コミックナタリー PowerPush - 映画「ベルセルク 黄金時代篇III 降臨」

衝撃のクライマックス「蝕」がいよいよ開宴「進撃の巨人」の諫山創&窪岡俊之監督インタビュー

窪岡俊之監督インタビュー

あっという間に5年もの月日が経ってしまった

──総上映時間287分に及ぶ「ベルセルク 黄金時代篇」3部作が、いよいよ完結を迎えます。今の率直なお気持ちをうかがえますか。

窪岡俊之

いや、もう……本当に終わったんだな、っていう気持ちですね。プロジェクト開始から、あっという間に5年もの月日が経ってしまいました。こんなに長く携わった作品は今までなかったので、今は終わったことが信じられないです。作っている最中は予期できなかった事態が絶え間なく襲ってきて、それらを乗り越えてようやくゴールに辿り着いた、という感じでした。

──いちばん大変だったことはなんでしたか?

構成が決まるまで、あとはコンテが出来上がるまでが本当にきつかったですね。どのくらいの尺で作るかってところでまず二転三転してるんです。

──最初は3部作ではなくて、1本の映画にまとめる予定だったんですよね。

はい。でもやっていくうちに1本にはとても収まらないということがわかってきたんです。それで3部作になったんですが、とはいえ制約をつけないとどんどん長くなってしまう。当然予算や時間的な課題はあるので、プロデューサーの田中(栄子)さんと出来上がったコンテからカットの取捨選択をしていく作業に数カ月かかりました。あれが精神的にいちばんきつかったですね。

──今回の「黄金時代篇」は原作のいろいろなエピソードの中でも、特にガッツとグリフィスの関係に軸を置いて、ストーリーが紡がれています。これは原作の肝となる部分がそこだと感じたからですか?

脚本の大河内(一楼)さんがそういうふうに構成してはどうか、と提案してくれたんです。映画作品としてまとめるためには、ガッツとグリフィス、そしてキャスカの3人を軸にするという以上の選択肢はないだろうな、と僕も賛成しました。

「ベルセルク 黄金時代篇III 降臨」よりガッツ。

──限られた尺の中でも、3作品ともに3人の心情がとても丁寧に描かれている印象を受けました。

キャラクターの心の変化が不自然にならないように、すごく配慮しましたね。エピソードを削ぎ落としていくと、やはりどこかすっぽ抜けてしまう感じがするところがあるんです。「このセリフってあの出来事がないと出てこない気がする」っていうような疑問が、脚本ができた後にどんどん涌いてきて。それで原作からセリフを拾ってきて間を埋めていく、っていう作業を念入りにやっていましたね。

すべては「自分ならそうする」という発想から

──今回の「降臨」では、大きなところで言うとワイアルドのエピソードがごっそり原作からカットされています。

迫力満点の騎馬戦シーン。

あのパートはボリュームがあるので、ちょっとだけ出すっていうことが難しかったんですよ。でもグリフィスを救出してから「蝕」まで、原作だとワイアルドの存在が間を持たせてるんですね。だからそこを削ったからといっていきなり「蝕」に入るわけにはいかなかったので、失った物をどうリカバリーするかという調整が難しかったです。

──代わりにスピード感ある騎馬戦のシーンが、映画オリジナルで挟み込まれていましたね。

そのシーンで「馬を狙え!」ってミッドランド兵に言わせてるんですが、あれは、普段僕が「馬をさっさと殺せば敵を止められるのに」って思ってたからなんです。だから矢襲から馬を守るために、ガッツたちにはリーチの長い盾を持たせた。あの盾も原作にはないものなんですけど、そのほうがリアリティがある気がして。

──自分が少しでもおかしいと思うことは、納得できるまで徹底的にこだわっているんですか?

可能な限りは。パートIのガッツとキャスカが戦ってるシーンも同じなんです。あれも原作だと勢いで見せてる感じになってたんですけど、ガッツの剣がとても長くてキャスカが容易に近づけないだろうから、クロスボウで狙うようにさせたんです。しかもそのクロスボウは2連装だったので、ガッツは不意をつかれ、打開策としてキャスカが乗っている馬の足を斬るという……。

──あの一瞬のシーンが、それだけの熟考のもとに作られていたとは驚きです。

すべて、「自分ならそうする」っていう発想で作り上げています。描写に説得力を持たせるリアリティっていうのは、「本当のような気がする嘘の積み重ね」でしかないと思っています。

映画「ベルセルク」

全世界累計3300万部を超えるダークファンタジー超大作コミック「ベルセルク」の、長大なる原作の世界観全てを映像化する「ベルセルク・サーガプロジェクト」の第1弾として、ファンの間でも最も人気の高い「黄金時代篇」を3部作で映画化。2012年2月4日に「ベルセルク 黄金時代篇I 覇王の卵」、6月23日に「ベルセルク 黄金時代篇II ドルドレイ攻略」が公開され、そして完結作となる「ベルセルク 黄金時代篇III 降臨」が2013年2月1日に封切られる。

映画「ベルセルク 黄金時代篇Ⅲ 降臨」ポスター

映画「ベルセルク 黄金時代篇III 降臨」2013年2月1日(金)全国ロードショー

あらすじ

ミッドランド王都ウインダムの地下深く―反逆罪によって囚われたグリフィス奪還のため、キャスカはじめ鷹の団の残党は、グリフィス幽閉の地“再生の塔”へ向かう。修行の旅から帰還し、力強く成長したガッツの剣はもはや無双、見事グリフィスを取り戻す。しかし、両手両足の腱を切られ、舌を抜かれたグリフィスに、かつての夢を追う術はない。ガッツ、キャスカ、そしてグリフィスの願いは……。

キャスト

岩永洋昭、櫻井孝宏、行成とあ、梶 裕貴、寿美菜子、矢尾一樹、豊崎愛生、中村悠一、三宅健太、大塚明夫

スタッフ

原作:三浦建太郎(スタジオ我画)/白泉社 監督:窪岡俊之 脚本:大河内一楼 キャラクターデザイン・総作画監督:恩田尚之 アニメーションディレクター:岩瀧智 美術監督:新林希文・中村豪希・竹田悠介 音楽:鷺巣詩郎
主題曲:平沢進「Aria」(テスラカイト)
製作:BERSERK FILM PARTNERS(ルーセント・ピクチャーズエンタテインメント・バップ・白泉社・Beyond C・KDDI・ムービック・Yahoo! JAPAN・グッドスマイルカンパニー)
アニメーション制作:STUDIO4℃
配給:ワーナー・ブラザース映画

諫山創(いさやまはじめ)

1986年大分県出身。2006年、週刊少年マガジン(講談社)のMGP(マガジングランプリ)にて「進撃の巨人」で佳作受賞。2008年、同誌の新人マンガ賞にて「orz」で入選、同作にてデビューを果たす。2009年、別冊少年マガジン(講談社)にて「進撃の巨人」の連載を開始。同作は2011年に第35回講談社漫画賞少年部門を受賞。実写映画化、TVアニメ化も決定している。