花とゆめ創刊45周年特集 第6回 福山リョウコインタビュー|マンガを描く楽しさも苦しさも愛してる!

一番うれしかったことも大変だったことも「覆面系ノイズ」で味わった

──2013年に連載がスタートし、全18巻で完結した「覆面系ノイズ」について、改めて聞かせてください。

すごく大切な作品になりました。マンガ家生活で一番うれしかったことも大変だったことも味わわせてくれて……。

──ズバリそれは?

「覆面系ノイズ」は2017年にTVアニメ化、実写映画化された。

うれしかったのも大変だったのもメディア化です。自分の作品が別の媒体で、誰かの手で料理されるというのはずっと夢でした。本当にうれしかった。

──TVアニメ化も実写映画化も果たしましたね。

特に曲はもう宝物です。

──アニメでも映画でも「ハイスクール」「カナリヤ」など作中バンド・in NO hurry to shout;(通称・イノハリ)の曲が実際に作られ、ニノ役の早見沙織さんや中条あやみさん、深桜役の高垣彩陽さんや真野恵里菜さんが歌われました。

マンガではイメージを固定させたくなかったから、あえて曲の雰囲気や歌詞は出さないようにしてたんです。メディア化したことで実際に曲を制作するという真逆の方向に行きましたけど、私の作品から誰かが曲をイメージして作ってくださるということはすごく幸せな体験でした。

──大変だったのもメディア化とのことですが。

今まで私1人で担当さんとやり取りしてマンガを描いてきたんですけど、メディア化で莫大なお金や人が関わってくるプレッシャーと責任感がすごかったです。餅は餅屋なので相手にお任せしたほうがいいってわかっていたんですが、後悔したくなくてつい足を突っ込んでしまい……。

アニメではニノ役を早見沙織、ユズ役を山下大輝、モモ役を内山昂輝が演じた。また実写映画ではニノ役に中条あやみ、ユズ役に志尊淳、モモ役に小関裕太がキャスティングされた。

──原作者の思いを伝えたほうが、原作ファンも納得するメディア化になるのではと思います。

そう思ってくれたらいいな。メディア化が決定したときに自分の中で決めたのは、例えば日本中で「覆面系」がめちゃくちゃ大ブームになっても、自分は描きたいものを引き続き描くぞ!ということでした。

──マンガはマンガとして、ほかの意見に引っ張られず描くという決意。

はい。メディア化で大波小波ありましたけど、そのスタンスを維持できたのは自分の中で経験として大きかったです。

自分のマンガに納得したら、描かなくなる気がする

──「覆面系」1巻の発売時のインタビューで「とにかく、納得したいんですよね。『もっとこうできたはず』って後から思うのが嫌で」とおっしゃっていました(参照:福山リョウコ「覆面系ノイズ」インタビュー)。キャラ設定、プロットと「納得できるまで考える」が1巻のときのキーワードだったのかなと思います。

わー、めっちゃ生意気なこと言ってて恥ずかしい!

──あはは(笑)。連載していた6年間、この思いに変化はありましたか?

「納得できるまで」はずっと変わらず思っていました。でも「覆面系」に納得できているかというと……できてないです。

──え、そうなんですか?

そのときの全力を出した、やりきったという自負はあるんです。でももっといろいろできたんじゃないかという思いはいつもあって。私、過去作を全然読み返せないんですよ。たぶん納得できてたら読み返せると思う。それに自分のマンガに納得しちゃったら、もう描かなくなる気もします。

──なるほど、自分の作品に満足したら、それはもう伸び代がないということだから。

そうです。

──読み返せないから難しいかもしれないんですが、「覆面系」のストーリーを振り返って特に印象に残っているエピソードはどこですか?

「覆面系ノイズ」第91話より。

今出てくるのは、第91話。ニノがユズの喉に目印をつけるシーンです。

──ユズがニノの喉に目印をつけた第1話と対になっているエピソードですよね。「オワリとハジマリはいつだってせなかあわせ」という作中でリフレインされていたモノローグが、第1話と終盤の第91話でかっちりとハマったなと、読んでいても気持ちよかったです。

あの回は、我ながら「やったな!」と思いました。立ち上げのときの担当さんと次の担当さんにも「絶対読んでくれ!」って刷り出しを持って行くほどで(笑)。あとは……(第91話が収録された16巻をめくりながら)あ、この巻いいな! 第93話もお気に入りなんです。

──イノハリのマネージャー・ヤナがメインのエピソードですね。

ユズやニノという天才を裏から支えてた人が、その天才がちゃんと成長したところを見届けた。そして自分の幸せも手に入れた。これは究極に報われる話だなあと。「覆面系」で一番報われたの、ヤナかもしれません。

──16巻でイノハリが活動休止し、「覆面系」は終盤へ向かっていきます。物語は第1話から「覆面系」の重要な場所だった由比ヶ浜でフィナーレを迎えましたが、由比ヶ浜を歩く2人のラストシーンは前から決めていたんですか?

はい。実は映画の脚本にと思っていたシーンなんです。映画は諸事情で変更になったんですが、マンガはこうありたいと思って。

最終巻のライブシーンには、できることを全部詰め込んだ

──マンガで音楽を表現することについても聞かせてください。

自分の好きな音楽を、マンガに落とし込めることがすごく楽しいです。曲の具体的なイメージは持たないでほしいと思って描いてきたんですけど、私の中にはやっぱり曲のリズム感のイメージがあって。演奏シーンを描くときには、読者の方が読むテンポと曲のリズムをうまいこと当てはめられないかと試行錯誤するのが面白かったですね。

──表現するうえで大変だったところは?

楽しさと表裏一体なんですけど、臨場感がうまく出せないときは本当に苦しくて。人物に寄ったほうがいいのか、ライブ全体を見せるために引いたほうがいいのかとか構図の問題から、ベースの指弾きのスピード感を表現するための指先とか、どのタイミングでどのコマがきたら読者の方が気持ちよくなってくれるんだろうとか……ハマったら楽しいんですけど。

──ハマったと思うエピソードはどこですか?

最終巻のROCK HORIZON(作中に登場するロックフェスティバル)の2話分です。もう最後だからと思ってそのときできることを全部詰め込みました。

「覆面系ノイズ」第100話より。

──フェスのステージに上がったニノとユズ、その背景のきれいな空と地平線を埋め尽くすほどの観客が描き込まれたシーンは、前後の緩急もあってフェスの興奮が伝わってきました。

ありがとうございます! そのシーンはアーティストの方に「なんでこの景色知ってるんですか?」って言われてうれしかった箇所です。

──なんで知ってるんですか?

ライブ中継とか?(笑) それにリアリティを持って描けるように、たくさん取材しました。

──初めての本格的なライブシーンは5巻で、これもやはりROCK HORIZONでした。

「覆面系ノイズ」5巻より。

5巻のフェス、まさに私の初期衝動!という感じで。いろんなセオリーを無視してるんですけど、描いてて一番気持ちよかったライブシーンかもしれません。

──セオリーとは?

機材の配置とか楽器の弾き方とかのリアリティと言えばいいのかな。5巻では、それよりも、自分の描きたい動きを優先してるんです。たくさん取材したからこそ、今はもう5巻のときのように自由には描けない。それに、このライブからイノハリの才能が開花していくので、5巻の時点より成長していく過程を見せる必要があって、5巻以降のライブシーンを描くのは難しかったですね。どうやったら「音楽ってすごい」って思ってもらえるのか、試行錯誤の連続でした。

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歌が大好きなニノは、幼い頃2つの別れを経験する。1つは初恋の相手・モモ。もう1つは曲作りをする少年・ユズ。いつの日かニノの歌声を見つけ出す……2人と交わした約束を信じてうたい続けてきたニノ。時はすぎ、高校生になった3人は……。TVアニメ化、実写映画化も果たした話題作。

福山リョウコ(フクヤマリョウコ)
福山リョウコ
和歌山県出身。2000年にザ花とゆめ(白泉社)に掲載された「カミナリ」でマンガ家デビュー。2003年に花とゆめ(白泉社)で10代のモデルを主人公とした「悩殺ジャンキー」の連載を開始、同作がヒットし代表作となる。その後、2008年より2012年まで「モノクロ少年少女」を発表。2013年から2019年までバンドと片恋をテーマとした「覆面系ノイズ」を連載。TVアニメ化、実写映画化も果たす。

2019年11月20日更新