手塚治虫「鉄腕アトム 《オリジナル版》」全16巻と、横山光輝「鉄人28号 《オリジナル版》」全18巻が、復刊ドットコムより毎月1巻ずつ刊行されている。昭和に描かれて今もなお多くの人に読み継がれる両作。コミックナタリーでは「この2作品に登場するロボットたちが、もし現実にいたらどちらが強いのか?」というテーマで特集を展開する。ロボットクリエイターの高橋智隆に取材を行い、アトムやプルートウ、鉄人28号やブラックオックスといったロボットの特徴を踏まえながらメカとしてのスペックを考察してもらった。
取材・文 / 前田久撮影 / 小川遼
人型ロボットは、実はほぼ役に立たない。それでも研究し続ける意味は
──高橋先生はロボット研究者・ロボットクリエイターとして、普段はどんなご活動をされてらっしゃるのでしょうか?
人型ロボットの研究開発と、デザインからプロトタイピングまで、一通りやっています。製品化するときにはメーカーの技術者と一緒に開発しますが一品もののロボット……例えば電池のコマーシャルに登場するエボルタくんのようなケースであれば、自分で作ってしまっていますね。ロボットという分野がまだ黎明期なこともあって、大学で研究しつつ、会社も経営しつつで、入り口から出口までを一貫してやっている形です。
──初歩的な質問を重ねてしまって恐縮ですが、一口に「ロボット」といってもいろいろある中で先生は主にどういったご研究をされているのでしょう?
もともとロボットに興味を持った入り口が「鉄腕アトム」なので、多くの皆さんがそうであるように、「人型ロボット=ロボット」だと思っていたんです。ただ、それを実際に作ってみると、歩くことなり、自然な動きをさせることなり、たくさんの部品をボディに収めることなり、技術的な困難がたくさんあります。なのでそれらを総合的に試行錯誤しながら、ロボットとして作り上げていく仕事です。
──人型としての精度を上げておられる。
そしてもう1つの研究テーマが、コミュニケーションのデザインです。「人型ロボットで何の役に立つの?」とよく尋ねられますが、実はほぼ役に立たないんです(笑)。作業効率を考えたとき、人の形をしている意味はほとんどありません。例えば移動手段なら、二足歩行より車輪のほうがいい。腕だって3本以上あったほうがいいかも知れない。掃除をするなら、わざわざ人型のロボットがホウキやちりとりを使って掃除する必要はなく、あの円盤型のルンバでいいわけです。消去法的に考えていくと、人型である意味はただ「人が感情移入しやすい」から。つまりコミュニケーションをするうえでは、人型のメリットが出てくる。そして現代のコミュニケーションツール「スマホ」の未来は、小型のコミュニケーションロボットになると考えています。マンガの世界でもよく、主人公の脇にちっちゃなサブキャラクターが居て、いろいろと入れ知恵をしてくれますが、正にあのイメージです。
──面白いです。まさに高橋先生のお作りになったロボホンに直結する発想ですね。
SiriやGoogleアシスタントって、十分賢いのに、あまり普段は使われないですよね? 多くの皆さんのイメージは、「アップル本社のマザーコンピューターみたいなSiriにスマホを介してアクセスしている」といった雰囲気かと思います。でももし、1人ひとりの持っている端末自体に生命みたいなものが感じられて、感情移入できたならば、どうでしょう。今までなら「ステマでは?」と警戒感を持っていたおすすめ商品の紹介にも、「こいつが言うなら、見てみようか」みたいな信頼感が生まれてくる。何か用事のときに声をかけるだけではなく、「今日寒いなあ」とか、「なんだか疲れたな」とか、カジュアルな日常の情報を話しかけるようになる。すると、より個人に提供する情報の精度が上がって、更に距離が縮まる。それが人型ロボット最大の魅力だと考えています。
殴る蹴る、人間の格闘技術をロボット同士の戦いに落とし込むこと
──そんな高橋先生に今日は、「鉄腕アトム」の人気エピソード「地上最大のロボット」に登場するアトムをはじめとする世界の強豪ロボットたちと、「鉄人28号」に登場する鉄人28号とその強敵ブラックオックス。これらのロボットがもし現実に存在して、何かしらの形で対決するとしたら、どんな決着がつくものなのかということをお伺いできればと思います。
難しいですね。サイズ的には鉄人が一番大きいんですかね?
──鉄人のサイズはけっこう、原作の中では曖昧なんです。警視庁の中を歩いたりもするんですが、街中で巨大ビルと並んでもっと大きく描かれるときもある。ただ、アトムよりは少なくとも大きいですね。アトムはそもそも、人間の子供のサイズですし。
サイズ差も考慮しながら、どう戦うか……まず、そもそも人型ロボットの攻撃手段として、「拳で殴る」というのは有利なのかどうか? 手はマニピュレーターなんですよね。
──人型ということは、人間の動作と同じ設計思想なわけですから、手先はさまざまな細かい動作を実行する部位である。
そう。つまり、一番繊細な部位です。それでアトムのようにガシャーン!とぶつかると、むしろ相手の体より拳のほうが弱くて、グシャッとなってしまうはず。そもそも殴る蹴るという戦い方が、ロボット同士の戦いでは正しくない方法ですね。現実に存在するとして、部品の強度を考えると不利なんです。
──つまり現実的に考えると、空を飛んで、勢いをつけてパンチで突っ込んでいくような攻撃はやらないほうがいい?
やらないほうがいいでしょうね。
──とはいえ、アトムのように推進力を生かして攻撃をしたい。そう考えたとき、では、どこの部位を使うとよいのでしょう?
頑丈な部位はどこか?ということですよね。となると頭突きですかね。いい感じに尖っているし(笑)。
──現実で人型ロボットを作るときには、どこのパーツを頑丈に作るのでしょうか?
モーメントを考えて、手先や足先は軽くしたいし、支える付け根のほうが剛性が必要なので、頑丈に作るんです。だから骨盤のあたりが、一番強固ですね。
──となると、人間の格闘技術をそのまま今の技術の延長線上にあるロボットに落とし込んで戦わせるという発想がそもそも……。
ちょっと厳しい。あとは大きなロボットは重量もあるので、地面が沈むだろうと。工事現場でクレーン車を使うときに、鉄板を敷いた上を走らせますよね。ああいうものがないと、普通に踏み出すとずぶずぶと沈んでしまう気がする。だからよっぽど軽く作らないと大きくできないのですが、でも、軽く作ると今度は張りぼてみたいにペラペラになってしまうというジレンマがあります。なのでプルートウはちょっと、サイズが大きすぎるかもしれないですね。
──実際、作中でも泥沼にハマってピンチになっていますしね。現実だと、いたるところであれに近いことが起きてしまう。
起きるでしょうね。地盤が弱いところを歩くと、ズボズボと足を取られるんじゃないでしょうか。
──その問題をクリアできているとすると、サイズ感や戦闘スタイルを考えると、プルートウと鉄人のマッチングがいい勝負になりそうです。
そうですね。プロレス的に戦わせるなら、サイズ感の近いもの同士を組ませたほうが、エンタテインメントらしくはなりそうですね。