「東アジア文化都市2019豊島」特集|山内康裕(「東アジア文化都市2019豊島」マンガ・アニメ部門ディレクター)×小沢高広(うめ)対談 マンガ家、編集者、科学者が共同で短編マンガ制作に挑む“ハッカソン”が持つ可能性

まとめ上げるのも大事なんだけども、失敗する経験も大事(小沢)

──集団でやることのメリットや面白さをお伺いしましたが、逆に不安材料やデメリットは……?

小沢 そりゃいっぱいありますよ(笑)。

山内 マンガ制作のハッカソンがこれまであまり行われてこなかったのには理由があって、やっぱり進めにくいんですよ。意思決定者は少ないほうが判断しやすくて、マンガ制作自体は少人数でもできる。にもかかわらず、意思決定者を増やすのは、手間や時間がかかってしまいます。もちろん、時間をかけた分だけいいものが生まれるかもしれないという思いがあってやっていますが、僕としてはもしうまくいかなかったとしても、今回の繋がり自体が価値になっていけばいいなと思っています。チームによっては崩壊……とは言わないですけど、まとまりきれないチームも出てくると思うんです。それも含めて、今回集まった36名は、自分のジャンルから越境してほかのジャンルに興味があって、新しいものを生み出したいっていう方が集まっているわけで。同じ目的で集まったメンバーがいったん創作してみる。そして、そこでできた人間関係が続くかもしれないっていう面白さに期待してます。

左から山内康裕、小沢高広(うめ)。

小沢 僕は失敗するとしたら2パターンあると思っていて、1つは揉めて形にならない。誰も譲らなくて、この場だと編集者がまとめる立場になると思うんですけど、編集者の手にも負えないままタイムアウト。で、なんとなくペラっとしたコンセプトシートみたいなのが1枚出ておしまいっていうパターン。

山内 そうなる可能性も十分ありえますよね。

小沢 ただ、僕はそれはやってもいいことだと思ってて。こういうのってまとめ上げるのも大事なんだけども、失敗する経験も大事だと思うので、そういうチームもあるかもなっていう心づもりでいます(笑)。たぶんその人たちは、この次の作品でうまくいきます。あともう1つ、実はこっちのほうが僕は問題だと思っていて。言いたいことを誰も言わないで内容がふわっとしたまま、最後に力量ある人がえいやでまとめちゃう。悪い意味で、いい人が多いとよく起きるパターン。しっかり言うべきことは言って、それに対してきちんと受けとめて意見を言える力がないと成立しないですよ。

山内 基本的に自主制作なので、その中でチームに差が出てしまうのは確かだと思います。

小沢 あとは信頼関係ですね。例えばうちとかっぴーさんは初めて組みましたが、うまいことそれぞれの意見を出し合えた。組む前から、かっぴーさんがうちの作品を全部読んでくれていたし、うちもかっぴーさんの動向や作品はずっと(Twitterなどで)フォローしていて、作風なども理解していた。要するに、ある種の信頼関係があったんです。そういったリスペクトを構築したうえで、メンバー同士がぶつかれると強そうですよね。この短期間だから、なかなか簡単なことではないと思いますが(笑)。

小沢高広(うめ)

山内 短い期間で自分たちなりにどういった役割分担を作っていて、アウトプットしていくかですね。話し合いの中で、普段マンガを描いている方も今回はネームにまわるとか、チーム内で話し合ううちに役割分担が変わっていく可能性もありますから。

小沢 確かに自分の専門分野じゃないところにずらしたほうが、実は成功するかもしれない。研究者の人がストーリーライン書いちゃうほうが面白いかも。それで普段、物語書いてる人は、そのストーリーラインに編集者的なポジションで関わる、みたいな。

山内 それはそれでありなんですよ(笑)。最初は3人いれば作れるとは思ったんですけど、あえてちょっと多めにしたのは、バッファの面白さというか、何ができるかわからない面白さに期待しているから。いろんな可能性を考えながらやってもらいたいです。

小沢 制作期間中のチーム内の人間関係、そこが一番面白い気がする。やっぱり編集者の腕の見せどころだな(笑)。

著作権や権利関係についても専門の方に入ってもらってます(山内)

──今回の取り組みで、どんな作品ができることを期待してますか。

小沢 普段自分が作品を作っていて思うのは、物語の力ってすごく強いんです。「因果応報」っていう言葉がありますが、物語の中で悪いことをした人は、やはり物語の中で罰を受けないと落ち着かない。だからともすれば、なんとなく不運にしてバランスとった気分になってしまいがち。でも知識があると、物語の力に安易に引きずられていない、より納得感のある落とし所が見つかることがあります。そこに新しいリアリティが生まれる。物語の力に安易に引きずられず、うまいこと超えた作品が見たいです。

山内 我々としては、そのためにインプットトークをかなり充実させていて。初日の講義では、「アイとアイザワ」の帯も書かれているゲーム人工知能の専門の三宅陽一郎さんに最新の人工知能界隈の話もしていただいてますし。

山内康裕

小沢 いいですね。

山内 デジタルハリウッドの荻野健一さんにはハリウッド映画の作り方や、ストーリーテリングについての専門的なお話をしていただいたり。武蔵大学社会学部の庄司昌彦教授からは、今のデータ社会、中国の信用スコアの話やGAFAの状況をしてもらって。専門の方々の最先端の研究や、作品作りの手助けになるような技術の話を入れ込んでいる。あと今回の特徴的なところとしては、著作権や権利関係についても専門の方にも講義に入ってもらってます。どういった形で共同の著作権を持つか、契約をどうするかみたいな話とか。

小沢 けっこう生々しいところまでやるんですね(笑)。

山内 そうなんですよ(笑)。印税の配分とかクレジット表記をどうするかとかも、チームに委ねられているので、そういった判断ができるような講義も入れてます。

小沢 ガシガシ自分の権利を主張していかないと(笑)。

山内 全体としては「新たな人間性・未来社会・未来都市」というテーマがあるので、新しい近未来を描く世界観の中で、人と人工知能の人間ドラマがあるような作品が出てくるのかなと思います。僕としては、マンガっていう表現にとらわれないような、絵本とマンガの中間のような表現が生まれたら面白いなと思いますね。


2019年11月11日更新