自律型のプルートウと操縦型の鉄人、今のロボット技術で争そうとしたら
──「もし戦わば」的なことを考えると、鉄人とプルートウ、どちらがどういう状況なら勝てそうですか?
基本的にはプルートウなんでしょうね。ぐるぐる回転しながら飛ぶ攻撃は有効そうです。
──プルートウは自律型、鉄人は外部からの操作が必要な点での違いはどうでしょう? 操作方法の違いからくるメリット・デメリットがありそうな。
実際のロボットのコンテストでも、単純な競技……例えば、地面の黒い線をたどって周回するライントレーサーだと、自律型のロボットのほうが、人が操縦するものよりも圧倒的に速く走れるんです。でも、例えば人型ロボットにサッカーをさせるとか、そういう複雑なタスクだと、人が操縦したほうが強い。本当にちょっとしたことで動きが乱れるんです。例えば、ボールがちょっとカメラの画角から外れたとか、日差しの向きが変わったとか、その程度で動かなくなったり、オウンゴールを決めてしまったりする。
──となると、何かプルートウの人工知能では想定外な状況を作り出せれば、人が操縦する鉄人にも勝ち目が?
「鉄腕アトム」の作中世界のレベルまでいけば自律的に動いてるほうが速いし、強いし、正確な判断ができるでしょうけど、今の技術レベルの中で争わせるなら、操縦型の鉄人のほうが強いでしょうね。
──そういうお話を聞くと、「地上最大のロボット」にラスボス的に登場する、自律型で馬力はプルートウの2倍の200万馬力があるけれど、あまり思考力は高くないボラーは、実は現実だとそこまで強くはない?
いや、そうでもないです。やはり力を増し、頑丈にして……というのも、強いロボットを作るうえでの、1つの作戦ですよね。サイズにものを言わせて、小賢しいことを考えずに、正攻法で叩く。人間でいうと、ヘビー級のボクシングのようなものです。
──なるほど。……あの、以前から「地上最大のロボット」を読むたびに不思議に感じていたのですが、馬力の大きさがイコールロボットの強さ扱いになっているじゃないですか。10万馬力だったアトムを、100万馬力にしたから強くなった……みたいな。「馬力」というのは、そんな単純にロボットの実力のバロメーターになるようなものなのでしょうか?
まあマンガなので(笑)。でも、例えば車だと、直線で最高速を計測するだけなら、大抵、馬力が大きいほうが速い。ただコーナーが連続するサーキットを周回させようと思うと、でかいエンジンの車は重くて遅いわけですね。「地上最大のロボット」での馬力とは、ひとつのバロメーターで、ボラーが最強の存在として出てくるわけですよね。飛び道具なしの肉弾戦で争わせようとしたら、頑丈で、デカい、重い、力があるロボットがやはり正しいんです。
──もしロボット格闘技があったら、ボラーのようなロボットが最強になる。
そうですね。それが面白いかどうかは別問題ですし、そうは言ったものの、ボラーは最終的にマンガの中では負けているので、なんとも言い難い部分はありますが(笑)。
──あれは一対一ではありませんから(笑)。
昔の人が憧れた「未来」を現在と比べて楽しむ。それが今、「鉄腕アトム」と「鉄人28号」を読む面白さ
──それで言うと、人型ロボットに特殊能力を持たせるというのは、どれぐらい現実的な発想なんですか? 「地上最大のロボット」の世界七大ロボットには力自慢が多いですが、その中でエプシロンは光子力が動力源のロボットで、戦い方もやや特殊です。あとはブラックオックスにしても、鉄人に匹敵した力を持つパワータイプのロボットではありますが、大きな特徴として、電波妨害能力を持っている点が挙げられます。
電波障害というのは、ロボット関係の展示会でも毎回問題になります。必ずWi-Fi、Bluetooth等の通信がおかしくなって、ロボットが動かなくなる。もちろん万全の準備をしているのですが、実際、本番になってみると、メディア関係者のワイヤレス機器が影響して、取材や記者発表などの一番大事な場面でロボットが固まる、なんてことも。だから、考えてみれば、ある程度は自律的に動けて、しかもリモートブレイン……脳みそを別のコンピュータに積んで操るのではなく、ロボット自身の中に積んで、完結した仕組みを作れているロボットは、環境が悪い中では有利ですね。
──そういえば、現実のドローン兵器にもECM機能(電子妨害手段)が搭載されたものがありますね。ブラックオックスは対ロボット戦という発想では、今の基準から見てもかなりいい線に行けそうです。作中でもやたらと強い印象がありましたが。
ええ、正しい作戦ですよね。
──やはり古典には現代につながる要素があるものだな……と、お話を伺っていて、改めて感じました。最後に「鉄腕アトム」や「鉄人28号」をまだ読んだことがない人に向けて、高橋先生の考える、今、これらの作品を読む意味をお聞きできればと思うのですが、いかがでしょう?
そうですね……昔の人が考えた「未来」って、「今」なんです。昔の人が憧れた「未来」と現在を比べてみるのも面白いですよ。例えば、私は90年代の車が好きなんですが、なかでもその当時、未来を先取りしすぎて売れなかった車が、今になって人気が出たりする。それはみんなが憧れた、懐かしい未来として、ノスタルジックに見られているだけではなく、先を行ったデザインとして再発見されている部分もある。アルシオーネSVXとかユーノスコスモ、ビークロスなど、今でも欲しいですね。
──古いものの中に、今の基準で「新しい」発想がある。まさに温故知新ですね。
「鉄腕アトム」では「地上最大のロボット」がなんと言っても印象深いエピソードなんですが、もう1つ、電光というロボットが出てくる、「電光人間の巻」の話も好きです。その中でロボットの展示会が描かれているんですが、ロボットが普及した未来では、モーターショーやゲームショウのように華やかなロボット展示会が開催されるわけです。私も20年前、ロボットの展示会に初めて参加した時には、この描写を思い出し、感慨深かったですね。
──そうだったんですね。
そしてもう1つ、浦沢直樹さんが「PLUTO」を描かれたように、各時代の作家さんが独自の解釈でリメイクしていく。アンティークやノスタルジーの対象ではなく、新しいものを生み出すために触れる。これも車の例ですが、最近はクラシックカーに最新のエンジンを乗せて、デザインイメージを残しつつ、現代のテクノロジーやデザインへとカスタムする「レストモッド」と呼ばれる楽しみ方が注目されています。それに近い感覚で、古典的なマンガを題材にして、今の作家さんが新しい、現代的な作品を生み出す。マンガじゃなくて、別の形でもいいと思うんです。自身の創造性の題材と捉えて読んでも面白いんじゃないでしょうか。「鉄腕アトム」も「鉄人28号」も、最高の題材となる名作、時代を越えてクリエイティビティの琴線を刺激する作品ですよね。
プロフィール
高橋智隆(タカハシトモタカ)
1975年生まれ。2003年、京都大学工学部卒業と同時にロボ・ガレージを創業し、京大学内入居ベンチャー第1号となる。代表作にロボット電話「ロボホン」、ロボット宇宙飛行士「キロボ」、デアゴスティーニ「週刊ロビ」、グランドキャニオン登頂「エボルタ」など。ロボカップ世界大会では5年連続優勝。米TIME誌「2004年の発明」、ポピュラーサイエンス誌「未来を変える33人」に選定された。また開発したロボットによる5つのギネス世界記録を保持。東京大学先端研特任准教授等を歴任し、現在ロボ・ガレージ代表取締役、大阪電気通信大学客員教授、MarineX取締役、グローブライド社外取締役、ヒューマンアカデミーロボット教室顧問を務める。