吉田秋生の代表作の1つである「BANANA FISH」が、今夏ついにテレビアニメ化される。1985年の連載当時から現在まで、年齢性別問わず愛され続ける「BANANA FISH」のアニメ化のニュースはSNS上を大いに賑わせ、その制作陣にも注目が集まった。監督は「Free!」の内海紘子、シリーズ構成は「いぬやしき」の瀬古浩司、キャラクターデザインは「同級生」の林明美、アニメーション制作は「ユーリ!!! on ICE」のMAPPAが担当する。
コミックナタリーではアニメの制作発表会を控えた2月某日、監督の内海と、キャラクターデザインを務めた林の2人にインタビューを実施。原作とは異なり、時代設定を現代に変更した理由からキャラクターデザインへのこだわり、またアッシュ役の内田雄馬、英二役の野島健児ら発表されたばかりのキャストについて、キャスティングの決め手になったポイントも語ってもらった。
取材・文 / 熊瀬哲子
ストーリーは原作通りに、時代だけをアップデート
──「BANANA FISH」アニメ化のニュースは、コミックナタリーでも大きな反響がありました(参照:「BANANA FISH」2018年にTVアニメ化!監督は「Free!」の内海紘子)。おふたりはSNS上の反応はご覧になっていましたか?
内海紘子 はい。本当に人気な作品なんだなって……もちろんわかっていたつもりなんですが、改めて実感しました。
林明美 そうですね。自分で目にしたのもありますが、周りからの声もいくつか。少なからずプレッシャーは感じるので、あまり深くは考えないようにしています(笑)。
──このスタッフ陣で制作されることに期待を寄せるファンの声もたくさん見かけました。現段階で明かせる制作の裏話を伺っていきたいのですが、そもそもおふたりは「BANANA FISH」の読者だったんでしょうか。
内海 私はアニプレックスのプロデューサーの瓜生(恭子)さんから依頼を受けて、初めて読ませていただきました。最初、「内海さん、『BANANA FISH』って知ってますか?」って言われたとき、「お菓子なら何でも好きです!」って答えちゃって……てっきりお菓子をくれると思って答えたので、だいぶ引かれた記憶があります……(笑)。
林 私は子供の頃に読んだことはあったんですけど、リアルタイムだと子供すぎて当時はあまりピンとはこず……。
──子供が読むには少し難しいストーリーかもしれないですね。
林 ええ。なのでほとんど記憶には残ってなくて。依頼を受けてから改めて読み直しました。ただ当時から黄色のカバーの単行本にはすごく目を惹かれていましたし、書店の少女マンガの棚でも目立っていたので、タイトルを聞いてすぐ「ああ、あの作品だ」と思い浮かびました。
内海 依頼をいただいたことがきっかけではあったんですが、読み進めていくうちにギャングやマフィア、銃とか、日本にいると身近に感じることができないハードボイルドな世界観や飽きさせない骨太なストーリーに毎回ハラハラさせられて、すぐに作品に惹き込まれましたね。どのキャラクターもとても個性があって魅力的ですし、個人的には特に物語の軸となるアッシュと英二、2人の関係性にすごく惹かれて、「ぜひやらせてくれ!」って私からもお願いしました。
林 私も改めて読み返したらやっぱり面白くて。物語が動き出していくと、どんどん読む速度が上がっていきました。最近はこういった人間ドラマに主軸を置いた作品がそんなに多くない印象もあって、ぜひ参加してみたいと思いましたね。
──今回のアニメでは、1985年のニューヨークを舞台とした原作とは異なり、時代設定が現代になっています。原作ファンにとって気になる改変だと思うのですが、こうするに至った理由を教えていただけますか?
内海 原作を読ませていただいたときに、当時だと気にならなかったであろう部分が、現代になってから読んだ私にはどうしても引っかかってしまうところがあって。80年代の作品なので当然なんですけど、その引っかかりをなくしたかったことと、アニメという別媒体でやらせていただくにあたり、原作をそのままアニメにするより、アニメならではの見せ方でこの作品を表現したかったというのが理由としては大きいです。原作ファンの方に楽しんでいただきたいのはもちろんなんですが、「BANANA FISH」に触れてこなかった若い世代の方々にもこの作品を知ってほしい、観てほしいという思いがあり。舞台を現代にすることでこの作品に入り込みやすくなると思い、私のほうから時代改変をしたいとプロデューサーに相談しました。その方向性はMAPPAの大塚(学)さんとも一致して、MAPPAさんに制作していただけることになりました。ただ、改変はするのですが基本的にストーリーは原作通りで、時代だけをアップデートした形になります。
──制作中のシナリオを拝見しましたが、基本的には原作に忠実に描かれている印象でした。
内海 もちろん変に物語を変えるつもりはなくて、作品の大事な部分は外さないようにしています。なので時代を変えることで大きく変わるのはキャラクターや服のデザインですね。原作だとTシャツとGパンにジャケットを羽織るくらいの服装が多いんですけど、そこを現代的なファッションにしていきたいなと。キャラクターの造形は原作の絵の味をアニメーションの絵として落とし込んでもらっているんですが、服装は基本的にイチから考えています。時代改変をすることでシリーズ構成の瀬古(浩司)さんはもちろん苦労されたのですが、絵としての作業的に一番苦労したのは林さんなんじゃないかと思います。
林 内海さんはこだわりを持っている方ですからね。イケメンのデザインチェックは超厳しいです(笑)。主役のアッシュに関しては“とにかくスタイリッシュ”にと言われていて、全体を通すと“現代を生きていそうな感じ”というのがコンセプトになってますよね。洋服も原作では80年代っぽい着こなし方をしていて、それはそれで味があるんですが、アニメではそのキャラクターらしさをベースにしながら、今の時代にアップデートしたファッションにしています。
内海 リアルに考えると、死と隣り合わせの状況でそんなにファッションとか気にしないだろうし、TシャツとGパンっていうラフな服装で過ごすと思うんですけど……アニメになるわけですし、せっかくならいろいろな格好が見たいなと!(笑)
林 アニメになると色も付きますしね。
内海 そうなんです。あとは原作だとあまり季節感がなかったと思うんですが、アニメではそこを出していくつもりです。そうするといろんなアッシュたちが楽しめるんですよね。
林 英二は楽しいお着替えがいっぱいありますからねー。
内海 ありますね(笑)。そういうところも楽しんでもらえたらなと思います。
ショーターは“2.5枚目”で
──原作は1巻から最終巻にかけて絵柄に変化がありますが、アニメのキャラクターデザインはどのあたりを参考にしたんでしょうか。
林 読者によって好きな時期の絵柄はバラバラだと思いますが、吉田先生の絵で一番脂が乗っているというか、安定しているのが文庫版でいうと5巻、6巻(フラワーコミックス版では9 、10巻)あたりかなというのは内海さんと一致して。今回はそこをベースにデザインしていきましょうという話になりました。
──アッシュの髪型も前半と後半で結構違いますよね。アニメのキャラデザは、原作のアッシュともまた少し違った印象を受けました。
林 アッシュの髪型も、原作は前髪を垂らした感じとかに時代性が出ていますよね。髪型に関しても吉田先生の絵をベースにしながら、アッシュのイメージに近い印象の人たちの写真などを参考にしつつ、現代風にアレンジさせてもらってます。
内海 アシンメトリーな感じが現代っぽいですよね。
林 アシンメトリーかつ、セットされすぎてないナチュラル感を残すよう努めています。
──ちょっとボサッとした感じもカッコいい髪型だと思います。ラフには「毛先を尖らせないでください」と指定が書いてあるのも気になりました。
林 それは私の好みなんですけど、毛先が尖っている描き方がそんなに好きではないのもあり……。ナチュラル感を出すために、モッサリとなりすぎない程度に柔らかさを残したいなと思ってます。
──確かにこの細かな気配りが髪の毛の柔らかさを表現していると感じました。一方英二は、原作の印象を残しながらも、アッシュ以上にアップデートされていると思います。
内海 連載当時は原作の英二のような前髪を垂らしたヘアースタイルが流行っていたのかなと。設定を現代にすることが決まって、英二も現代風の髪型に変えてほしいと林さんにお願いしました。アッシュのデザインは決定までが早かったんですが、英二は4テイクくらい重ねてもらったんですかね。なのでいろんな英二を楽しめました(笑)。
林 一度は原作通りに描いてみたんですけど、内海さんからは「ワックスヘアで」とか「スポーツマンなので襟足を短く」とか、細かいオーダーがありましたね。
内海 「ワックスヘアで」ってなんやねんって感じですよね(笑)。髪型を自分で意識していじってる年頃の男の子って意味です(笑)。最初にいただいたのが原作寄りのデザインで、2稿目くらいにはもう少し大人っぽいデザインになっていたんです。でも原作で「子供に見える」とネタにされているシーンがあるので、なるべくそういう雰囲気もあったほうがいいな、と思っていたときに上がってきたのが今の絵柄で。
林 これもどこのコマの印象を拾うかなんですけど、原作でも表情によっては大人っぽいところもあったので、最初はその辺りの要素も入れたりしていたんです。だけど確かに、外国の人たちには小学生に見られるなんて場面もあったので、少し目を大きくしてかわいさを出すところに落ち着きました。
内海 この最終稿をいただいたときに、「これだ!」感があったのと、想像以上にワックスヘアで「超かわいい!」と思って。だからこの英二の清書のとき、うるさかったですよね、私(笑)。
林 うるさかったですね(笑)。確かに線1本でニュアンスが変わってしまうので、顔を描くときは気付くと無意識に息を止めて清書してますね。
──アッシュと英二以外のキャラクターも、内海さんから細かく指定があったんですか?
林 ショーターもありました。キャラクター的に3枚目っぽい印象があったので、最初はちょっとモブキャラっぽい感じのデザインで起こしていたんですが、物語の前半で重要な役割を担う人物でもあったので……。
内海 「2.5枚目にしてください」ってお願いしたんです。
林 難しいこと言いますよね(笑)。
内海 最初の絵が3枚目だったので、「もうちょい! もうちょい!」って(笑)。
林 そこから2枚目過ぎない、2枚目と3枚目の中間くらいまで持っていくようにがんばりました(笑)。普段はサングラスをかけてますけど、大事なシーンでは顔が見えたりするので、素顔は東洋人らしい印象が残るように、一重で切れ長の目でデザインしています。
内海 原作だとサングラスを取った表情のカットってほとんどないんですけど、アニメではちょくちょく見えるので、そこもチェックしていただけるとうれしいです。
林 オーサーも中盤に見せ場となる展開があるキャラクターなので、わりと細かく指定をもらいました。アッシュと張るライバルでもあるので、存在感が欲しいというオーダーもありましたね。
次のページ »
アッシュと英二をW主人公として描きたい
- アニメ「BANANA FISH」
- あらすじ
-
ニューヨーク。並外れて整った容姿と、卓越した戦闘力を持つ少年・アッシュ。
ストリートギャングを束ねる彼は手下に殺された男が死ぬ間際に“バナナフィッシュ”という謎の言葉を発するのを聞く。
時を同じくして、カメラマンの助手として取材にやってきた日本人の少年・奥村英二と出会う。
二人はともに“バナナフィッシュ”の謎を追い求めることに──。 - 放送情報
-
2018年7月よりフジテレビ「ノイタミナ」ほかにて放送開始
- 配信情報
-
Amazonプライムビデオにて日本・海外独占配信
- スタッフ
-
原作:吉田秋生「BANANA FISH」(小学館 フラワーコミックス刊)
監督:内海紘子
シリーズ構成:瀬古浩司
キャラクターデザイン:林明美
総作画監督:山田歩、鎌田晋平
ハードボイルド監修:久木晃嗣
色彩設計:鎌田千賀子
美術監督:水谷利春
撮影監督:淡輪雄介
編集:奥田浩史
音楽:大沢伸一
音響監督:山田陽
アニメーション制作:MAPPA - キャスト
-
アッシュ・リンクス:内田雄馬
奥村英二:野島健児
マックス・ロボ:平田広明
ディノ・ゴルツィネ:石塚運昇
©吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH
「BANANA FISH 復刻版BOX」全4セット
フラワーコミックス版の黄色いカバーを再現した「BANANA FISH 復刻版BOX」。vol.1には1~5巻、vol.2には6~10巻、vol.3には11~15巻、vol.4には16~19巻と、フラワーコミックス版に未収録の「PRIVATE OPINION」を含む、すべての番外編を収めた20巻が同梱される。vol.1~3の各BOXには「Special ポストカード 8枚入りセット」を封入。vol.4には、別冊少女コミック(小学館)の創刊30周年を記念して2001年に発売された「BANANA FISH SPECIAL BOX」より、英二がアメリカで発表した写真集をコンセプトに制作されたアートブック「奥村英二ファースト写真集 NEWYORK SENSE」の復刻版が収められる。全4セットを揃えると、アッシュ、英二、シン、ブランカが横一列に並ぶイラストが完成する。
- 吉田秋生「BANANA FISH 復刻版BOX vol.1」
- 2018年3月9日発売 / 小学館
-
2800円
- 吉田秋生「BANANA FISH 復刻版BOX vol.2」
- 2018年4月10日発売 / 小学館
-
2800円
- 吉田秋生「BANANA FISH 復刻版BOX vol.3」
- 2018年5月10日発売 / 小学館
-
2800円
- 吉田秋生「BANANA FISH 復刻版BOX vol.4」
- 2018年6月8日発売 / 小学館
-
2800円
- 内海紘子(ウツミヒロコ)
- アニメ演出家、アニメーター、監督。テレビアニメ「Free!」「Free!-Eternal Summer-」で初監督を務める。「けいおん!」「文豪ストレイドッグス」「将国のアルタイル」などの作品にも原画や絵コンテ、演出で参加した。
- 林明美(ハヤシアケミ)
- アニメーター、アニメーション演出家、キャラクターデザイナー。「フルーツバスケット」「PEACE MAKER鐵」「同級生」などのアニメ作品でキャラクターデザインを担当。「少女革命ウテナ」などでは作画監督を務めた。