コミックナタリー PowerPush - 映画「ベルセルク 黄金時代篇III 降臨」

衝撃のクライマックス「蝕」がいよいよ開宴「進撃の巨人」の諫山創&窪岡俊之監督インタビュー

「蝕」ですべてを壊したとき、気持ちよかっただろうな

諫山創

──諫山さんはこれまでインタビューなどで、トラウマを与えられて自分が変わる感覚が好きだから、自分の作品でも読者に強い衝撃を与えたい、というようにお話しされています。今回映画「ベルセルク(黄金時代篇III 降臨)」でいちばんの見所といえる「蝕」は、マンガ史に名を残すトラウマシーンといっても過言ではないと思います。初めて読んだとき、衝撃を受けましたか?

うーん、最初に手にしたのが「蝕」の後のエピソードだったので、薄々何が起こるのかわかった状態で読んでしまったんですよね。予備知識なしだったら、もっとより良い体験だっただろうなと思います。でもとにかく、三浦先生はこれが描きたかったんだな、それまでのすべての描写はこのためにあったんだな、と思いました。ガッツが仲間と家族みたいな関係を作り上げていったのも、失うためにあった。すべて壊したとき、三浦先生気持ちよかっただろうなー! って。

──気持ちいいっていうのは、少しずつ積み上げてきたものをドミノ倒しのように一瞬で崩す、その感覚が。

はい。読者にショックを与えることがうれしいみたいな、作り手としてはそういうところはあると思いますね。こう感じるのは自分だけかもしれないですけど(笑)。自分は、どっちかっていうとグリフィスに感情移入して読んでたんです。ノリに乗ってたのにやらかしちゃって再起不能にまでなって、自力で死ぬこともできなくて、散々いじめられっぱなしだったじゃないですか。だから「蝕」のパートに入った瞬間は、「祭りだ!キターーー!」って。

「ベルセルク 黄金時代篇III 降臨」よりグリフィス。

──俺のターンだぜ、っていう感じですか。

はい。待ってました感がありましたね。グリフィスが復活して、かなり上がりました。彼が「捧げる」って言うシーンもすごく好きなんです。ガッツとグリフィスという強い人間と、彼らを心の拠り所にする弱い人間、その対比もこの作品では描かれてると思うんですが、グリフィスがそういう弱い人間のことをわかった上で生け贄にするんだと、針を振り切った瞬間。自分的にはその瞬間に彼はもう、人間じゃなくゴッドハンド級の存在になってたなって思うんです。

──どちらかというと無惨な目に遭う鷹の団のほうに共感して読む人が多いだろうから、それは珍しい見方かもしれませんね。「蝕」のグロテスクな世界観はいかがですか? 人を食う魔物やおどろおどろしい風景など、気持ち悪いと感じる人が大半だと思うんですが。

「蝕」の場面って地面とか壁とかが全部顔なんですよね。踏んづけたら声を上げたり。あれは地獄ですね。いやーもう、かっこいいし、楽しそうだなって思います。

──そういえば、諫山さんは人間ドラマよりも巨人の格闘シーンを描いているときが一番高揚すると公言されてますが、三浦先生も「蝕」を描いてるとき、魔物に感情移入していたそうです。もともと魔物が大好きなのもありますが、人間を喰ってやる、めちゃめちゃにしてやる! って思いながらじゃないと描けなかったとか。

ああいう魔物とか人外のものは自由な造形にできるし、自分の中の気持ち悪いものとか全部吐き出すことができて、描いててすごく気持ちいいと思います。キャラクターだとどうしても、役割に合わせた姿形にしなきゃいけないとか縛りがあるので。

お待ちかねの「蝕」です!

──そうして緻密に描かれていた「蝕」が、映像化困難とされながらいよいよ実際に映画になったわけですが、ご覧になっていかがでしたか。

「ベルセルク 黄金時代篇III 降臨」よりキャスカ。

1本の映画として、究極的にわかりやすくできていると思いました。原作をただ再現するのではなくカットすべきところはカットして。ちゃんとアニメ映画として昇華されている、映画作品としての「ベルセルク」という感じで。

──文句なしの完成度ですか?

はい。CGとアニメーションの切り替えもスムーズだったと思いますし、人が小さいところでも戦ってたりとか、細かいところまで作り込まれていて。

──ガッツが短剣を突き刺して壁を登っていくところで無数の顔がいちいち「ウッ」て声を出して血が噴き出したり、細部に至るまでこだわられてますよね。エロスの表現についてはどうですか。

いやーもう……僕が見せていただいたのは無修整のノーカット版だったんですけど、劇場でどこまでやるのかな、と(笑)。何かしら目覚める人がいるんじゃないですか。

諫山創

──「巨人」の読者の子が、目覚めちゃうかもしれないですね(笑)。最後に、映画「ベルセルク 黄金時代篇III 降臨」を推薦するメッセージをひと言お願いできますか。

そうですね……やっと「蝕」が見れるよ、お待ちかねの「蝕」です! ……って感じですかね。誰が見ても申し分ない完成度だと思うので、ぜひ祭りを楽しんでください!

映画「ベルセルク」

全世界累計3300万部を超えるダークファンタジー超大作コミック「ベルセルク」の、長大なる原作の世界観全てを映像化する「ベルセルク・サーガプロジェクト」の第1弾として、ファンの間でも最も人気の高い「黄金時代篇」を3部作で映画化。2012年2月4日に「ベルセルク 黄金時代篇I 覇王の卵」、6月23日に「ベルセルク 黄金時代篇II ドルドレイ攻略」が公開され、そして完結作となる「ベルセルク 黄金時代篇III 降臨」が2013年2月1日に封切られる。

映画「ベルセルク 黄金時代篇Ⅲ 降臨」ポスター

映画「ベルセルク 黄金時代篇III 降臨」2013年2月1日(金)全国ロードショー

あらすじ

ミッドランド王都ウインダムの地下深く―反逆罪によって囚われたグリフィス奪還のため、キャスカはじめ鷹の団の残党は、グリフィス幽閉の地“再生の塔”へ向かう。修行の旅から帰還し、力強く成長したガッツの剣はもはや無双、見事グリフィスを取り戻す。しかし、両手両足の腱を切られ、舌を抜かれたグリフィスに、かつての夢を追う術はない。ガッツ、キャスカ、そしてグリフィスの願いは……。

キャスト

岩永洋昭、櫻井孝宏、行成とあ、梶 裕貴、寿美菜子、矢尾一樹、豊崎愛生、中村悠一、三宅健太、大塚明夫

スタッフ

原作:三浦建太郎(スタジオ我画)/白泉社 監督:窪岡俊之 脚本:大河内一楼 キャラクターデザイン・総作画監督:恩田尚之 アニメーションディレクター:岩瀧智 美術監督:新林希文・中村豪希・竹田悠介 音楽:鷺巣詩郎
主題曲:平沢進「Aria」(テスラカイト)
製作:BERSERK FILM PARTNERS(ルーセント・ピクチャーズエンタテインメント・バップ・白泉社・Beyond C・KDDI・ムービック・Yahoo! JAPAN・グッドスマイルカンパニー)
アニメーション制作:STUDIO4℃
配給:ワーナー・ブラザース映画

諫山創(いさやまはじめ)

1986年大分県出身。2006年、週刊少年マガジン(講談社)のMGP(マガジングランプリ)にて「進撃の巨人」で佳作受賞。2008年、同誌の新人マンガ賞にて「orz」で入選、同作にてデビューを果たす。2009年、別冊少年マガジン(講談社)にて「進撃の巨人」の連載を開始。同作は2011年に第35回講談社漫画賞少年部門を受賞。実写映画化、TVアニメ化も決定している。