藤田俊太郎が語る「美女と野獣」|プレミアム吹替版キャストで舞台化も夢じゃない?

「今、もっとも旬」と言っても過言ではない、演出家・藤田俊太郎。読売演劇大賞最優秀作品賞を受賞した「ジャージー・ボーイズ」をはじめ、ミュージカルからストレートプレイまで幅広い作品を手がけ、観客に鮮烈な印象を与えている彼が、「美女と野獣」実写版をどう観るのか? 4月上旬、本作のプレミアム吹替版の試写を観た藤田は、鉛筆で真っ黒に書き込まれたメモを手に、半ば興奮しながらインタビュールームに姿を現した。

取材・文 / 熊井玲 撮影 / 川野結李歌

脚本と演技と歌、そして技術による総合芸術

──まずは作品のご感想から伺えますか?

藤田俊太郎

素晴らしかったです! 絶賛しかないですね。今日は何を聞かれても観ることができてよかったという喜びの声しかないです(笑)。

──それはよかったです(笑)。「美女と野獣」はアニメーション版が有名ですが、藤田さんはご覧になったことは?

11、12歳のとき、地元の秋田の映画館で観たと思います。もう26年前。実写化されることはニュースで知ったんですが、アニメーション版があり舞台版もありますから、それを乗り越えるようなものすごい実写映画になるんだろうなと思っていました。でもその予想をはるかに超えていましたね。

──実写化に際し、脚本、演出、楽曲などそれぞれがバージョンアップしていますが、藤田さんの“予想を超えた”のはどういった部分ですか?

「美女と野獣」より。
「美女と野獣」より。

全体に脚本と演技と歌の力、演出が集結し、総合芸術として高みに到達するとこれほどまでの感動が生まれるんだなって。なんの隙もないし、文句の付けようがないですよね。脚本は昼と夜、冬と春といったバランスが素晴らしいし、きっとスコアを解読していくと音楽的にも閉塞感と解放感がきっちり計算されて構成されているんだろうなと思います。僕が涙してしまったのは、クライマックスのシーンで、CGももちろん躍動感が美しいし、役者さんの表情をキャプチャーして(物としての)画を作っているのだと思いますが、確かに時計やタンスが歌っているように見えるし、燭台なんてもう本当に素晴らしいですよね! 室内のシーンを蝋燭の灯りだけで全編撮ったスタンリー・キューブリックの映画「バリー・リンドン」が僕は大好きなんですけど、10代のときに観て「わあ、これどうやって撮影したんだろう」って思った、その驚きをこの作品では圧倒的に乗り越えてしまったなって。野犬や馬の描写も素晴らしいし、映像の長回しもうまく多用されていて……とてもひと言では言えません。

──監督のビル・コンドンはインタビューで、すでに定評のある「この作品(アニメーション版「美女と野獣」)をただまねるだけでなく、乗り越えたかった」と語っています。

ビル・コンドン監督の「ドリームガールズ」や「シカゴ」、どちらも何回観たかわからないくらい大好きな作品です。

──そんな監督の心意気が、作品から感じられましたか?

震えるくらい伝わってきました。作品に対する挑戦と敬意と、アニメーション版作成から4半世紀経って、どう乗り越えればいいのかっていう思い、愛を感じましたね。観比べてみないとわからないですが、要所要所、アングルとかは意図的に変えてないんじゃないかな。僕らの記憶の中のアニメーション版と大きく離れている部分と離れてない部分があるんでしょうね。アニメーション版のカメラワークを実写版でも踏襲している部分とかがあるはずで、僕らはそれをサブリミナル的に感じるんじゃないですかね。

──ボールルームの、野獣とベルを流れるように捉えながら天井まで上昇するカメラワークは、アニメーション版を踏襲しているそうです。

「美女と野獣」より。

やはりそうですか! 自分たちの話になってしまうのですが、2016年に演出した「ジャージー・ボーイズ」でも、数カ所ブロードウェイ版を取り入れた演出シーンがあるんです。作品の枠組みは“日本人が「ジャージー・ボーイズ」を演じている物語”という視点にして、まったく変えたんですけど、例えば有名な曲のステップのタイミングや握手の仕方とか、演出するうえでポイントだなと思った象徴的なシーンは、スタッフと話し合ってブロードウェイ版を盛り込んだりしました。本作はそういう点で、すでに決定的な演出がなされていたり、決定的な表現があるものに対してのアプローチの角度を変えたり、自分たちなりのアレンジを加えて良い作品を生み出す、お客様に届ける新たな挑戦だったのではないかなと思っています。

夢が広がるプレミアム吹替版キャスト

──また本作を語るうえで、アラン・メンケンの楽曲は切り離せません。山崎育三郎さんはあるインタビューで、無理に感情を乗せようとしなくても自然に感情が入ってしまう楽曲だとお話されていました。

人がどういう旋律のときに一番興奮するかとか、そういう計算をちゃんと踏まえて自覚的に作られた楽曲なんだろうなと思いますね。さらに俳優が歌ったときに、魂を込める余白を残している。いい曲というのは生活の中に入り込んでくるものだし、本作のテーマである“どこかに行きたい”っていう願望とか、“孤独で閉じ込められている”っていう感覚、そしてそれを人は乗り越えられるし愛し合えるんだということって、僕らが生活の中で普遍的に持っている感情ですよね。その思いがこの楽曲を聞いたときにパッと自分の人生史のどこかとつながる。さすが25年以上愛され続ける名作、名曲ですよね。幸せを感受できる作品であり音楽なのではないかと思います。

──藤田さんにはプレミアム吹替版をご覧いただいたのですが、よく日本語はミュージカルに乗せにくいと言われますけれども……。

藤田俊太郎

“日本語はミュージカルやロックに乗せにくい”って確かに聞きますけど、そんなことはないのではないかと思っています。最初に言うべきでしたが、僕が今日こんなに深く感動しているのは吹替版を観たからなんですよね。野獣を演じられた山崎(育三郎)さんの役作りは完璧ですしね。ベルは昆(夏美)さんしか考えられないし、吉原光夫さん、なんて格好良い悪役なんだろうと思いました。ガストンが最後、塔から落ちてガサッと音だけがする、かすかな残酷さを残して朝が来て春になるんですよね。そこが印象的で胸に突き刺さりました。キャストの皆さん、藤井隆さん、成河さん、小倉久寛さん、濱田めぐみさん、島田歌穂さん、池田優斗さん、そして岩崎宏美さんに村井國夫さん、また訳詞の高橋知伽江さん、吹替版のスタッフの皆さんのさまざまな力が集まって作られているんだなと感じました。最高でした!

──確かにプレミアム吹替版キャスト、素晴らしいですよね。このまま舞台でやれそうなメンバーで。

本当に。映画を観ながらずっと考えていたのは、皆さんが歌がうまいのは当然わかっているんですけど、あんなにいい芝居が成立しているのはどうしてだろうっていうことなんですね。字幕版と吹替版は同じタイミングで封切られるんですよね? これは絶対両方観たくなるだろうなと思います。歌と声による芝居でこれだけ魅せてくれる。「美女と野獣」という囚われの物語を俳優の皆さんが余すことなく見事に表現している、これは海外の戯曲を日本版で演出するミュージカル作りと重なってるんじゃないかなって勝手に思うんですね。ある制約の中で他者を演じていて、でも制約があるからこそ、その中でしか生まれない美しくて鮮やかな表現がある。今思ったんですけれど、「美女と野獣」で、Gorillaz(デーモン・アルバーンとジェイミー・ヒューレットによるイギリス出身の架空のカートゥーンバンド)のライブみたいなのをやったら面白いんじゃないですかね? 劇場でスクリーンに映画を投影して、吹替のキャストは例えばオケピ(オーケストラピット)に隠れていたりして、上映が終わると全員がオケピから姿を現すとか。一ミュージカルファンとして好き勝手を言ってるだけですが(笑)、それくらい夢が広がるメンバーですよね。

特集「美女と野獣」を語る
コミックナタリー 「いつかティファニーで朝食を」マキヒロチ
映画ナタリー 小野賢章
ステージナタリー 藤田俊太郎
音楽ナタリー NONA REEVES 西寺郷太
作品解説・キャラクター紹介
「美女と野獣」
2017年4月21日(金)公開

ある城に、若く美しく傲慢な王子が住んでいた。嵐の夜、寒さをしのぐため城へやって来た老婆を冷たくあしらった王子は、老婆に化けていた魔女の呪いで醜い野獣の姿に変えられてしまう。その呪いを解くには、魔法のバラの最後の花びらが落ちる前に王子が誰かを心から愛し、その誰かから愛されなくてはならなかった。長い年月が過ぎ、あるとき町娘のベルが城にたどり着く。村人から変わり者扱いされても自由にたくましく生きてきたベルと触れ合う中で、外見に縛られ心を閉ざしていた野獣は本来の自分を取り戻していく。しかしベルに恋する横暴な男ガストンが、彼女を自分のものにしようと残酷な企みを考え……。

スタッフ
監督:ビル・コンドン
作曲:アラン・メンケン
作詞:ティム・ライス、ハワード・アシュマン
キャスト ※()内はプレミアム吹替版
ベル:エマ・ワトソン(昆夏美)
野獣:ダン・スティーヴンス(山崎育三郎)
モーリス:ケヴィン・クライン(村井國夫)
ガストン:ルーク・エヴァンス(吉原光夫)
ル・フウ:ジョシュ・ギャッド(藤井隆)
ルミエール:ユアン・マクレガー(成河)
コグスワース:イアン・マッケラン(小倉久寛)
ポット夫人:エマ・トンプソン(岩崎宏美)
チップ:ネイサン・マック(池田優斗)
マダム・ド・ガルドローブ:オードラ・マクドナルド(濱田めぐみ)
プリュメット:ググ・バサ=ロー(島田歌穂)
カデンツァ:スタンリー・トゥッチ
藤田俊太郎(フジタシュンタロウ)
1980年生まれ、秋田県出身。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科在学中の2004年、ニナガワ・カンパニーに入る。2005年以降は蜷川幸雄作品に演出助手として参加。2014年、新国立劇場小劇場にて上演された「The Beautiful Game」で第22回読売演劇大賞 杉村春子賞優秀演出家賞を受賞。2015年に「美女音楽劇 人魚姫」、2016年にミュージカル「手紙」「Take Me Out」を演出。同年に上演された「ジャージー・ボーイズ」が、第24回読売演劇大賞 最優秀作品賞を受賞し、自身は優秀演出家賞を獲得。また同作は第42回菊田一夫演劇賞も受賞した。5月に「ダニーと紺碧の海」、7月から8月にはミュージカル「ピーターパン」が控える。なお演劇活動のかたわら、2011年より、絵本ロックバンド「虹艶 Bunny」としてライブ活動も展開中。

2017年4月27日更新