コミックナタリー Power Push - 「黒執事 Book of the Atlantic」
人気キャラが総登場で大騒ぎ! まさに“劇場版”な「豪華客船編」の裏話を原作サイドが明かす
いるだけで華やかになるWチャールズ
──「黒執事」のアニメはⅠ期、Ⅱ期とオリジナル要素が多かったですが、「Book of Circus」以降は原作にすごく忠実ですよね。
当時、Ⅰ期の2008年とⅡ期を放送した2010年はまだ原作がたまってなかったんですよね。通常のアニメは最低でも単行本5冊はたまってないとやれないし、ましてや2クールだったので、アニメ側からしたらもうちょっと遅く仕掛けてもよかったはずなんですけど、原作側としてはどうしてもあの時期にアニメにしたかった。だからオリジナルを作っていくしかなかったんです。普通は原作をアニメで全部消化した後、続きがたまるのを待つためにオリジナルエピソードを作ると思うんですけど、たぶん「黒執事」は過去どこにもない変則的な作り方をしている。
──Ⅱ期なんて、まるっきりオリジナルですし。
どんどんやりましょうって感じでしたね。合計3クールやってるのに、原作を5冊しか消化してないっていう変わったコンテンツだったわけですよ。そこから2014年、原作がめちゃめちゃたまってるという不思議な状況で取った選択としては、「サーカス編」以降が忠実にアニメ化されるというのは自然な流れかなと。「サーカス編」「幽鬼城殺人事件編」「豪華客船編」と、全部話も締まっているので、修正するとしたら盛るしかないんですよね。
──盛るという意味では、今回の「Book of the Atlantic」では原作には出てこないWチャールズが船に乗っていますね。
脚本の吉野(弘幸)さんが言うには、「豪華客船編」は完結して時間も経っているので、こういったサービスを入れることでファンの方は喜んでくれるだろうと。本当の初稿は、実はもっといっぱい乗ってたんですよ。使用人も全員。
──へえ! でも降ろしてしまったんですね。
膨大な120分超えの映画になっちゃうってことで、泣く泣く元に戻して。Wチャールズは原作でキャラクター人気投票をしたときも上位でしたし、いるだけで賑やかになるなと。
──でもただ人気があるとかだけではなくて、Wチャールズが出てくることでエリザベスの回想シーンにもうまくつながったりと、すごくうまいなと思いました。
あれはさすがでしたね。あとゾンビパニックムービーなので、人間勢力側の戦える数がほしいというのもありました。なのでこの2人がいることはすごく整合性が高い。かつあの見た目なので、華やか。勉強になりましたね。
70歳の熟練アニメーターが描いた馬車ゾンビに注目
──枢さんは今回の劇場版をご覧になって、どんな感想をおっしゃっていましたか?
「黒執事」は豪華できらびやかでゴシックというところが身上ですが、今回は枢さんがそうではない方向でがんばって描いたということが伝わっていたのを感じて、喜んでましたよ。実際はお会いしていないアニメーターさんが「わかってるぜ」って感じで、豪腕で男らしい映像を作ってくれてるんですよ。「こういうの映画にあるよね」ってしゃべりながら僕らが作ったワンシーンが、「こういうことだろ」って感じでその答えを映像で返してくれている。例えばこの作品内におけるゾンビのルール上は絶対おかしいんですけど、馬車のゾンビが出てくるんですよ。でもこれって絶対B級映画の監督がやりたがるやつじゃないですか(笑)。「人間だけじゃなくて動物もいるぜ」みたいな。
──ええ(笑)。
ちょうどそのシーンを、動きの表現が難解といわれる馬を描ける70歳の大ベテランさんが描いてくれたらしくて。その話聞いて、枢さんめちゃくちゃテンション上がってましたね(笑)。あと男っぽい映像だけじゃなくて、例えばエリザベスの剣戟シーンはバトルなんだけどバレエをテーマに描いてくださったりとか。
──エリザベスが剣を片手に舞っている姿が俯瞰で映し出されて、だんだんとティーカップに変化する。とてもきらびやかで素敵な演出でした。今、アニメは「豪華客船編」までメディアミックスされて、あとは「寄宿学校編」「緑の魔女編」「青の教団編」と残っていますが、どのエピソードをどんなメディアで展開してほしいという希望はありますか?
全部アニメになってほしいという気持ちはもちろんありますね。でもそれは1回1回の成績もあるので。やっぱりこの映画も、前の「サーカス編」「幽鬼城殺人事件編」の結果を見てゴーサインが出たので。当時も一か八かの賭けだったんですよ。「幽鬼城殺人事件編」ってよくできてるんですけど絵面が地味なので。次があるかもわからないし今回で最後かもしれないので、「幽鬼城編」は見送って「サーカス編」と「豪華客船編」を1クールでやるという案もあったくらいですから。でも「豪華客船編」は単体でドンとやってほしかったので、成績が悪かったら二度と映像化されないかもしれないけど、これでいこうと。だからファンの方のおかげであのとき思っていたよりも大きい規模でやれたので、いいことづくめだし感謝してます。
──そんな事情があったとは、感慨深いです……!
あ、あとドラマ化はずっとやってほしいと思ってますね。海外の流れを継いで、ネットとかで。
──なるほど、ドラマ化。
ドラマって生活に密着してて毎日ともにあるメディアだと思うので。「逃げ恥(「逃げるは恥だが役に立つ」)」とかで毎週ドキドキして仕事が手につかなかったりするのとか、ああいうのすごい羨ましくて(笑)。ドラマ化だったらやっぱりストーリーは頭からかな。あと完全に現代に落とし込んでも面白いかもしれないですよね。
──では最後に、映画化に寄せてファンの方へメッセージをお願いできますか。
冒頭でお話したように、枢さんがモノクロ一色のコマ割りと絵の羅列であるマンガで、憧れた映画の世界というものの演出をやってみようと思って作ったものが「豪華客船編」なんですね。それがアニメの劇場版に逆輸入されているわけなので、これがある意味完成形なんじゃないかという気がするんです。ストーリーの改変もないので、マンガを読んでない人にとってもこれが完成形だし、最高の形に進化したものだと思うので。あと映画って、世代を超えた人たちがひとつの場所に集まれるところだと思うんです。例えば昔「黒執事」にハマってた女子高生4人組が、今は就職してあんまり集まれないけど、ここで一緒に映画を観に行ってみても楽しいでしょうし。そんな楽しみ方もしてみてほしいですね。
あらすじ
19世紀英国──名門貴族ファントムハイヴ家の執事セバスチャン・ミカエリスは、13歳の主人シエル・ファントムハイヴとともに、“女王の番犬”として裏社会の汚れ仕事を請け負う日々。ある日、まことしやかにささやかれる「死者蘇生」の噂を耳にしたシエルとセバスチャンは調査のため、豪華客船「カンパニア号」へと乗り込む。果たして、そこで彼らを待ち受けるものとは──。
スタッフ
原作:枢やな(掲載 月刊「Gファンタジー」スクウェア・エニックス刊)
監督:阿部記之
脚本:吉野弘幸
キャラクターデザイン・総作画監督:芝美奈子
音楽:光田康典
制作:A-1 Pictures
配給:アニプレックス
キャスト
セバスチャン・ミカエリス:小野大輔
シエル・ファントムハイヴ:坂本真綾
エリザベス・ミッドフォード:田村ゆかり
葬儀屋:諏訪部順一
グレル・サトクリフ:福山潤
ロナルド・ノックス:KENN
ウィリアム・T・スピアーズ:杉山紀彰
スネーク:寺島拓篤
バルドロイ:東地宏樹
フィニアン:梶裕貴
メイリン:加藤英美里
チャールズ・グレイ:木村良平
チャールズ・フィップス:前野智昭
エドワード・ミッドフォード:山下誠一郎
フランシス・ミッドフォード:田中敦子
アレクシス・ミッドフォード:中田譲治
ドルイット子爵:鈴木達央
リアン・ストーカー:石川界人
ほか
©Yana Toboso/SQUARE ENIX,Project Atlantic
枢やな(トボソヤナ)
1984年1月24日埼玉県生まれ。2004年月刊Gファンタジー(スクウェア・エニックス)にて「9th」でデビュー。2005年、同誌にて「Rust Blaster」を初連載する。2006年からは「黒執事」を連載し注目を集め、2007年にドラマCD化、2008年にテレビアニメ化、2009年に舞台化、2014年に実写映画化を果たした。
熊剛(クマタケシ)
2001年、エニックス(現:スクウェア・エニックス)に入社。同年より月刊「Gファンタジー」編集部に配属される。これまでの主な担当作品に「デュラララ!!」「魔法科高校の劣等生」「ZOMBIE-LOAN」、テレビアニメ「革命機ヴァルヴレイヴ」(副シリーズ構成として参加)がある。
2017年1月27日更新