バナナマン扮するフォークデュオ・赤えんぴつが、初めてコントを飛び出し、昨年2月に2日間にわたって「赤えんぴつ in 武道館」を開催。バンドメンバーを携え、初日はゲストなしの骨太でエモーショナルなステージを展開、そして乃木坂46、三浦大知、chelmico、トータス松本というゆかりのアーティストを迎えた2日目はこの日限りの特別なコラボを披露し、会場を赤えんぴつ色に染め上げた。
ボーカルの“おーちゃん”(設楽)、ギターとコーラスの“ひーとん”(日村)からなる赤えんぴつは、1993年のバナナマン結成当初から演じられ、2001年の「BANANAMAN LIVE 激ミルク」以降は毎回のようにバナナマンのコントライブに登場している人気のコントキャラクター。生きることの苦しみや喜び、甘く切ない恋模様をストレートに描いた楽曲は聴く人の胸を揺さぶり、演奏の前後で必ず大ゲンカしてしまう2人の人間味も相まってファンの熱い支持を集めてきた。
路上や小さなライブハウスで地道に歌を届けてきた(という設定の)2人が夢の舞台・日本武道館に立ったあの興奮の2日間が、このたび完全パッケージ化! 「Special ver.」には48ページに及ぶブックレットと公演当日までの約30日間を記録した特典ディスクが付属。本人たちの細部へのこだわりも垣間見えるリハーサルや舞台裏への密着映像は必見だ。昨年末には音楽番組「FNS歌謡祭」(フジテレビ系)への出演も果たし、ますます注目度の高まる赤えんぴつの、現時点での“集大成”。そんな本作の見どころや、ライブ当日の心境、赤えんぴつの今後について、バナナマンに聞いた。
取材・文 / 狩野有理撮影 / 草場雄介
【ライブレポート】「赤えんぴつ in 武道館」バナナマン30周年彩るドラマチックな2日間
夢みたいな場所
──武道館ライブを行ったのは約1年前のことです。ステージに立ったときの興奮は覚えていますか?
設楽統 いまだに「本当にやったのかな?」って思っちゃいますね。武道館でライブをやったなんて嘘みたいで。
日村勇紀 そうだよね。不思議な感覚。
設楽 武道館ってそういう場所だよね。夢みたいな場所。……勝手にミュージシャンみたいに答えてますけど(笑)。今回改めて映像を観て、「ああ、やったんだなあ」と確かめることができました。
日村 こうしてBlu-rayになるのはうれしいよね。記録として残るわけだから。
設楽 普通では味わえない感覚だったよね。「マジ歌ライブ」(テレビ東京「ゴッドタン」の企画「芸人マジ歌選手権」から派生したライブイベント)とかでこういうデカい会場を経験したことはあるんですけど、自分たちだけで作っているものにこれだけのお客さんが来てくれるのは初めてだったので、わーっていうあの歓声には感動しました。
──Blu-rayの特典映像に収められていましたが、終わった直後に「またやりたい」とおっしゃっていましたよね。
設楽 気持ちよくなっちゃってました(笑)。
日村 そりゃなりますよ。あんなの経験したことないですもん。コントライブとは全然違う感覚。
設楽 いい体験をさせてもらいました。ありがたいですよ。
──学生時代にバンドを組んでいた設楽さんとしても夢の舞台だったのでは?
設楽 高校のときに友達とコピーバンドをやってて、田舎のライブハウスに出たりはしていましたけど(笑)。そういうのも考えると余計に「武道館やっちゃうんだ!?」って感覚になりますよね。高校の友達も観に来てくれたんですよ、武道館。
お客さんがいて初めて完成する物語
──そもそもなぜ武道館で赤えんぴつのライブをやることになったんですか?
設楽 武道館ライブの2、3年ぐらい前に、僕から日村さんやオークラに「武道館で何かやりたい」という話をしたのが最初だったと思います。そのときには「赤えんぴつで」とははっきりは言っていなかったと思うし、ふわっと「何かやりたいんだよね」みたいな伝え方だったんじゃないかな。でも通常のコントライブを武道館でやるのはあんまりイメージが湧かなくて、だんだん「赤えんぴつでやったら面白いんじゃないか」という方向になっていったんだと思います。
──「武道館で何かやりたい」というのは急に思い立ったんですか?
設楽 バナナマン30周年のタイミングだったんですよ。と言っても、そんなに取り立てて30周年で何かしようというつもりはなかったんですけど。「赤えんぴつ」って僕らの中でもけっこう特殊なキャラクターコントで、昔からずっとやってきてオリジナル曲もいっぱいあるから、「赤えんぴつというアーティストが成長して、武道館に立つ」みたいな全体的なストーリーを想像したときに、そういうライブなら面白いのかなと。“武道館”ってやっぱりミュージシャンの憧れの場所じゃないですか。来てくれたお客さんもコントの中の住人になってもらうことでそのストーリーが完成する面白さも含めてやってみたいなと思ったんですよね。
日村 でも俺、ラジオのスタジオで本番前に「武道館で赤えんぴつをやろうと思ってる」って言われた記憶があるんだよ。
設楽 そうだっけ?
日村 設楽さんの中ではその前に「武道館で何かやりたい」って考えていたのかもしれないけど、俺が聞いたときは「武道館で赤えんぴつ」と言っていたと思う。でも、その年のバナナマンライブの稽古中とかにも軽く話には出ていたから、「いよいよ来たぞ」と思ったのは覚えてます。「あ、『武道館やる』って本当に言った!」っていう(笑)。そのときは成功するか、お客さんが入ってくれるのか、そういう心配をする次元ではなかったですね。「本当にやるんだ……」という気持ちが大きかったです。
ミスもライブの醍醐味
──ライブの構成やセットリストにはどんな思いを込めましたか?
設楽 “赤えんぴつの集大成”という感じですね。セットリスト自体も赤えんぴつの初期の曲から始まり、だんだん激しくなっていくという構成になっているし、間のMCブロックも過去の赤えんぴつのやり取りを洗い出して、散りばめているんですよ。昔から知っている人も初めて来た人も楽しめるようにしたつもりです。基本は笑いがあるように作っているから、言ってみれば普段やっている赤えんぴつのコントの“デカい版”。でもやったら意外と感動的な雰囲気になりましたね。
日村 そうだね。1曲目が「いちごみるく」から始まって。
──会場が一瞬で赤えんぴつの空気になりましたよね。
日村 やっぱり、最初の何曲かはけっこう緊張していたんですよ。前半はバンドなしで、僕のギターと設楽さんの歌だけだったから。でも登場のときにもうお客さんがうわーっと盛り上がってくれていたので、「これなら大丈夫だ」っていう気持ちになりました。
設楽 中盤からはサイトウ“JxJx”ジュン(YOUR SONG IS GOOD)さん率いる赤えんぴつバンドに入ってもらって、いつもとは違う豪華なアレンジになっているんですけど、最初はひーとんとおーちゃんの2人だけだったから、やる前は「大丈夫か?」って感じでしたね。武道館なんていうデカ箱で2人きりでやれるのかなって。
日村 よかったよね、バンドのみなさんに入ってもらって。
設楽 でも、練習しながら日村さんのギターだけのブロックを増やしたんだよね。「日村さんのギターだけでいけるね」ってなって。そしたら本番失敗しちゃって(笑)。
日村 そう(笑)。練習でうまくいったから入れたんですけどね。
設楽 稽古してて「よくできた!」ってときがあったんだよね。
日村 1回だけあった。すごくうまくできたの。それ以上が出なかったね(笑)。
設楽 スタジオでの全体練習と、空いているときは基本、稽古場で練習してたよね。
日村 1カ月間、毎日やってましたね。
設楽 何回も何回も通しでやって、3日前くらいに「あ、今のよかったね!」ってバチッとくるときがあったんだけど。
日村 そうそう。それで「この曲はギターだけでやろう」ということになって、気合い入れたんですけどね。「それを胸に」っていう曲なんですけど。
設楽 1日目に失敗したから「明日リベンジだ」って言ってたんだけど、2日目もミスっちゃってね(笑)。
日村 あっはっはっは(笑)。
設楽 それも含めてライブならではって感じですね。そもそも赤えんぴつは完璧に楽曲を届けることが目的じゃないし、緊張よりは「楽しくできればいいや」という思いのほうが強くて。とはいえ練習もたくさんやったので、あとは当日、ただ練習したものをやるっていうくらいの気持ちで臨みました。
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グッとくるひーとんの表情