劇場アニメ「どうにかなる日々」特集 生駒里奈インタビュー|「誰だって、誰に憧れても恋してもいい」アイドルを卒業し、少し大人になった今、志村貴子作品で見えてきたこと

10月23日から全国の劇場で公開される、志村貴子原作によるアニメ「どうにかなる日々」。コミックナタリーでは劇場公開に合わせて、元乃木坂46のメンバーでもある生駒里奈にインタビューを実施した。アイドルの世界から卒業し24歳になった彼女が感じる、志村貴子作品の魅力、そして「どうにかなる日々」から得た“発見”とは。最後には生駒がインタビュー中に口にした「切り口は独特でありながら、誰でも共感できる作品をどうやって生み出しているのか」という疑問に対し、志村がその答えをしたためた手紙も掲載している。

取材・文 / 増田桃子 撮影 / 曽我美芽

10代の頃では、こんな繊細な表現は読み取れなかったかもしれない

──まずはアニメ「どうにかなる日々」をご覧になった感想を聞かせてください。

志村貴子さんの作品に対しては、大抵の人間が思うようなごく普通の感情を自然に描かれているっていう印象があって。普段は忘れていたり、取り上げられない部分をテーマにされているじゃないですか。だからアニメでどんなふうに表現されるのかなと思ったんですが、その独特な雰囲気が、そのまま閉じ込められていて。とにかく美しいっていうのが、アニメを観た印象ですね。

──今回「えっちゃんとあやさん」「澤先生と矢ヶ崎くん」「しんちゃんと小夜子」「みかちゃんとしんちゃん」の4つのエピソードがアニメ化されていますが、特に印象に残っているエピソードはありましたか。

「えっちゃんとあやさん」より。

私はどちらかというとボーイズラブのほうが好きで……(笑)。逆に百合作品はあんまり読んだことがなくて。だから最初の「えっちゃんとあやさん」は女性同士のお話で、今まで触れてこなかった世界観なので、自分でもどう感じるのかわからなかったんですけど、とても面白かったです。お互いに百合さんという元カノがいたっていう共通点があり、楽しかった思い出や彼女に対するコンプレックスのような、共有できる感情がある。だからこそこの2人が惹かれ合ったんだなって。

──女性同士だから、という抵抗感もなく素直に楽しめたんですね。

はい。「澤先生と矢ヶ崎くん」のほうが、慣れ親しんだ世界観ではあるのですが(笑)、女性同士の関係にもそれに近い奥深さがあるんだなと、自分の中では新しい発見でした。もしかしたら自分がいろいろなものに触れてきて、理解が深まっている部分もあるかもしれないですね。もともと私の好きなマンガやアニメってわかりやすいお話だったり、バトルものやファンタジーのような独特な世界観、テーマのハッキリした作品ばかりで。だから10代の頃だったら、志村さんの作品に出てくるような繊細な表現は読み取れなかったかもしれないです。でも少し大人になって、言葉少ない中からもキャラクターのバックボーンや感情を読み取れるようになってきたんだと思います。

──乃木坂46時代は女性の多い環境だったと思いますが、生駒さんは女性が女性に憧れるような感情は理解できますか?

生駒里奈

できるほうだと思います。私、ずっと男装モデルのAKIRAさんに憧れていて。とても美人で男装が似合っていて、カッコいいのはもちろん、自分で道を開拓していくような方で、本当に憧れていて。でも大人になるにつれて、料理が得意な女性に憧れたり、いろんなバリエーションのメイクができる女性に憧れたり、少しずつ憧れる対象が広がってきてるのかなとも思います。

──それは何かきっかけがあったんでしょうか。

うーん、今年25歳になるんですが、私の母は21歳で私を産んでいるので、年齢的にも結婚だったり将来のことを考え始める時期なのかなと。自分の趣味とか憧れに向かって生きるよりも、それはそれで大切な存在としてとっておいて、現実ではこういうふうに生きていきたいみたいな。妥協じゃないですけど、生きやすさを求めるようになりました。

──大人になったんですね……。

そうですね、単純に大人になったってことかもしれないです(笑)。

さりげない表現からも気持ちが伝わってくるのがリアル

──BLはよく読まれているということですが、「澤先生と矢ヶ崎くん」についてはいかがでしょうか。

まず澤先生がかわいい!(笑) 何気ない生徒からの一言だったかも知れないけど、ずっと引きずってて、そういうちょっと情けない感じも面白いですね。先生の本当の気持ちはわからないですけど、でも生徒を連れて謝恩会を開くシーンで少し吹っ切れたのかなと感じました。先生には次のステップに向かってほしいですね。

──特に好きなシーンはありましたか?

「澤先生と矢ヶ崎くん」より。

矢ヶ崎くんが澤先生に「首キレイですね」って言うシーンですね。他人の首筋って普段は見ないじゃないですか。でも本当に好きな人だからこそ、そういう細かいところまで見ていたんだなと思うと、うわーって(笑)。ただ「好き」って言う言葉だけじゃなく、そういうさりげない表現からも気持ちが伝わってくるのがリアルだなって。あまりにも日常過ぎて、普通過ぎるからこそリアルを感じるというか、ある意味えぐい感じ(笑)。こんなリアルに描いちゃって、みたいな。でも私はこういう感じがすごく好きです。

──本当にBLが好きなんですね。どんなところに惹かれますか?

直接的なシーンが見たいっていうよりは、その手前の心の揺れ動きだったり「好きになった人が同性だった」みたいな悩みの描かれ方に惹かれるのかもしれません。一般的には理解されづらいことに対して、そこを超えて好きっていう気持ちを貫く強さに魅力を感じます。学校が舞台だったら、好きな子が座ってた椅子に座って「うわー」って思ってるような、そういう切なさ加減が好きです。ある意味、キスはしてほしくない(笑)。

──なるほど、そこはこだわりがあるんですね。

生駒里奈

女性同士でも男性同士でもそうですが、ほかの人には理解されにくいからこそ美しさだったり、切なさだったりがあると思うんです。理解が広がってきた今の時代だからこそ、こういった作品もただの作品ではなく、身近にそういう存在がいたとしたらどう感じるか、といった見方もできるのかなと思います。

──BLを好きになるきっかけはあったんですか?

私、もともと男装が趣味だったり、男性になってみたいっていう気持ちもあって。それがBLを読むことへつながったのかなと思います。少年少女の大人になる前の無垢な感じが好きで。まだ精神的にも肉体的にも大人になりきれてないのに大人ぶってみたり、その年代ならではの葛藤だったり、傷つきやすさや危うさみたいな部分に惹かれます。限られた時期にしか持てない輝きというか。

──なるほど。儚い少年美というか。

造形としても10代の男の子の華奢な線の細い感じとか、ちょっとずつ筋肉が付いてくる時期の美しさとか好きなんです。古屋兎丸先生とか、中村明日美子先生とか、そういう部分を丁寧に描かれているマンガ家さんも大好きで、芸術だなって思います。

志村先生は視野がすごく広くて、豊かなんだろうな

──「しんちゃんと小夜子」と「みかちゃんとしんちゃん」はつながっているお話です。この2エピソードはいかがでしたか。

男女の幼なじみで、近くにエッチなお姉さんがいて、ってありそうでなさそうな設定だなと。小学生の頃から心も体も成長して中学生になって、それにつれてお互いに対する好きの意味も変わっていくさまは、観ていてもすごく面白いですね。好きっていう気持ちだけでもレパートリーがあって、こんなにいろんな表現があるんだなと思いました。思春期ばかりが取り上げられがちですけど、思春期より前の小学生の気持ちもこんなに面白いんだなって、これも私にとっては発見でしたね。

──あの年代特有の性の悩みというのは、誰もが通過する経験かなと思うんですが、生駒さんが子供の頃を振り返って、共感できる部分はありましたか?

「しんちゃんと小夜子」より。

私は女性ですけど、しんちゃんのほうに感情移入しちゃいましたね。どちらかというと、自分の成長についてあんまり考えたくないタイプだったんですよ。自分の身体に起きる変化や、それによって起きる心の変化を認めたくないタイプだったんです。だから小学生のときに周りの女の子の成長が早かったり、ませてる子がそういう話をしているのがすごく嫌で。このエピソードを観たときは恥ずかしいなって思ったりもしたんですけど、そう言えば私は嫌で考えないようにしていたけど、親に言えない変化って実際あったなと思って。誰にでも起きる日常の変化を切り取って、こんなふうに物語にできるのはすごいなと思いました。

──ちょっとした感情すら物語になる。

きっと志村先生は見ている視野がすごく広くて、豊かなんだろうなと思います。普段は忘れられていることや、取り上げられないことをテーマにしているじゃないですか。私も表現することを仕事にしている部分があるので、どんな感情も日常にヒントがあるんだなと感じました。例えばケンカするシーンを演じることになったとしても、人を殴ったことなんてないし、そういうときの感情についてすごく考えて作らなきゃいけなかったけど、案外そうでもないんだって。