コミックナタリー PowerPush -福星英春「ハードボイルド園児 宇宙くん」
ハードボイルドな幼稚園児ギャグ 4歳児の嘆きにLINEマンガ読者が注目
“ハードボイルド”と“4歳児らしさ”のバランス
──ハードボイルドというと冷酷非情、男らしいという印象がありますが、宇宙くんもかなり渋い男ですよね。ただ頭の中ではそういうことを考えているけど、「“たかいたかい”は嫌いじゃない」と言ってうれしそうに頬を染めたり、表情や仕草などに4歳児らしさを感じさせる部分が多くてかわいらしいなと思いました。
読んだ人に「かわいい」って言ってもらえるのはすごくうれしいです。だけど描いてるときは“かわいい”って思われようとしては描いてないですね。そこで意識して描いてたら、感動させようとして難病ものの映画を作るみたいな感じになっちゃうから。わざとらしいのも嫌なので、ネームを考えるときにはあまり意識してません。
──読者は宇宙くんが心の中で考えているハードボイルドな部分も知っているけど、作中の登場人物には宇宙くんの思考が読めないから、「ちょっと無口な4歳児」程度に見えてるんじゃないでしょうか。
周りからしたら普通に子供らしく見えてるでしょうね。でもハードボイルドなだけじゃなく、“かわいい”と思わせる部分がないとギャップが生まれないから、そのために意図的に子供らしい表情を描くことはあります。もちろん“かわいい”がメインのマンガじゃないので、強く意識はしてないですが。
──4歳児らしい部分は一切見せず、完全にハードボイルドに振り切ったギャグマンガにすることもできたかと思うんですけど、そういうことはしなかった。
たぶんそっちでやろうとすると、マジでハードボイルドを突き詰めてやらないと気が済まなくなっちゃうと思うんです。それこそ自分の知識的にはもっと勉強が必要になってくる。(レイモンド・)チャンドラーの小説とか読んだりして、本物のハードボイルドについてもっと勉強しなくちゃいけない。そこまでハードボイルドにしようとしたらギャグマンガじゃなくなっちゃいますし、それじゃたぶん誰も読んでくれなくなっちゃうと思うので。その辺りのバランスがちょうどよくなるようにっていうのは考えてます。
想像より現実のキラキラネームのほうがぶっ飛んでる
──LINEマンガを読む読者って、LINEを頻繁に使ってる学生とかの若い世代だったり主婦層だったりが多いのかなという印象があるんですが、そのせいかLINEマンガのコメント欄でも「宇宙くんがかわいい」という意見をよく目にします。
今までは青年誌で描いてたので、読者層的に「かわいい」っていう感想をもらったことはあんまりなくて。新鮮ですし、そう考えると掲載場所がLINEマンガというのは合ってるのかなとは思いました。今まで10代、20代の若い世代の人や、女の人に読んでもらえる機会はほぼなかったので貴重な体験ですね。
──作品のターゲット層みたいなものは意識されてるんですか?
全く意識してないです。戦略的に描いたりとかはできないので、自分が面白いと思うものを描いてるだけって感じですね。担当さんとのやりとりの中でも、割と自由に描かせてもらってます。
──宇宙くんの名前をキラキラネームにしようと思ったのはなぜでしょう。
今どきの子供にキラキラネームをつけるっていうのは、結構当たり前なことになってるじゃないですか。宇宙の両親も一般的な母親と父親なので、そうしました。
──「宇宙」という名前の由来はどういったところから? ひと口にキラキラネームといってもアイデア次第でたくさんの案が生まれそうです。
最初に思いついた名前が「宇宙」で、もっとすごいキラキラネームはないかとほかの案も考えてみたことはあったんです。でも自分で「こんなのはどうだろう」って変な名前を思いついたとしても、ちょっと調べてみると現実にあるキラキラネームのほうがもっとぶっ飛んでて。これは無理だ、自分の頭じゃ現実を超えることができないなって(笑)。なのでわりとベタな「宇宙」がちょうどいいのかな、と思ってそこに落ち着きました。
──ちなみにちょっと気になったんですが、宇宙くんの髪の毛が金髪なのってもしかして……。
たぶん親に染められちゃったんじゃないんですかね。
──キラキラネームはつけられるわ、髪の毛は金色に染められるわ(笑)。
「かわいいから」っていう理由で染められちゃったんじゃないかな。知りませんけど(笑)。まだマンガの中では描いてないのでわからないですが、たぶんそういうことだと思います。
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福星英春(フクボシエイシュン)
千葉県出身。2015年、週刊ビックコミックスピリッツ(小学館)にてベテラン老刑事の捜査コメディ「お前には黙秘権が無い~龍さんの事件簿~」を集中連載。同年7月よりLINEマンガにて、キラキラネームの男児が世を憂うギャグマンガ「ハードボイルド園児 宇宙くん」をフルカラーにて連載スタートした。