描かないと生きていけない
──福山さんのお話を聞いていると、「マンガを描く楽しさも苦しさも表裏一体」ということが伝わってきます。
本当にそうなんですよ。ドMみたいですが、苦しさも楽しい!って思ってしまって。
──マンガを描くうえで一番楽しい時間と苦しい時間はどれですか?
両方ともネームです。思い通りにネームが描けないときが一番苦しい。でも自分が何度も読み返したくなったり、読み返して鳥肌が立ったりするネームが描けると「ああ楽しい!」って。
──先ほども「マンガを描くことを愛している」とおっしゃってましたね。
愛してますね。
──「好き」を超えてる。
そうです、愛を説明するの難しい(笑)。苦しくても苦しくてもやっぱり描いちゃうし。うまく言えないんですけど、描かないと生きていけない。
「久美子&真吾」「ディア マイン」が好き
──福山さんがマンガ家を志したきっかけを教えてください。
幼稚園の頃から絵を描くのが好きでずーっと描いてたんです。明確なきっかけみたいなものはなかったのですが、小学2年生のときに小学館の学年誌でマンガに初めて出会い、「マンガ家っていう仕事があるんだ!」と驚いて。そこから「私はマンガ家になる」と、親を洗脳する勢いで言い続けてました(笑)。
──花とゆめは読んでいましたか?
はい、雑誌の購読歴は2年くらいなんですけど。友達に山田南平先生の「久美子&真吾シリーズ」を借りたのを機に花ゆめを知りました。それまでりぼん(集英社)を読んでいたんですが、小学生向けの少女誌と「久美子&真吾シリーズ」は読み心地が違って、「え、こんなマンガがあるの?」と驚いて……。
──わかりやすさではなく行間を読ませるような表現だったり、女子高生と男子小学生の恋愛の難しさを描いていたりと、少し大人なマンガの魅力に開眼した感じでしょうか。
そうかもしれません。そう言えばデビューの1年くらい前、山田先生のところにアシスタントに行かせていただいたことがあって。
──「紅茶王子」の頃ですか?
そうです、「紅茶王子」の割と初期、1年間くらいアシとしてトーンを貼りに行かせていただいてましたね。私、「花ゆめを読み始めたきっかけは山田先生です」ってご本人に言ったかなあ……言ってないかも。
──山田南平さんがこのインタビューを読んだら驚くかもしれませんね(笑)。ほかにお好きな作品は?
高尾滋先生の「ディア マイン」が好きでしたね。
──もしかして、年下の男の子が好みなんですか?
え? ……あ、本当だ!(笑) 風茉くんも10歳! うわ、怖いですね。無意識だったんですが、隠された性癖が明かされてしまった……。
──あはは(笑)。福山さんは2000年にデビューしてから来年で画業20周年、ずっと花ゆめをメインに活動されてきました。花ゆめの良さはどこだと思いますか?
一番いいのは、作家の絵柄がみんな違うこと。
──確かにそうですね。雑誌ごとに絵柄の傾向って多かれ少なかれありますが、花ゆめはけっこう独自なタッチの作家さんが多いかもしれません。
そうなんです、みんな個性があってすごいんですよ。いい意味で、世間とか流行に全然迎合してない。昔から己の趣味を突き進んでる感じがあります。
──福山さんは、ご自分の絵柄で個性のある部分ってどこだと思いますか?
どこだろう? 目かなあ。
──目のどのあたりですか?
眉毛と、下まぶたの縁の線はこだわり……というほどではないんですが、特に気を使っているところです。この2つの組み合わせで、表情の種類が何千通りもできるんですよ。
──瞳孔ではないんですね。
瞳孔はそんなにですね。もちろん瞳孔を上のまぶたの縁にくっつけたり離したりで表情は変えられるんですが、私は眉毛と下のまぶたの線を大事に描いてます。キャラクターが苦しいとき、下まぶたの線をぐいぐい上に上げると、どんどん苦しい表情になっていくんです。下げると、感情がダウンする。その線を上げたり下げたり歪めたりして、感情の盛り上がりを表現します。
「花ざかりの君たちへ」は幕の内弁当
──“花ゆめらしい作品”と聞いたとき、どんな作品を思い浮かべますか?
わー難しい質問! でも、「花ざかりの君たちへ」(中条比紗也)がパッと出てきました。なんか、全部詰め込まれてないですか? 女の子が主人公だけど男装してて、男子寮もので、逆ハーレムで、学園生活で……これが“ザ・花とゆめ”だ!みたいな。
──花ゆめは男装女装、男子寮ものが得意だと女子マンガ研究家の小田真琴さんもコラムでおっしゃってますね(参照:花とゆめ創刊45周年特集 第3回 女子マンガ研究家・小田真琴コラム)。
やっぱり。「花君」は美味しいところを全部入れた幕の内弁当みたいです。それに現代ラブコメだから、誰でも読めてとっつきやすいんですよね。
──今の花ゆめで、気になっている作品はありますか?
sora先生の「墜落JKと廃人教師」です。
──soraさんもインタビューで「福山先生が憧れ」って言っていました。相思相愛ですね(参照:花とゆめ創刊45周年特集 第4回 soraインタビュー)。
それを読んだからというわけではないんですが、そう言ってくださったことはめちゃくちゃうれしいです! sora先生は絵もうまい、話もうまい、キャラもいい。連載準備や休みなどでしばらく花ゆめを読めてなかった時期もあるんですけど、「墜落JK」は1話完結なので、いつ読んでもちゃんと面白くて。
──最後に、45周年を迎えた花とゆめにメッセージをお願いします。
あんまり変わらずに、このまま独自路線を引き続き突っ走ってほしいです。本当に、そう思います。
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- 福山リョウコ(フクヤマリョウコ)
- 和歌山県出身。2000年にザ花とゆめ(白泉社)に掲載された「カミナリ」でマンガ家デビュー。2003年に花とゆめ(白泉社)で10代のモデルを主人公とした「悩殺ジャンキー」の連載を開始、同作がヒットし代表作となる。その後、2008年より2012年まで「モノクロ少年少女」を発表。2013年から2019年までバンドと片恋をテーマとした「覆面系ノイズ」を連載。TVアニメ化、実写映画化も果たす。
2019年11月20日更新