音楽ナタリー Power Push - ナタリー×Hulu 語りたくなる1本がある。
井上三太編
テレビやPC、スマホなどさまざまなデバイスで国内外のドラマや映画が楽しめる月額制の動画配信サービス「Hulu」。ユーザー数100万人突破を記念し、2015年4月より「フールー、オン」と題したキャンペーンを展開している。
ナタリーでは、音楽、コミック、お笑い、映画の各ジャンルごとに「フールー、オン」の特設サイトと連動したインタビュー企画「語りたくなる1本がある。」を実施。第4弾となるコミックナタリーでは、「隣人13号」「TOKYO TRIBE」で知られる井上三太を招き映画への思いを語ってもらった。井上がHuluで配信中の作品から選んだ「語りたくなる1本」とは?
取材・文 / 大谷隆之 撮影 / 佐藤類
1人の映画好きの中にはいろんな面がある
──まずは三太さんのHulu歴から教えてください。
日本のサービス開始(2011年8月31日)直後から愛用してます。僕、LAに遊びに行くのが好きなんですけど、向こうではかなり以前から街のレンタルDVDショップがなくなっていて。家で楽しむ映画は、もう完全にストリーミング主流なんですよ。なので、最初から違和感はなかった。むしろ「やっと来たか」って感じで。
──なるほど。Huluのどういったところに魅力を?
ベタだけど、夜中の3時過ぎに仕事が終わった後、思い立ってすぐ観られるのはやっぱり便利っすよね。あと、検索がすげえラク。リアルな店舗だと、お目当ての映画を見つけるのに時間がかかるでしょう。特にクラシックな名作系はそう。例えば「グッドフェローズ」だったら、店によってマーティン・スコセッシ監督の棚と、ロバート・デ・ニーロの棚を両方見なきゃいけなかったりしてイライラするし。ドラマとアクション、どっちの括りになってるのかわからなくて、また混乱する(笑)。Huluだと、一発で辿りつけるから。
──そのストレスが解消されるのは大きいですよね。ちなみに、今パッと名前が出た「グッドフェローズ」はお好きなんですか?
大好き。生涯ベスト級の1本です。ただ当たり前だけど、好きなのは「グッドフェローズ」であって、ああいうギャングものなら何でも好きってわけじゃないんだよね。スコセッシ映画でもピンと来ない作品はもちろんあるし。観返した回数だけで言えば、メグ・ライアンの「恋人たちの予感」の方が多いかもしれない。ラブコメはラブコメで、すごく楽しいですから。
──映画が好きになればなるほど、「自分のフェイバリットはこれです」と言い切るのがつらくなると。
僕はデヴィッド・フィンチャー監督のハードな世界観にはすごく惹かれるけど、同じくらい「男はつらいよ」シリーズも好きだしね。1人の映画好きの中にはいろんな面がある。ただ、そこにはやっぱり自分なりの基準があるんですよ。言葉では説明できないけれど、明確な何かが。女の子の好みと同じなんじゃないかな。口ではいろいろ言っても、結局は会ってみないとわからない(笑)。
──逆に言うと、出会ってしまえば意外な相手と恋に落ちる可能性だってあるわけですね(笑)。
うん、まさに。以前、北野武さんが「冒頭の5分間を観れば、その映画が面白いかどうかは大体わかる」とおっしゃってましたが、そういう感覚って映画ファンなら大抵ありますよね。その作品のムードとかテンポが自分に合ってるかどうかは、たしかに最初の5分くらいで伝わってくる。でも面白いことに、予告編じゃダメなんですよ。最近のトレーラー映像って、作り手とは別の人が違う論理で編集してますから。作品の持ってるリズム感と必ずしも一致してない。その意味でもHuluみたいなサービスはありがたいですね。気軽に観始めることで、思いがけない出会いも準備してくれるから。
井筒さんの不良映画は、殴られたほうの痛さもしっかり描かれてる
──今回選んでいただいたリストは、特にテーマは設けずに?
はい。とにかく面白くて、何度でも観返したくなる作品をズラッと挙げてみました。なので、一貫性は感じられないかもしれないけど(笑)。僕にとっては、どれも大事な映画。
──じゃあまず、スコセッシつながりで「岸和田少年愚連隊 BOYS BE AMBITIOUS」と「パッチギ!」から。2本とも井筒和幸監督の作品ですが……。
あ、そうか! 井筒監督もスコセッシ好きですもんね。僕、井筒さんとは一度対談させてもらったくらいファンなんですけど、そう考えると、自分の中ではどっかスコセッシと繋がってる気がする。2人とも男同士の絆というか、切っても切れない腐れ縁みたいな関係を執拗に描くでしょう。「グッドフェローズ」のデ・ニーロとレイ・リオッタもそうだし「岸和田少年愚連隊」のナインティナインもそう。あと、画面から街の匂いが漂ってくるところも似てますね。スコセッシ作品はニューヨーク、井筒作品はディープな関西。特に「岸和田少年愚連隊」は、自分が行ったことのない漁師町の荒れた雰囲気が伝わってきて。
──ローカルなリアリティがありますよね。
うん。国も時代も異なるけど、僕の中では「ボーイズン・ザ・フッド」とか「メナース II ソサエティー」みたいなLAのギャングスタ・ラッパー映画と重なるところもある。その土地で生きてる若者の、ヒリヒリした皮膚感が想像できるという意味では(笑)。「岸和田少年愚連隊」は会話のテンポも最高なんですよ。踏切を挟んで、敵のグループとかち合うシーンがあるでしょ。
──名場面ですよね。当時32歳の木下ほうかさんが、不良中学生の番長役を演じているという。まだブラックマヨネーズを結成する前の吉田敬さんが、その子分役で。
ケンカするか逃げるか、一瞬の判断を迫られる瀬戸際で、主人公2人が「今日、どっちにしょう?」「いけいけドンドンか、にこにこバイバイか」って言い合う。そのくだらないディテールが、たまらなく愛らしいんですよね。デビュー作の「ガキ帝国」以来ずっと、井筒さんの不良映画は単に威勢がいいだけじゃない。負けた側の哀れさとか、殴られたほうの痛さみたいなものもしっかり描かれてる。僕自身、長く「TOKYO TRIBE」というシリーズを描いてたのでリアルにわかるんだけど、そういう作品って本当に稀なんですよ。下手な人がやるとくさみが出て、耐えがたいものになっちゃう。その点で井筒映画は、関西弁の泥臭いイメージが強いけれど、実は独特の美意識があってオシャレだと思います。
──「パッチギ!」はいかがですか?
すごく感動しましたね。朝鮮高校と日本の高校の不良グループがぶつかりあうクライマックスもよかったし、あとやっぱり、在日の長老を演じた笹野(高史)さん。それまで穏やかだった老人があるキャラクターのお葬式で思わず心情をぶちまける。そのセリフが、苦労を重ねてきた在日の人たちの気持ちを代弁しているようで……何回観てもグッときます。「パッチギ!」を撮ったとき、監督は沢尻エリカとか若いキャスト陣を長期間京都の安ホテルで合宿させて、しごきまくって生々しい演技を引き出したんですって。そういう勢いみたいなものも、作品全体から伝わってきますよね。
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- 紀里谷和明編
- ナイツ編
- [Alexandros]編
- 井上三太編
Huluとは
月額制の動画配信サービス。テレビやPC、スマートフォン、ゲーム機などさまざまなデバイスで視聴できる。わずか3分の会員登録で人気映画やドラマ、アニメがすべて見放題に。今年4月よりユーザー数100万人突破を記念し、現在「フールー、オン」と題したキャンペーンを実施中。
井上三太の語りたくなる作品リスト
- 蒲田行進曲
- 松本清張 鬼畜
- 岸和田少年愚連隊 BOYS BE AMBITIOUS
- 学校
- レスラー
- パッチギ!
- スタンド・バイ・ミー
- ゴシップガール
- 異人たちとの夏
- ユダ
- ラスト・ターゲット
- レオン 完全版
- クリフハンガー
- トータルリコール
- 遊星からの物体X
- カジノ
- ベルリンファイル
- めぐり逢えたら
井上三太が選んだ作品はHuluで配信中。Huluで作品を観よう!
※各作品のHuluでの配信には期限があります。
井上三太原作・映画「TOKYO TRIBE」Huluにて配信中
井上三太(イノウエサンタ)
「KING OF STREET COMIC」の異名をとるマンガ家。1989年、「まぁだぁ」でヤングサンデー新人賞を受賞しデビュー。1993年にJICC出版局より出版された「TOKYO TRIBE」から始まるTTシリーズは自身のライフワークになっており、代表作「TOKYO TRIBE2」は香港・台湾・アメリカ・フランス・スペイン・イタリアでも出版されている。同作は2014年に実写映画化も果たした。1994年からコミックスコラ(スコラ)にて連載されたサイコホラー「隣人13号」は同誌の休刊により連載が中断されるが、その後も自身のWebサイトで続きを発表し1999年 には幻冬舎から単行本化。2005年には小栗旬・中村獅童のW主演による実写映画が制作され、劇場公開された。最新作「TOKYO TRIBE WARU」が別冊ヤングチャンピオン(秋田書店)にて連載中。ウェアブランド「SANTASTIC!」のディレクターも務め、自身のフラッグシップストアSANTASTIC!を渋谷にオープンして今年2016年で14年目になる。