ハルタWeb原画展 作家が選ぶ「この1枚!」

マンガ誌・ハルタ(KADOKAWA)が誕生したのは2013年2月。以来、年10回のペースで刊行を続け、2022年12月にはVol.100を突破した。新人作家を中心に、純粋な“マンガの力”だけで勝負する。そんな雑誌のコンセプトは、前身となるFellows!の頃から、創刊10周年を超えた現在も変わらない。インドネシア語で“宝物”を意味するというその誌名の通りに、きらめくような作品の数々を、マンガを愛する人に届け続けている。

コミックナタリーではそんなハルタの10周年イヤーの締めくくりとして、また11年目への足がかりとして、ハルタ作品の“Web原画展”を企画。この1年に掲載された連載計44作品から、「作家が選ぶ『この1枚!』」をテーマに、思い入れの深い劇中の1ページをセレクトして、コメントを寄せてもらった。浮かび上がってきたのは、普段は知ることができない作家のこだわり。1枚1枚に込められた熱量の高さを、改めて堪能してほしい。

気になった作品があればすぐに読めるよう、各項目には第1話への試し読みリンクも併記している。新たなマンガと出会うきっかけにもなれば幸いだ。

構成 / 鈴木俊介

ハクメイとミコチ
樫木祐人

「ハクメイとミコチ」

8巻収録

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このページにはありふれた朝の風景が描かれているのですが、一つ一つの仕草や陰影が全て「キャラクターの記憶に残る空間と瞬間」としてそこに在るようで、個人的に大変気に入っています。顔を洗う際に濡れると嫌なので半着の外紐を解きつつ風呂場に向かう生活感や、桶に少しずつ溜まる水を眺めながらぼーっと待つ感じ、表情に出る程でもない肌寒さ、布団からなんとか出たものの動けず、同居人の立てる水音をただ聞いている時間もとても良いです。
でも今同じシーンを描くなら水鏡に映ったミコチの目線は手元の方向を向かせると思います。あと1コマ目の漫符は余計ですね。

樫木祐人

どんな作品?第1話を読む

神に誓って偽りです
松本水星

「神に誓って偽りです」

ハルタVol.109掲載

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主人公の初登場シーンということで、試行錯誤した思い出深い1ページです。
2コマ目は、目も髪もトーンのみで仕上げようと決めて描き始めたのですが、結局物足りなく感じてトーンの上から黒い部分を塗り足しました。黒ベタは画面が引き締まって見える重要な要素ですし、どう使うかで作家の個性も見えてきます……黒ベタは奥が深い。

松本水星

どんな作品?第1話を読む

ふしぎの国のバード
佐々大河

「ふしぎの国のバード」

ハルタVol.109掲載

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アクションシーンを描く機会の多い漫画ではないのですが、人の動きは描いていてとても楽しいです。躍動感が出るようコマ割りやレイアウト、効果線を工夫しています。伊藤くんは苦労の似合うキャラクターで、大変な目に遭うシーンでは生き生きしますね。

佐々大河

どんな作品?第1話を読む

本なら売るほど -古本屋十月堂とその客-
児島 青

「本なら売るほど -古本屋十月堂とその客-」

ハルタVol.107掲載

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連載初回の主役マリちゃんが古本屋十月堂で買った本『恋人たちの森』(森茉莉著)を読む場面のイメージシーンです。ここを描くにあたり、森茉莉さん縁故の著作権者の方から、温かいお言葉とともに引用を快諾いただきました。私自身も彼女のファンなので、同作の濃密で耽美な空気には及ばないまでも、なるべくイメージを損ねないようにと緊張して描いた大事なページです。ちなみに森茉莉の本はエッセイもぶっ飛んでいて面白いです。

児島 青

どんな作品?第1話を読む

ダンジョン飯
九井諒子

「ダンジョン飯」

13巻収録

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たくさん主人公を描くことになって大変だった話の1ページです。
キャラクターをたくさん描く話はネームの段階で「大変だろうなあ」と暗い気持ちになるのですが、よくやります。

九井諒子

どんな作品?第1話を読む

Servant Beasts
森野鈴鹿

「Servant Beasts」

ハルタVol.108掲載

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体格の大きなハルが魔女に押し倒されている所が見たくて描いたページです。この話からアナログのペン入れになり、苦戦しつつも良い線が引けたかも…と思えたコマだったので選びました。特にハルのサスペンダーの隙間や足の間に入り込む魔女様のポーズを拘りました。2コマ目の鼻をぴとっと触る所は、ヒヤッとした犬の鼻の感触を思い出しながら描いています。

森野鈴鹿

どんな作品?第1話を読む

ヴラド・ドラクラ
大窪晶与

「ヴラド・ドラクラ」

6巻収録

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ヴラド三世には「幽閉中、生活の質を稼ぐために編み物をした」という説があるのですが、これは後世の創作であろうと言われています。ネタとして使うかどうか迷ったのですが、最初の妻と死別する話を作る時、彼女との絆を深める為に思い切って採用。結果的に新たな人物との縁を紡ぐ道具になり、獄中でも外部への連絡手段として活かせました。このページでは2人が初めてお互いに見せる恋人のようなシーンを、と思って描いたのを印象深く覚えています。

大窪晶与

どんな作品?第1話を読む

犬火の兄弟
吉田真百合

「犬火の兄弟」

ハルタVol.109掲載

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最初は速水御舟の「炎舞」みたいな炎が描きたかったのですが、主人公の瞼に焼き付けるなら猛火だ!と思い激しい炎になりました。森を描くのが楽しい一方で描き込みがしんどいジレンマもあるので、計画的にベタなどのマイナスの仕事もしてみようと試みた一枚です。(結局殆ど描いてはいますが…)

吉田真百合

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山を渡る -三多摩大岳部録-
空木哲生

「山を渡る -三多摩大岳部録-」

5巻収録

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登山では初登頂という概念があるのですが、沢登りという日本独自の山遊びの描写は商業誌で世界初かも(?)しれないので、ウッキウキしながら描きました。日の光が入らない影の部分の濡れて光った岩。 ダムの下などでも感じる暗くておっかない滝の雰囲気を出したくて、限られた時間でペンを何回も動かしたように思います。 宿泊を計画に入れた沢登りも次また描いてみたいと思っています。

空木哲生

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悪魔二世
志波由紀

「悪魔二世」

ハルタVol.102掲載

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このシーンは喫茶店の厨房でのシーンになっています。なので包丁の形をお店用のにした方が「っぽい」かな?と思ったのですが、読んでいる人に日常で起きた異常事態を感じてほしくて普通の包丁にしました。顔の大きさに対して包丁がどれくらいかを知りたかったので自分の顔に包丁を当てて測りました。すんごく怖かったです。でもおかげでイケてる包丁が描けました。

志波由紀

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峠鬼
鶴淵けんじ

「峠鬼」

ハルタVol.106掲載

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『峠鬼』の主人公である妙が、VRゲーム空間にて水災を起こし、龍の姿へと変身する(させられる)シーンです。龍や蛇が水と密接な関係を有するのは日本を含めたアジア地域の強い特徴で、ある土地に水難等が起きたとき土着の神様があとづけで龍神だったことにされる……そんな事例は各地でまま見られます。そうしたことをざっくりと表現したシーンで、絵もよく描けたので、なかなか気に入っております。

鶴淵けんじ

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