コミックナタリー PowerPush -「蟲師」
アニメ再始動── 長濱博史監督が明かす8年間
曲を聴くと「ああ、これは○話だな」と思い出させる力
──音楽もすごく素敵ですよね。とても印象に残ります。
増田(俊郎)さんの音楽はすごいですよね。名作と言われるような映画には、テーマソングがアレンジ違いで映画中に散りばめられていて、全体を通して観た時にその曲が頭に残るような力があるじゃないですか。「蟲師」の音楽も同じように、曲を聴くと「ああ、これは○話だな」と思い出させる力があると思っています。
──監督から「この話はこんなイメージの曲を」というような注文はあったんですか?
全くないです。「この話の曲を下さい」って増田さんに言うだけです。実は笑い話があって、淡幽が出てくる「筆の海」という作品があるのですが、この曲のCDが届いて聞いてみたら、なんか違和感があって。僕はどうしてもそれが淡幽の曲とは思えなくて、「これ本当に『筆の海』ですか?」って確認したんですよ。でも届いたCDには確かに「筆の海」って書いてある。でも「筆の海」じゃないと思う、って話をしていたら、増田さんから連絡が入って、さっき送ったCD間違ってましたって。
──言い当てたんですね。
もうわかっちゃうんです。あの話の最後にこの曲が流れるわけないって。改めて届いたCDを聞いたら「ああ、これですこれです」って。ちょっと神がかってますよね(笑)。でも、それくらいみんな原作を読んでるんですよ。みんなの中心にあるのは原作なんです。
「蟲師」は僕のすべて
──原作に忠実に作ることへのこだわりがあっても、実際ここまでマンガを読んでいるのとアニメを見ているテンポが同じ感覚で見られるアニメってないと思うんですよ。
ああ、うれしいですね。
──でもたくさんの人が関わるアニメという表現方法で、作り手全員がその感覚を共有して実行するのはかなり大変なのではないでしょうか。
僕は原作が好きで面白いと思って作っていれば、みんなの感覚はズレないと思っているんです。例えば同じものが好きな同士が集まると大概盛り上がれるじゃないですか。「あそこいいよね」「でもおれはあのシーンも好きだな」「ああ、確かにそこもいい」「わかるわかる」ってなるでしょ。それは、それぞれの見方は違うかもしれないけど、感じているものにはそんなに大きな差がないからなんじゃないかなと。
──「好き」という感覚が共有できれば大丈夫、と。
僕は自分がアニメにする作品は絶対に好きになります。「蟲師」はそもそもが大好きなので、実はそんな苦労すらないんですよ。あと、僕には漆原さんっていう力強い味方がいたので。「このコンテ間違ってますか?」って聞いても、「何も間違ってないです。むしろセリフがないのによく表現出来ましたね」って言ってくれる。ああ、僕は間違ってないなって信じて作れます。
──確かにそれは間違いないですね(笑)。
誰かに文句言われてもね、「漆原さんからこれでいいって言われたもん」って(笑)。
──では最後に、監督にとって蟲師とは何ですか?
うーん、そうだなあ……。僕の「すべて」でしょうかね。何を作っていても「蟲師」が基準になっている。全部の中心に存在してます。監督をやり続ける限り、「蟲師」とともにありたい。スタートでもあるし、終わるのも「蟲師」で終わりたいですね。
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- TVアニメ「蟲師 続章」
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- 漆原友紀「『蟲師』特別篇『日蝕む翳』」
漆原友紀(うるしばらゆき)
アフタヌーン四季賞1998年冬のコンテストにて「蟲師」が四季大賞を受賞し月刊アフタヌーン(講談社)でデビュー。同年、アフタヌーンシーズン増刊(講談社)にて投稿作と同名の連載を開始。現実には存在しない蟲という特殊な存在を用いた、一話完結主体の秀逸な話作りで人気を得る。同作にて2003年に文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、2006年に第30回講談社漫画賞一般部門を受賞。アニメ、小説、ゲームなど多数のメディアミックスがなされ、2007年には監督大友克洋、主演オダギリジョーによる実写映画化が話題を集めた。
長濱博史(ながはまひろし)
1990年、マッドハウスに入社。「YAWARA!」などさまざまな作品に参加した後、フリーランスになる。1996年に「少女革命ウテナ」のコンセプトデザインを担当し、以降はプリプロダクションとしての作品参加も増えていく。2005年には「蟲師」にて初監督を務め、高い評価を獲得。東京国際アニメフェアでは、第5回東京アニメアワードのテレビ部門にて優秀作品賞を受賞した。このほか代表作は、OVA版「デトロイト・メタル・シティ」「惡の華」など。(長濱の「濱」は正しくは旧字体)
(c)漆原友紀/講談社・アニプレックス