コミックナタリー Power Push - 「ベルセルク」
“マンガに生きる” 三浦建太郎と鳥嶋和彦が大放談
ネームの原点は父親の絵コンテ(三浦)
──三浦先生はどのような幼年時代を送られていましたか?
三浦 はっきり言って頭の悪い子でした(笑)。出身は千葉で、小学2年生まで千葉の八千代台にいました。中学2年までは神奈川の梶ヶ谷、大学までは町田の鶴川、そしてマンガ家になってからは転々としています。僕の場合は父親がCMの絵コンテを描く仕事をしていて、母親が絵の教室の先生でした。武蔵野美術大学で知り合って学生結婚したんです。だから子供の頃から絵画教室の端っこでお絵描きをしていて、そのうちにマンガ家を志すようになりました。
鳥嶋 お父さんが絵コンテを描いているということを、家庭の中で意識したことはありますか?
三浦 父親が絵コンテを提出する前に見る機会が多々あったので、もちろん意識はしていました。しばらくすると、その描いていたものがテレビのCMで流れたりもしたので、そこで父親の仕事を知りました。
──子供の頃から、絵コンテというのは理解できるものなのですか?
三浦 そもそも絵コンテは絵だけで理解させるものなので、もちろん理解できましたよ。もしかしたら僕のマンガのコマ割りも、父親の影響を受けているのかもしれません。そして幼稚園までで落書きはやめて、小学校低学年の頃にはマンガを描き始めていました。最初は模倣から入り、学研の学習誌などに載っていたマンガを真似していました。
鳥嶋 それらを真似ながら、コマを割ることについてはどのように理解をしていました?
三浦 うーん。意識をしたことがないですね。
鳥嶋 編集者からコマ割りを教わったことは?
三浦 確かに基礎は編集者の方から教わりましたね。けれども教わる前からなんとなくはわかっていました。
鳥嶋 それじゃあやっぱりお父さんの絵コンテが生きているんでしょうね。
三浦 そうかもしれません。良い環境だったな(笑)。
森恒二とマンガを磨いた高校時代(三浦)
三浦 これは僕の持論なのですが、自分の歴史を物語のように認識できなければマンガ家にはなれないと思っているんです。そして僕自身も、これまでの出来事や出会った人たちを物語と捉えているところがあります。なので今回の対談でも、鳥嶋さんを僕の物語のキャラクターと見立てて取り組ませていただこうかなと(笑)。
──三浦先生はご家族や友人など、身の回りの方をキャラとしても見ているということですか?
三浦 どちらかと言えば、徐々にキャラとして認識していく感じですね。付き合っていれば家庭環境や面白いエピソードなどが入ってきて、そこから相手の根っこがわかり「こういったエピソードを持つ人はこういうタイプの人間だ」というように見えてくるんです。
鳥嶋 まあ、いきなり初対面で両親の話を聞く人はなかなかいませんからね(笑)。
三浦 すいませんでした!
鳥嶋 ……で、具体的にマンガ家になるために動き始めたのはいつ頃ですか?
三浦 きちんと行動し始めたのは高校生ですね。普通の学校でマンガ家を目指している人と出会うのは、結構難しいじゃないですか。僕は同じ目標の人を見つけるために、美術学科のある高校に通うことにしたんです。すると本当にいて、一緒に切磋琢磨していくうちに「マンガ家になる」という自覚が強くなっていきました。もっとも最後までマンガを続けたのは僕と、そこで出会った森恒二くん(「自殺島」ほか)の2人だけでしたが。
鳥嶋 プロになろうと思ってどこかに投稿は?
三浦 しましたよ。確か週刊少年サンデー(小学館)が最初だったかなあ。森くんと合作で送って、最終選考で落ちました(笑)。内容は当時流行っていたSFマンガでした。思えば僕にとって、森くんの存在は大きかったですね。彼はまるでジャニーズの歌の主人公のような、ちょっと悪くて喧嘩もして女の子にもモテる人でした。それでもマンガ家になりたくて、「今度はやり直す」って不良ばかりの故郷を飛び出して美術学校に来たんです。
鳥嶋 ちなみに合作ってどういう形でした?
三浦 下描きやキャラクターは森くんが担当して、背景やメカを僕が担当していました。本当に拙いマンガですけど(笑)。
鳥嶋 それってまだ残っていますか?
三浦 残っていますよ。レジ袋に入れて家の納戸にしまってあります。
鳥嶋 2人の原点だし、どこかで再録すればいいのに(笑)。
三浦 いやあ、それはちょっと……!
鳥嶋 今の話、少し編集者的な観点から解説すると、森先生は例えると太宰治のような、私小説を書くべくして生まれたタイプの人物でしょうね。そして、そういう人物は10代から見ると非常に魅力的なんです。眩しかったでしょ?
三浦 眩しかったですね。だから、森くんと普通に友達でいるのって難しかったんですよ。眩しすぎて彼より下になってしまうか、離れてしまうかしかない。だけど僕はどちらも悔しかったので、なんとか踏み止まろうとしました。そこで僕の武器がマンガしかなかったので、とにかくマンガを描きまくろうと。
鳥嶋 その一点において森先生と対峙しようと考えたわけですね。歯を食いしばってでも彼の隣にいたいと思うだけの魅力が、彼にはあったんだ。
三浦 魅力もあったし、つらさもありました。
鳥嶋 なんだかガッツとグリフィスみたいだ。
三浦 そこがモデルなんですよ。でも僕がガッツのときもあれば、グリフィスのときもある。結構入れ替わるんですよね。男の人間関係でよくあるパターンだと思います。
次のページ » 僕が担当だったなら絶対にやらせない!(鳥嶋)
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変貌を遂げた世界で、安全な土地を求め旅に出たリッケルトとエリカは魔物に襲撃されたところを新生鷹の団に救われた!導かれるがままに辿り着いたのは白き鷹グリフィスが君臨する都ファルコニアだった。グリフィスと鷹の団への複雑な想いを胸に秘めたリッケルトは…。一方、海神の危機を脱したガッツ一行はキャスカの身の安全と、精神の回復の望みをかけパックの故郷、妖精島へ向かうのだった。
「ベルセルク」全巻のカバーデザインがリニューアル!
白泉社のジェッツコミックスが、ヤングアニマルコミックスとレーベル名を改めた。これに合わせ、「ベルセルク」全巻のカバーデザインがリニューアル。1巻の表紙イラストは旧版から変更され、三浦が物語初期のガッツを38巻と同じ構図で描き下ろした。
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テレビアニメ「ベルセルク」
MBS:2016年7月8日(金)毎週金曜26:40~
※初回のみ27:00~
TBS:2016年7月8日(金)毎週金曜26:25~
※初回のみ26:40~
CBC:2016年7月8日(金)毎週金曜27:16~
※初回のみ27:31~
BS-TBS:2016年7月9日(土)毎週土曜24:30~
WOWOW:2016年7月1日(金)毎週金曜22:30~
※再放送 翌週金曜22:00~
※放送日時は変更になる場合があります。
スタッフ
原作・総監修:三浦建太郎(スタジオ我画)(白泉社ヤングアニマル連載)
監督:板垣伸
シリーズ構成:深見真
シリーズ構成協力:山下卓
メインキャラクターデザイン:阿部恒
音楽:鷺巣詩郎
劇中歌:平沢進「灰よ」
制作:LIDENFILMS
アニメ制作:GEMBA/ミルパンセ
キャスト
岩永洋昭、水原薫、日笠陽子、興津和幸、下野紘、安元洋貴、行成とあ、沢城みゆき、高森奈津美、平川大輔、竹達彩奈、寿美菜子、稲垣隆史、中村悠一、石井康嗣、小山力也、櫻井孝宏、大塚明夫、石塚運昇
©三浦建太郎(スタジオ我画)・白泉社/ベルセルク製作委員会
三浦建太郎(ミウラケンタロウ)
1966年7月11日千葉県生まれ。1985年週刊少年マガジン(講談社)にて「再び…」でデビュー。1988年、月刊コミコミ(白泉社)に読み切り作品「ベルセルク」を発表。翌年多少設定を変え連載を開始した。同時期に月刊アニマルハウス(白泉社)にて原作に武論尊を迎え「王狼」「王狼伝」「ジャパン」を立て続けに発表するが、以降は「ベルセルク」のみに注力。細部まで書き込まれた圧倒的画力、壮大なストーリー、異形の怪物と戦う姿が熱狂的なファンを生み、1997年にアニメ化、2002年には手塚治虫文化賞マンガ優秀賞を獲得した。2012年から2013年にかけては劇場アニメ3部作が公開され、2016年7月より新作アニメがオンエアされている。
鳥嶋和彦(トリシマカズヒコ)
1976年、集英社に入社し週刊少年ジャンプ編集部に配属。鳥山明、桂正和ら多くのマンガ家を発掘し、数々の名作を世に送り出してきた。「ボツ!」が口癖の鬼の編集者としても有名。2015年に集英社専務取締役を退任し、白泉社代表取締役社長に就任する。