コミックナタリー PowerPush - 映画チャッピー

ゆうきまさみ語る「鉄腕アトム」からR田中一郎まで アンドロイドの原型はピノッキオ

「第9地区」「エリジウム」のニール・ブロムカンプ監督による最新映画「チャッピー」は、人工知能を搭載した警察ロボットの巻き起こす騒動を描いたSF作品。機械の体に宿った心を通して、魂とは何かを問いただす問題作だ。

コミックナタリーでは公開に先駆け、ゆうきまさみに映画鑑賞をオファー。「究極超人あ~る」でアンドロイドの少年・R田中一郎、「機動警察パトレイバー」ではロボットで武装した警察を描いてきた経験から人工知能というテーマについて語ってもらった。なお映画ナタリーでは監督や作品のバックボーンを掘り下げ、詳細な作品解説を掲載しているのであわせてチェックしてみてほしい。

取材・文/大谷隆之

 
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ニール・ブロムカンプは、SFの寓話性を上手に使う監督

──本作「チャッピー」を手がけたニール・ブロムカンプ監督は、いま世界で1番注目されているSF映画の作り手です。1979年に南アフリカ・ヨハネスブルグで生まれた35歳。2009年、宇宙に帰れなくなった難民エイリアンと人間社会の対立を描いた「第9地区」で世界から大注目され、さらにマット・デイモンやジョディ・フォスターらが出演した2013年の「エリジウム」で完全にハリウッドのトップ監督と肩を並べました。

ゆうきまさみ

ユニークな才能ですよね。僕、前作の「エリジウム」は残念ながら未見なんですが、「第9地区」はそうとう好きでした。アイデアが新鮮だし、演出のテンポも小気味いいし。なにより虚構とリアリティーの混ざり具合が絶妙だった。日常の中にポンと“異物”を投げ込むことで、僕たちの見ている現実をほんの少しずらしてみせる。そういう手腕に長けてるんでしょうね。僕の中ではとにかく、SFの寓話性を上手に使う人だなって印象です。

──SFの寓話性、ですか。

うん。ブロムカンプ監督の映画って、どこか現実世界と地続きな感じがあるでしょう。例えば「第9地区」であれば、ヨハネスブルグという大都市の一角にエビみたいなエイリアンを隔離した居住区があって。それ以外は普通の時間が流れている。登場人物たちはみんな、現実と変わらない生活を送っているわけです。今回の「チャッピー」もそう。凶悪犯罪の多発によりロボット警官隊が導入されたという設定だけがSF的で。ほかはリアルな社会とほとんど変わらなかったりする。

──そういえば「チャッピー」の時代設定は、2016年。今からわずか1年後という超近未来です。

たぶんそれもわざとなんでしょうね(笑)。もちろん、スペースオペラみたいに異なる世界観をまるごと提示するのもSFの醍醐味なんですが。あえて1つの差異を強調することで逆にパラレルワールド感が際立つこともあるんですよ。現実世界になんらかのファクターを加えたら、一体どんな社会が出現するのか。それをとことん理論立てて追究していく作業もSFならではの面白さではあるんですよ。

──少しずれてるからこそ、より違和感が強調されると。そういうバランスの取り方、たしかにブロムカンプ監督は巧みですよね。

ええ、ホントうまいと思います。ヨハネスブルグという場所の空気感がまた、そのパラレルワールドっぽい感じに合ってるんですよね。あの荒んだスラム街の風景を眺めてると、だんだん「この街なら何があってもおかしくないぞ」って気がしてきますもんね(笑)。しかも、話の進め方がどこかドキュメンタリータッチで……。SF映画にありがちな、大風呂敷を広げる感じが少ないでしょう。重要なヤマ場も、一定のトーンでサクサク見せちゃうし。

ヨハネスブルグの街を背景に、犬と戯れるチャッピー。

──バリバリの娯楽作でありながら、実は骨太な芯もあると。

例えば「第9地区」であれば、観てるうちにやはり差別の構造について考えざるをえないし。今回の「チャッピー」にしても、AI(人工知能)というテーマを通じて、人間の心について問いかけてる気がするんですよ。そういう寓話性って、SFというジャンルが本来持ってる強みだと思いますし。僕は、そういうの好きですね。

「白暮のクロニクル」は不老長寿の人種・オキナガをめぐるミステリー。雪村魁は少年のように見えるが、その年齢は88歳。

──日常からちょっとずれたパラレルワールドという部分は、現在連載されている「白暮のクロニクル」にも通じませんか? “オキナガ”という不老不死の種族が存在する別の世界を、あえて淡々と再構築してみせるという意味では。

うーん……まぁ、僕が描くと自然にそうなっちゃうから(笑)。やっぱり好きなんでしょうね。現実に何か1つフィクション的な要素を足して、「こういう世界だってありえたかもしれないよな」って考えていく作業が。それによって今まで「いないこと」にされてた何かに新しい光を当てられるかもしれない。そういう寓話性みたいな部分は、似てるかもしれませんね。

映画「チャッピー」 / 2015年5月23日公開
映画「チャッピー」

2010年に「第9地区」、2013年には「エリジウム」と、近未来の世界を独自の視点で表現し続けるニール・ブロムカンプ監督。サイエンス・フィクション映画の鬼才としてその地位を確立した彼が解釈する「AI」とは──。シャールト・コプリー、デーヴ・パテル、シガニー・ウィーバー、そしてヒュー・ジャックマンを迎え、ニール監督としての原点的野心作が誕生した。

ボクは…2016年…犯罪多発都市南アフリカ ヨハネスブルグで生まれた。ボクの寿命は…5日間。加速度的に成長する「AI」。ただ「生きる」ことを目的とし、チャッピーは人知を超えた行動に移るが……我々は衝撃の結末を目撃する。

映画ナタリーPowerPush「チャッピー」特集
ゆうきまさみ「白暮のクロニクル(5)」 / 2015年4月30日発売 / 596円 / 小学館
「白暮のクロニクル(5)」

不老不死の謎めく種族「オキナガ」。全国に10万人ほど存在し、厚生労働省の管理下にある。88歳にして少年のような風貌のオキナガ・雪村魁と、オキナガを管轄する厚労省“夜間衛生管理課”の新米公務員・伏木あかり。迷コンビを描くゆうきまさみの極上ミステリー第5集。

ゆうきまさみ
ゆうきまさみ

1957年12月19日北海道生まれ。1980年、月刊OUT(みのり書房)に掲載された「ざ・ライバル」にてデビュー。同誌でのマンガ連載、挿絵カットなどを経て、 1984年、週刊少年サンデー増刊号(小学館)に掲載された「きまぐれサイキック」で少年誌へと進出。以後、1988年に「究極超人あ~る」で第19回星雲賞マンガ部門受賞、1990年に「機動警察パトレイバー」で第36回小学館漫画賞受賞、1994年には「じゃじゃ馬グルーミン★UP!」と立て続けにヒット作を輩出する。また1985年から月刊ニュータイプ(角川書店)にて連載中であるイラストエッセイ「ゆうきまさみのはてしない物語」などで、ストーリー作品とは違う側面も見せている。2012年には、1980年代より執筆が続けられていたシリーズ「鉄腕バーディー」を完結させた。現在は週刊ビッグコミックスピリッツにて「白暮のクロニクル」、月刊!スピリッツ(ともに小学館)でシリーズ作品「でぃす×こみ」を連載中。