テレビを観て「私もあそこに出たい」

──静岡から東京に移ったのは、乃木坂46のオーディション合格後？

はい。高2の夏休みにオーディションを受けて、夏休みが終わったらもう静岡の学校にいないって感じで。スッと消えたんですよ。だからびっくりしてる子もいたみたいで。

──特に周りには言わず？

言わなかったですね。いろいろ応援してくれた親友2、3人には言ってたんですけど……私、このオーディションを受けるちょっと前に進路で迷って学校に行かなくなってたんですよ。やりたいこともないし、将来どうしたいもこうしたいもないし、いろいろ考えすぎて「なんで勉強してるんだろう？」ってところまでたどり着いちゃって。それで「人生一度きりだし、自分のちっちゃい頃の夢を追いかけてみよう」って思い始めて、たまたまインターネットで見つけた乃木坂46のオーディションに応募したんです。

──静岡にいた頃、学校は楽しかったですか？

そうですね。でも……不安も感じてました。もともと体を使ったりアイデアを使ったりして自分なりの表現をすることが好きで、得意分野も体育とか美術とか国語だったんです。自分が通ってた高校は進学校で、みんな真面目でしっかり勉強してる子たちばっかりで。それを見たときになんかこう追いつけない自分がいて……このまま置いてけぼりになるのかなとずっと思ってました。

──ちなみに小さい頃の夢というのは？

小学校の高学年くらいなんですけど、モデルになりたいとかテレビに出たいとか考えるようになって。その頃に観てたNHKの番組に同い年の子とかよく出ていて、それを観て「私もあそこに出たい」って思ったんですね。で、写真を自分で撮って書類まで書くんですけど、送る勇気がなくて尻込みしちゃう。親に言っても応援されないと思ったし。

──じゃあご両親に自分の夢を伝えたのは、乃木坂のオーディションのときが初めて？

いえ、それまでも冗談っぽく言ってたんです。テレビに出てるモデルさんを指差して「私モデルになるから」って。親も「じゃあなってね。期待してるから」みたいな軽い感じで。乃木坂のオーディションも親に言わずに書類を送ったんですよ。それで二次審査の会場が名古屋で、どうしても言わなきゃなと思って伝えたら、お母さんが「そうなんだ。じゃあ私も会社休んで行くよ」って一緒に行ってくれることになって。お父さんもお母さんから聞いて「じゃあ父さんが2人分の旅費を出すから行っといで」と言ってくれたんです。うれしかったですね。そこからは2人ともずっと応援してくれてます。

デビュー曲では選抜メンバーの選択肢に入ってなかった

──そして最終審査に合格して、乃木坂46の一員に。自分の名前が呼ばれたときのことは覚えてますか？

すごくびっくりしたし、うれしかったですよ。でも合格したその場で暫定選抜メンバーが発表されたんですけど、その中に入れなくて悔しかったなあ。「早っ、もう選抜するのか……」と思って。そういうグループに入ったんだとわかっていたつもりだったけど、ちょっと心の準備ができてなくて。でもそこでまたがんばろうって思い直しましたね。

──その後、乃木坂46は2012年2月にシングル「ぐるぐるカーテン」でCDデビュー。ここで再び選抜発表がありましたね。

よく覚えてます。まず自分は選抜メンバーの選択肢に入ってなかったんです。当時はまだ謹慎中だったから（参照：雲蒸龍変 | 乃木坂46 若月佑美 公式ブログ）。別室で結果を聞いてるだけでした。

──メンバーが選ばれるのを聞いてるとき、何を考えていましたか？

ただ結果を聞いてるだけじゃダメ、なんでその子が選ばれたのかを考えられる人間にならなきゃって思ってました。選ばれた子たちを客観的に見ることで、「この子にはこういう魅力があって、こういう意味があって選ばれたんだ」っていうことを今なら考えられるんじゃないかなと。だからもし自分が復帰したときには、ここで考えたことをどう生かそうかなとずっと思ってたんです。

──そこに考えが及ぶのはすごいと思いますよ。選抜発表という緊迫した環境からちょっと距離を置いたことで、物事を冷静に見られたというのはあるんでしょうね。

かもしれないです。

乃木坂に入る前は冷めた人間だった

──そして3rdシングル「走れ！Bicycle」で初の選抜入り。最初に自分の名前を呼ばれたときの心境は？

うれしかった反面、すっごい不安もありました。なんだろう……やっぱりまだ自分のファン以外の方々に認めてもらえてない可能性もぜんぜんあると思って。「なんでちゃんとがんばってきたアンダーの子が選ばれなくて、若月が選ばれるんだ！」って思われることもきっとあるんだろうなと。でも親ともよく話すんですけど、「（謹慎しても）それでも好きだって言ってくれるファンがいることは、すごく幸せなことだな」って。私、今まであまり人に必要とされた思いがなくて、ここにいていいのかなって思ったりしたときもあったし。だから選抜に入るまでがんばれたのもファンの方が支えてくれたからだと思って、それはすごく励みになりました。

──ここまでの話を聞いて思ったんですけど、若月さんって本当に強い人ですね。

いやいやいや。暑苦しいだけですよね。昔こんな人間じゃなかったんですけどね。

──以前はどうだったんですか？

すごく冷めた人間でした。乃木坂に入るちょっと前まで。努力することも嫌だったし、がんばることも嫌だったし。

──なんで変わったんでしょう？

変わったのは……乃木坂に入って、「ここが私の居場所だ」と実感できたからかな。メンバーはみんなスタート地点が一緒だったから、自分で努力したら上に行けるかもしれないっていう可能性を感じて。うまくいくかわからないですけど、とりあえず何かやってみるかって思えたんです。今までは「がんばったって苦しい思いをしたって、どうせ人間最後は死ぬんだし、じゃあラクしたほうがいいんじゃない？」って思ってたんですけど、乃木坂に入ってからは「人生1回きりだし、その人生を生かすも殺すも自分次第」……努力しても報われないこともあるし、ぜんぜんダメかもしれない。でも努力しなかったら報われるか報われないかの選択肢すら与えられないって考えるようになって……それでですかね。