コミックナタリー Power Push - 「バクマン。」

小畑健×大根仁 マンガと映画 それぞれの画作りを担う2人の創作論

映画のエイジを原作でも描いてみたかった(小畑)

大根 最高、秋人に関してはいけるなっていう計算があったんですけど、エイジだけは「こいつどうしよう……」って悩みましたね。原作の通りやると異常者になっちゃうじゃないですか。「ギャース、ギャース」言って。

対談の様子。

──最高と秋人の戦友のようになった原作と比べると、映画ではライバルキャラクターとしての側面が強いですね。

大根 最終的に仲間になるっていうのが原作の魅力なんですけど、映画にするときは2時間の尺なので。最高と秋人を中心に進んでいく話だから、ちょっとわかりやすいライバル構造にしたんです。

小畑 原作のほうでもライバルになっていくのかと思っていたんですよ。そうしたらどんどんキャラが変わっていって。あれはあれで正解だと思うんですけど、逆にこの映画に出てくるようなエイジを、原作で描いてみたかったというのもあります。

大根 マンガの実写化は何回もやっていて、それなりの経験値はあったはずなんですけど、エイジは難しかったですね。一番難しかったかもしれない。

──編集担当の服部さんも原作とは少しキャラクターが異なりますね。

映画「バクマン。」より、山田孝之演じる編集者の服部。

大根 服とかしゃべり方に関しては、ジャンプ編集部の門司君ていう「バクマン。」の2代目担当編集者そのままです。映画では服部は2人と一緒に成長していくような立ち位置のキャラにしようと思って。映画の中には出てこないんですけど、ジャンプに配属されてきてそんなに時間が経っていなくて、連載も立ち上げたことがないっていう設定なんです。

小畑 原作では編集者はわりと記号的な感じで描いていたので、生々しい感じがリアルでよかったですね。

マンガの小道具に対しては絶対に嘘をつかない(大根)

──リアルということですと、ジャンプ編集部も実際に現地で撮影をしたのかと思うほどの再現度でした。

週刊少年ジャンプ編集部のセット。

小畑 あれセットなんですよね。本物以上ですよ。

大根 「バクマン。」は美術の映画になるだろうと思っていたから、美術デザイナーの方にも事前にその旨は伝えていて。実は今回、映画の中でちょくちょく大きな嘘をついているんですよね。例えば最高と秋人が連載を始めるときに、アシスタントが1人もいない。ジャンプで連載が始まるのにアシスタントがいないって、今日びありえないじゃないですか。そういうところは現実とは異なる描写になってるんですけど、その代わり小道具とかマンガを描くものに対してだけは、絶対に嘘をつかないようにしました。

小畑 編集部とかマンガ家の仕事場の様子って、知らない人なら絶対見てみたい部分だと思うんです。原作でもそこは気をつけていて、どんな風に散らかってるのかをリアルに描こうとしていましたけど、そういう部分は映画には全然敵わない。マンガだとどうしても、線をある程度少なくしないといけないので臨場感が伝わりにくいんですよ。でも映画だとすべての情報が飛び込んでくるので。

大根 背景に関しては異常に作り込んでしまうんですよね。隙間恐怖症とでもいうか。ただ「バクマン。」は密度と台詞の量が異常だったので、映像化するのは苦労しました。マンガって2時間の尺にまとめるなら、3、4巻くらいの分量が一番作りやすいんです。でも今回は6巻くらいまででまとめようと思ったので、その時点で1.5倍の負荷がかかっている。さらに通常のマンガの2倍以上は台詞と密度がありますから。それを解体していく作業から始めました。

最高と秋人の仕事場。

小畑 僕も原作を描き始めた当初は、あまりの情報量の多さに迷走していたところがあったんですよ。仕事場の背景とかを細かく描きたいのに「台詞も多いしスペースがない」って。ただこのマンガの主役は台詞なんだって気づいてからは、極力絵を主張しない方向にシフトチェンジしましたね。構図もあまり凝らないようにカメラも固定して。劇を観ているような絵作りを目指して、スムーズに量の多い文字を読ませるように工夫していました。

大根 やっぱりお互い画作りにはこだわりがある。

小畑 映画だとエンドロールもびっくりしました。先ほど本編を6、7回は観たと言いましたが、エンディングは10回以上観てる。

大根 俺が作ったんじゃないんですけどね(笑)。「ジャンプコミックスの背表紙を使ったパロディをやったら面白くない?」って、ずっと一緒にやってきたグラフィックチームに無茶ぶりして。

小畑 あれをやられたら、みんなエンドロールで席を立てないですよ。そのくらいすごかったです。

information

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Contents Index

「バクマン。」特集 TOP
大根仁×佐藤健×神木隆之介
小畑健×大根仁
番外編 佐藤健×神木隆之介
山口一郎(サカナクション)×大根仁
新井浩文、ジャンプ編集部へ

About the Movie

「バクマン。」

「バクマン。」2015年10月3日より全国東宝系にて公開

スタッフ

監督・脚本:大根仁
原作:大場つぐみ、小畑健
主題歌:サカナクション「新宝島」

キャスト

真城最高:佐藤健
高木秋人:神木隆之介
新妻エイジ:染谷将太
亜豆美保:小松菜奈
福田真太:桐谷健太
平丸一也:新井浩文
中井巧朗:皆川猿時
服部哲:山田孝之
川口たろう:宮藤官九郎
佐々木編集長:リリー・フランキー

Information

「映画バクマン。小畑健 イラストワークス」 / 2015年10月2日発売 / 集英社 / 1296円
「映画バクマン。小畑健 イラストワークス」

映画に登場する小畑健描き下ろし原稿約100点を大公開!!
佐藤健×神木隆之介×小畑健鼎談 、小畑健×大根仁など対談記事も充実!

Profile

小畑健(オバタタケシ)

1969年生まれ、新潟県出身。1985年に「500光年の神話」で第30回手塚賞準入選。1989年に週刊少年ジャンプ(集英社)にて「CYBORGじいちゃんG」で連載デビュー。1991年に連載を開始した泉藤進原作による「魔神冒険譚ランプ・ランプ」以降、主にマンガ原作者と組んで活動している。ほったゆみ原作による「ヒカルの碁」で2000年に第45回小学館漫画賞、2003年に第7回手塚治虫文化賞新生賞を受賞。大場つぐみ原作では「バクマン。」のほか、「DEATH NOTE」の作画も手がけている。

大根仁(オオネヒトシ)

1968年12月28日、東京都生まれ。「劇団演技者。」「アキハバラ@DEEP」「湯けむりスナイパー」などの深夜ドラマを数多く手がける。2011年には自身が演出を務めたドラマ「モテキ」の劇場版で映画監督デビューを果たし、第35回日本アカデミー賞で話題賞(作品部門)に輝く。近作は「恋の渦」、ドラマ「まほろ駅前番外地」「リバースエッジ大川端探偵社」ほか。電気グルーヴの活動を追ったドキュメンタリー映画「DENKI GROOVE THE MOVIE? ~石野卓球とピエール瀧~」が12月26日より公開。

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2015年10月9日更新