「どうにかなる日々」|志村貴子作品はここから始まった。女の子同士を描くこと、オムニバスの楽しさに気付き、「青い花」「娘の家出」「放浪息子」「淡島百景」へ

志村貴子の画業を振り返り

「どうにかなる日々」は志村が初めて女の子同士の恋愛を描いた作品。同作で「もっと女の子の話を描きたい」と思ったことから、後のヒット作「青い花」や「淡島百景」につながったという。ここではデビューから約23年の間に志村が生み出した作品群を、印象的なシーンとともに紹介していく。

「敷居の住人」1巻
1997年~2002「敷居の住人」月刊コミックビーム(KADOKAWA)

男子中学生の本田千暁は、顔だけはいい不良少年。そんな彼をつかめない美少女・菊池奈々子、イケメン不良教師の兼田ら個性豊かなキャラクターたちが取り囲み、思春期特有のウダウダモヤモヤした日常が描かれる。志村にとって本作が初の連載デビュー作だ。

「どうにかなる日々」1巻
2002年~2004「どうにかなる日々」マンガ・エロティクス・エフ(太田出版)
「どうにかなる日々」より。

同性同士や近親相姦、さらには人間と幽霊の組み合わせなど、さまざまな恋愛の形を描くオムニバスシリーズ。「青い花」「淡島百景」「こいいじ」といったヒット作をともに生み出した現担当編集と、初めてタッグを組んだ作品だ。連載から約20年の時を経てアニメ化され、2020年5月8日から全国で劇場公開される。

「ラヴ・バズ」1巻
2002年~2004「ラヴ・バズ」ヤングキング別冊KINGDOM、ヤングキングアワーズ(ともに少年画報社)
「ラヴ・バズ」より。

失踪していた人気女子プロレスラー・藤かおる。ある日突然子連れで帰還し、復帰を目指して奮闘する姿が描かれる。志村が連載当時洋楽にハマっており、タイトルはニルヴァーナの楽曲から付けたという。

「放浪息子」1巻
2002年~2013「放浪息子」 月刊コミックビーム(KADOKAWA)

女の子のかわいい服を着たいという気持ちが抑えきれない内気な男の子・二鳥修一は、転校先の小学校で、背が高くカッコいい女の子・高槻よしのと出会う。実は彼女もまた、「男の子になりたい」思いを胸に秘めた女の子だった。思春期の男女が性別や友情、恋に悩み葛藤するさまを優しく描き出す。文化庁メディア芸術祭において、第10回および第17回の2度にわたりマンガ部門審査委員会推薦作品に選出された。また2011年にはフジテレビの「ノイタミナ」枠にてアニメ化も果たしている。

「青い花」1巻
2004年~2013「青い花」マンガ・エロティクス・エフ(太田出版)
「青い花」より。

鎌倉の進学女子高に入学した万城目ふみは、登校初日に同じく江ノ電沿線のお嬢さま学校に入学した幼なじみ・奥平あきらと再会する。泣き虫だったふみを、いつも助けてくれたあーちゃん。「ふみちゃんはすぐ泣くんだから」というあーちゃんの一言は、2人が離れていた長い月日を軽く飛び越え……。TVアニメが2009年7月から9月にかけて放送され、第13回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門審査委員会推薦作品に選ばれた。

「ルート225」
2007年~2008「ルート225」月刊少年シリウス(講談社)
「ルート225」より。

中学生の姉弟・エリ子とダイゴは、近所の公園から家に帰る途中、突如として異世界に迷い込む。そこは自宅付近にはないはずの海があったり、家にいるはずの両親がいなかったり、ケンカしたはずの親友と仲直りしていたりと現実と微妙なズレが……。2人は果たして両親の待つ元の世界に戻れるのか。2006年に映画化もされた、藤野千夜の小説が原作だ。

「淡島百景」1巻
2011年~「淡島百景」ぽこぽこ、Ohta Web Comic(ともに太田出版)

舞台女優を目指す少女たちが集う歌劇学校を舞台にしたオムニバスシリーズ。ミュージカルスターに憧れて入学した新入生の若菜、親友の思いを背負って学び続ける寮長の絹枝、圧倒的な存在感を放つ美しき特待生・絵美、そんな絵美に羨望の念を持って追い詰めた桂子らの心を鮮やかに切り取って描く青春群像劇だ。第19回文化庁メディア芸術祭のマンガ部門では優秀賞を受賞した。

「かわいい悪魔」
2006年~2007「かわいい悪魔」ヤングキングアワーズ増刊アワーズプラス(少年画報社)

自称“魔女”のお姉さんと、優等生男子の不思議な交流を描いたシリーズ。単行本には表題作のほか、銭湯でひとめぼれしてしまった女子の心の揺れを描いた「あたいの夏休み」や、憧れの先生が継母になってしまった青年の苦悩を描く「不肖の息子」など全7編が収録された。

「娘の家出」1巻
2012年~2015「娘の家出」girls Jump、ジャンプ改、ミラクルジャンプ(集英社)

母親が再婚することになった高校生のまゆこ。まゆこは新しい父親と一緒に暮らすことに抵抗があると言い、離婚して以来“彼氏”と住む実の父親のもとに向かい……。両親が離婚した経験を持つ思春期の少女たちが、恋愛や家族との関係に葛藤しながら成長していくさまを描いたオムニバスシリーズだ。

「わがままちえちゃん」
2014年~2015「わがままちえちゃん」月刊コミックビーム(KADOKAWA)
「わがままちえちゃん」より。

青蘭中学への入学を控えるさほは、ある雨の日に青蘭の制服を着た幽霊の少女・ちえと出会う。両親に聞くと、さほには実はちえという名前の死んでしまった姉がいたという。母親のお腹で亡くなったはずの自分がなぜ青蘭の制服を着ているのかと、疑問に思ったちえがあることに気が付く。

「こいいじ」Kiss(講談社)
2014年~2019「こいいじ」Kiss(講談社)

下町の銭湯「すずめ湯」の娘・まめは、5歳年上の幼なじみ・聡ちゃんに子供の頃からずっと片思いをしている。亡き妻・春子を愛し続けながら、一人娘の優を育てている聡ちゃん。何度フラれても諦められない、まめの20年にもおよぶ初恋が描かれる。

「さよなら、おとこのこ」1巻
2016年~2020「さよなら、おとこのこ」MAGAZINE BE×BOY(リブレ)
「さよなら、おとこのこ」より。

劇団員の灰島かなでは、ある朝目覚めると体だけ子供になっていた。バス運転手で同棲中の恋人・桑田勇紀とあたふたするが、子供になった原因も、大人の体に戻る方法もわからず……。単行本には表題作のほか、「起きて最初にすることは」の番外編「玉井さん、恋と友情」がBLアンソロジー「女子BL」から再掲載された。

「おとなになっても」1巻
2019年~「おとなになっても」Kiss(講談社)

小学校の先生をしている綾乃は、久しぶりに立ち寄った行きつけのバーで朱里に声をかけられる。2人は初対面ながら意気投合し、そのまま朱里の部屋へ。ところが後日バーに再びやってきた綾乃は夫を連れてきて……。少しビターな大人の百合物語だ。

※記事初出時より、一部テキストに変更がありました。お詫びして訂正いたします。


2020年10月21日更新