私、シギサワさんのマンガにすごく萌えるんです(蒼樹)
シギサワ それがあの人の手なんですよ! 私のときも、2009年に飯田さんが前の部署から異動されて、たぶん「新しいことができるぞ!」という勢いのまま私に電話をかけてきて、詳しい話は何もせずに「あなたにいい話があるんです」って。
位置原 詐欺の手口だ(笑)。
シギサワ それより以前に「いつか雑誌を作りたいんですよ」って夢見る乙女みたいなことを言っていたのを覚えていたんで、もしかしたらそれかなってちょっと思っていたんですが、ビンゴでした。「最初の1号だけ、カバーガール的な女性イラストをお願いしたい」と言われて、「まあ1号だけなら」と思ったんですが……。
──創刊号から最新の25号まで、すべてシギサワさんが表紙を手がけてらっしゃいますね(笑)。毎回、何パターンくらいラフを提出しているんですか?
シギサワ 25号に関して言えば、10数枚描きました。
蒼樹 すごい!
シギサワ だから私も、幾花さんと同じで飯田さんに引きずられて濁流に飲まれて抜け出せないという……。
位置原 表紙だし、毎号すごい量を描いてるし、シギサワさんあっての楽園ですね。
蒼樹 私、シギサワさんのマンガにすごく萌えるんですよ。
シギサワ どこが!?
蒼樹 初めて読んだのは「未必の恋」なんですけど、心をギリギリとやられる作品が多いじゃないですか。背徳感のある恋愛ってなかなか現実には起こらないから、それを味わえるのが楽しくて。シギサワさんのを読んでいると、「すごくいけないことをしてる私」みたいな気分になります(笑)。
シギサワ うれしい、ありがとうございます! バーチャル悪事みたいな感じですよね。
「コロコロしなきゃいけない」が本当にかわいい(シギサワ)
──シギサワさんは、蒼樹さんがおっしゃったような心を抉るような作品がご自分でもお好きなんですか?
シギサワ 好きというか、まったく同じことが自分に起こったことはないんですけど、似たような感じでギリギリする出来事がたまにあって。このイラっとくる感じとか、イラっとくる感じとか、イラっとくる感じとかを……。
幾花 だいたいイラっとしてますね(笑)。
位置原 「お前は俺を殺す気か」というタイトルも、相当イラっときてる感じがする。
シギサワ そう(笑)。そのイライラを作品にぶつける。ちょっとずつ形を変えてグイグイねじり込んで、ぎゅうぎゅう詰めにして、「みんなはこういうふうになるんじゃないよ」って。
蒼樹 あ、そういうメッセージだったんですね。
シギサワ そうなんです。「私がやらかした失敗は、みんなするんじゃないよ」って。私は「転ばぬ先の杖マンガ」と呼んでいます。
蒼樹 シギサワさんがご自身で読んで、「きゃー」って乙女みたいになるような恋愛マンガってありますか?
シギサワ 私は実は、蒼樹さんのマンガなんです。
蒼樹 え!
位置原 相思相愛! 違う島に住んでいる人かと思ってたけど、橋が繋がった感じ(笑)。
シギサワ 「微熱空間」の1巻に、直耶が誰もいないリビングでくつろいでるときに亜麻音が友達と一緒に帰ってくるシーンがあるじゃないですか。そのあと亜麻音は友達と自分の部屋に行くんですけど、直耶がお菓子とか食べて散らかしてたから、「あとで念入りにコロコロしなきゃだよ!!」って言うんです。そのセリフがもうっ……なんて言っていいのかわからないけど女子!って感じで、「コロコロしなきゃいけない」というのが日本語としてすごくかわいい!
位置原 「コロコロしなきゃ」って、改めてピックアップされると確かにいいセリフですね。
シギサワ でしょう!? コロコロして、お菓子がいっぱい付いたら粘着する紙をぺりぺり剥がさなきゃいけないじゃないですか! そういうことをしながら、亜麻音が「もうっ!」って言いながら掃除しているのを想像すると、かわいいなあって。
蒼樹 全然意識せず、本当に流れで亜麻音が言いそうなセリフを描いたという感じなので、そこまで言っていただけるとは……。
幾花さんの描くキャラクターたちはセックスするだけの存在じゃない(シギサワ)
幾花 蒼樹さんの中で、亜麻音が生きた存在として動いていることの証ですね。僕はキャラクターの仕草とか、ちょっとした口調の癖とかがマンガで描かれているのが好きで。例えばさっき位置原さんが質問に答えていたとき、「なんだろうなー」って言いながら、何度か肘を触っていたんですけど、位置原さんをキャラクターにするとしたら、そういうところをマンガで表現したい。
位置原 僕が意識してない癖を(笑)。
幾花 そういう、別にドラマチックじゃない、自然な人間を描きやすいジャンルが恋愛マンガなのかなと思ってます。例えばこの座談会も、記事にするとみんながしゃべってる「あー」とか「うーんと」みたいな言葉が削られると思うんですけど、この口語らしさをマンガで描けたらいいなと思っちゃう。
──なるほど。
幾花 それでいうと、シギサワさんのマンガのセリフは口語的ですごく好きなんです。そういうものが積み重なることで、キャラクターが本当に生きていると思えるので。
シギサワ ありがとうございます。私も、実は幾花さんが楽園で描くって知る前から、comicアンスリウムと快楽天の幾花さんの作品を電子書籍で買って読んでました。「こんなに上手い人がいるんだ!」って。
幾花 え? ありがとうございます!
シギサワ 雑誌が成人向けなので、やっぱりセックスするじゃないですか。でも幾花さんの描くキャラクターたちはセックスするだけの存在じゃなくて、ちゃんと生活していて日常を送っている感じがすごくするんですよね。
──例えばどんなところでそう感じましたか?
シギサワ セックスしてる最中に、ペットボトルで水を飲んでたんですよ。そういうところが好きなんです。「あ、セックスすると喉が乾くもんね」って思える。
位置原 ああ、そうなんですよね。いいな、そういう生活感というか、生々しさみたいのを描きたいな。
シギサワ ね、人間らしいですよね。たぶんセックスが終わって冷蔵庫の中に何も入ってなかったら、この後キャラクターたちは何か食べに行くんだろうなとか想像できる。
幾花 うわ、そうイメージしてくれるのはうれしいです。セックスをする男女を描くだけのマンガにしたくなくて。結果としてセックスをすることになる2人なだけで、ベッドの外には当然世界があって、描いてないけど2人がセックスする部屋の隣にも部屋があって、冷蔵庫やダイニングテーブルがあったりするはずなんです。だからそれを読んで感じてくださってるって聞けたから、今日は来てよかったです……!
- 楽園 Le Paradis [ル パラディ]第25号
- 発売中 / 白泉社
中村明日美子、蒼樹うめ、木尾士目、久米田康治、シギサワカヤ、水谷フーカ、かずまこを、鶴田謙二、宇仁田ゆみ、沙村広明、kashmir、位置原光Z、黒咲練導、志摩時緒、迂闊、犬上すくね、あさりよしとお、panpanya、鬼龍駿河、竹田昼、平方イコルスン、黒井緑、武田春人、幾花にいろら豪華執筆陣が揃って描き下ろし!
- 蒼樹うめ(アオキウメ)
- 8月3日に兵庫県で生まれ、福岡県で育つ。代表作は4コママンガ「ひだまりスケッチ」 、キャラクター原案を手がけた「魔法少女まどか☆マギカ」など。焼きビーフンが好き。
- シギサワカヤ
- 冬の関東生まれ。2004年、スニーカー文庫(角川書店)の「憐 Ren」挿絵イラストにてデビュー。2006年に白泉社より単行本「箱舟の行方」を上梓、以降数誌で連載。2009年に楽園創刊より参加、現在に至る。
- 位置原光Z(イチハラヒカリゼット)
- 1986年生まれ。主にコミティアで同人活動していたところを週刊ヤングジャンプ増刊アオハル(集英社)でデビュー。単行本は「アナーキー・イン・ザ・JK」(集英社)、「お尻触りたがる人何なの」「正しいスカートの使い方」(白泉社)。現在は楽園にて連載しているほか、快楽天(ワニマガジン社)にて「青春リビドー山」を不定期連載中。ウルトラジャンプ(集英社)のセクシー読み切り企画にも参加予定。
- 幾花にいろ(イクハナニイロ)
- ペンネームでおわかりの通り、1987年2月16日生まれ。三重県出身。comicアンスリウム(ジーオーティー)、快楽天(ワニマガジン社)にて成人向けマンガを連載中。楽園 Le Paradis [ル パラディ]第26号(白泉社)より、新連載スタート予定。