイスの幾花さんから、ほかのお三方に質問はありますか?
幾花 僕も、楽園の仲間に入れてもらってもいいんですか?という……。
位置原 じゃあボスからお願いします。
シギサワ 私たち、もう仲間でしょう……?
位置原 すでにね。
幾花 ……あ、飯田さんの被害者の会の!(シギサワと固く握手)
蒼樹 創刊号からいる方と、一番新しい方が……(笑)。歴史的瞬間ですね。
シギサワ これから、「Web増刊描かない?」とかいろいろ丸め込まれるかもしれませんけど。
幾花 強く生きられるようにがんばります!
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中村明日美子インタビュー
- 楽園 Le Paradis [ル パラディ]第25号
- 発売中 / 白泉社
中村明日美子、蒼樹うめ、木尾士目、久米田康治、シギサワカヤ、水谷フーカ、かずまこを、鶴田謙二、宇仁田ゆみ、沙村広明、kashmir、位置原光Z、黒咲練導、志摩時緒、迂闊、犬上すくね、あさりよしとお、panpanya、鬼龍駿河、竹田昼、平方イコルスン、黒井緑、武田春人、幾花にいろら豪華執筆陣が揃って描き下ろし!
- 蒼樹うめ(アオキウメ)
- 8月3日に兵庫県で生まれ、福岡県で育つ。代表作は4コママンガ「ひだまりスケッチ」 、キャラクター原案を手がけた「魔法少女まどか☆マギカ」など。焼きビーフンが好き。
- シギサワカヤ
- 冬の関東生まれ。2004年、スニーカー文庫(角川書店)の「憐 Ren」挿絵イラストにてデビュー。2006年に白泉社より単行本「箱舟の行方」を上梓、以降数誌で連載。2009年に楽園創刊より参加、現在に至る。
- 位置原光Z(イチハラヒカリゼット)
- 1986年生まれ。主にコミティアで同人活動していたところを週刊ヤングジャンプ増刊アオハル(集英社)でデビュー。単行本は「アナーキー・イン・ザ・JK」(集英社)、「お尻触りたがる人何なの」「正しいスカートの使い方」(白泉社)。現在は楽園にて連載しているほか、快楽天(ワニマガジン社)にて「青春リビドー山」を不定期連載中。ウルトラジャンプ(集英社)のセクシー読み切り企画にも参加予定。
- 幾花にいろ(イクハナニイロ)
- ペンネームでおわかりの通り、1987年2月16日生まれ。三重県出身。comicアンスリウム(ジーオーティー)、快楽天(ワニマガジン社)にて成人向けマンガを連載中。楽園 Le Paradis [ル パラディ]第26号(白泉社)より、新連載スタート予定。