アッシュと英二をW主人公として描きたい
──脚本についてもお話を聞かせてください。今回のアニメは2クールで放送されるんですよね。
林 2クールなので、原作のお話を24本にまとめなきゃいけない。そうなるとどうしても入らないところが出てきてしまうので、どこを残してどこを削るのか、瀬古さんが監督のこだわりを反映しながら落とし込んでいってます。今回はアッシュと英二を主軸にまとめている感じですよね。
内海 はい。最初はやはり尺が足りないというのと、アッシュを主軸にすると1本のストーリーとして見やすいので、瀬古さんのほうでアッシュをメイン軸に書いてくださったんですが、そうなると英二のシーンも削ることになってしまって。私自身2人の関係性に惹かれたのでそれは何か違う気がして。アッシュと英二、この2人を描いていきたい、W主人公として描きたいとお伝えして、尺が足りないことを承知でほかの部分を調整していただいて。そこはかなりわがままを言わせてもらいましたね。でも原作が本当に濃厚な物語なので、削れない部分が多くて。瀬古さんはとても大変だったと思います。
──いくつも山場がありますしね。
内海 そうなんですよ。会話も本当に多いので、今コンテを描いてくださってる方々も皆さん「(尺が)入らないー!」って言いながら作業していて、私はそれを「なんとか収めてー!」っていつも言ってます(笑)。
──テンポのいいアニメになりそうです。
内海 そうですね、テンポをよくしないとシーンが入らないというのもありますが……。
林 凝縮されている分、テンポもよくなって見やすくなってるんじゃないかなと思います。
銃やアクションは“ハードボイルドマン”が監修
──内海さんは監督としては「BANANA FISH」が2作目となりますが、完結済みの作品をアニメ化するにあたって、意識したことなどありますか。
内海 私自身、監督として完全な原作があるものは初めてで。原作を大事にすることはもちろんなんですけど、映像という媒体で、より作品の魅力をパワーアップして見せられるようにすることと、なんと言っても、アニメーションはやっぱり“動く”というのが一番の魅力だと思うので、今回もアッシュや英二をはじめとする個性的なキャラクターたちの生き生きとした姿を、マンガとも実写とも違う、アニメならではの表現で描けるように心がけてます。
──「BANANA FISH」はアクションシーンも多いですし、そこもアニメならではの見せ方ができそうですね。
内海 私はハードボイルドな作品の経験や知識の部分があまりなく、そういうアクションシーンもちょっと不安だったんです。だけどチーム内にハードボイルドマンがいるので……。
──ハードボイルドマン?
林 銃とかに詳しい“ハードボイルド担当”がいるんですよ。
内海 そうなんです。例えばすごくシリアスなシーンで、間違った銃の使い方をさせてしまったらそのシーン自体も、そのキャラクターのカッコよさも威厳も台無しになってしまいますよね。それは絶対に避けたいなと。知らないと気付けないことも多いですし、専門的なことに詳しい方に参加してもらえているのがすごく心強いです。
──確かにマンガ、アニメファンの方は銃の持ち方1つとっても細かく見てますからね。
林 銃器類が好きな方って一定数いますもんね。
内海 そのハードボイルドマンと銃の話をしていても、違う男性スタッフが会話に入ってくるんですよ。「そのシーンはこの銃のほうがよくない?」とか言って。
林 好きな方からすると語りたい部分があるのかもしれないですね。
原作のキャラクターらしさをうまくアニメに置き換えたい
──作中にはアッシュのほかにも、美形と称されるキャラクターが登場します。女性から人気のあるキャラクターはたくさんいると思いますが、林さんが男性キャラクターを描くうえで気をつけていることはありますか。
林 外見を意識するというより、原作ものは、なるべく原作のキャラクターらしさをうまくアニメに置き換えたいなといつも思っています。表情ひとつにしても、その人らしさみたいなところはなるべく抽出したいなと。月龍(ユエルン)も美しい容姿をしてはいるんですけど男性なので、あまり女性っぽくなりすぎないように描くというのは難しいところかなと思います。
内海 そうですね。声の面でもそういうキャラクターは男性っぽさ、女性っぽさ、どちらに振るのか迷ったんですけど……どうなったかは本編で確かめてみてください☆
──どういった方々が演じられるのか楽しみです。マンガだと、「魔王」「神の器」と称されるアッシュの存在感を表現するイメージカットのようなものがたびたび登場しますよね。ああいうシーンがアニメだとどう描かれるんだろうというのも気になりました。
林 あの手のシーンはそのままやることになるんですか?
内海 私も見たい! 魔王のアッシュ。
林 (笑)。でも花をまとったり、剣を持ったり、ああいったイメージカットも当時のマンガの表現っていう感じがありますよね。
──確かに最近のマンガではあまり見ない表現な気がします。
林 アニメでどう表現していくのか、先の話なのでちょっとわからないですけど、第1話に関しては、まあアッシュは笑わないので、ずっと同じ顔を描いてますね。笑みを浮かべたとしてもちょっとシニカルだったり、心を許していない感じなので。英二と付き合いが深くなってきてからやっと素が出てくる。
──アッシュの表情も24話を通して変化していくと。
林 そうですね。中盤以降は表情のバリエーションも豊かになっていくと思います。
──ラフを拝見すると、ちょっとコミカルな表情は吉田さんの絵のテイストが活かされていますよね。
林 ストーリーの主軸をドラマ部分に絞って行くと、なかなかコミカルな表情をする場面も少ないんですが、可能な限りはそういう表情もなるべく入れていきたいですね。
内海 登場人物がとても多いので、メイン以外のキャラクターに関してはサブキャラクターデザインの方にお願いしているんですが、林さんは原作のマンガっぽいテイストを大事にしてくださっていて。林さんからそういう修正を入れることも多いですよね。
林 そうですね。表情や顔のバランスはマンガっぽさを残したかったので、そこはサブキャラを担当している方にもお願いしている部分です。
ニューヨークでの聖地巡礼、できます!
──時代設定が現代になると、スマホとかそういう現代的な小物も出てきたりするんでしょうか。
林 出てきます。どうしても昔の作品だと、電話がかけられるとお話的に解決しちゃう部分もあるとは思うんですけど。
内海 ただ、今の方がアニメを見たときに、携帯とかパソコンがほとんど出て来なかったら逆に違和感があるんじゃないかと思ったので、なんとかうまく出しつつもストーリーの邪魔はしないようにとは考えていて。……だって、スマホをいじってるアッシュとかカッコよくないですか!? (スマホをいじりながら)伏し目がちに「……なんだよ」とか言って! 原作を知らない方が見たら自然な光景に映ると思うんですけど、原作ファンの方が見たら「アッシュがスマホを持ってる!」ってすごく衝撃だと思いますし、現代に生きる新しいアッシュの姿をお見せできたら魅力も倍増するかなと思うんです。
──それこそ今の時代にアニメ化する意味がありますよね。ほかにも時代を現代にしたことで生まれたメリットはありましたか?
内海 今回、舞台を現代にするにあたってニューヨークへ取材に行かせていただいたんです。原作の時代設定のまま描くと、現地に行っても風景がだいぶ変わってしまってると思うんですが、でも現代だと、アニメで描いた場所があるんですよ! ショーターのお店もありますし、ご飯を食べられるんですよ!
──聖地巡礼できちゃうんですね。それはうれしい。
内海 できちゃうんですよ! もちろんすべてをそのまま画に起こせない部分もあるんですけど、なるべく同じものを出せるようにしていて。「あ、ここアッシュが歩いていた場所だ!」とか、そういう楽しみ方もできるように考えています。
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内田雄馬さんが演じるアッシュに、どこか優しさを感じた
- アニメ「BANANA FISH」
- あらすじ
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ニューヨーク。並外れて整った容姿と、卓越した戦闘力を持つ少年・アッシュ。
ストリートギャングを束ねる彼は手下に殺された男が死ぬ間際に“バナナフィッシュ”という謎の言葉を発するのを聞く。
時を同じくして、カメラマンの助手として取材にやってきた日本人の少年・奥村英二と出会う。
二人はともに“バナナフィッシュ”の謎を追い求めることに──。 - 放送情報
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2018年7月よりフジテレビ「ノイタミナ」ほかにて放送開始
- 配信情報
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Amazonプライムビデオにて日本・海外独占配信
- スタッフ
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原作:吉田秋生「BANANA FISH」(小学館 フラワーコミックス刊)
監督:内海紘子
シリーズ構成:瀬古浩司
キャラクターデザイン:林明美
総作画監督:山田歩、鎌田晋平
ハードボイルド監修:久木晃嗣
色彩設計:鎌田千賀子
美術監督:水谷利春
撮影監督:淡輪雄介
編集:奥田浩史
音楽:大沢伸一
音響監督:山田陽
アニメーション制作:MAPPA - キャスト
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アッシュ・リンクス:内田雄馬
奥村英二:野島健児
マックス・ロボ:平田広明
ディノ・ゴルツィネ:石塚運昇
©吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH
「BANANA FISH 復刻版BOX」全4セット
フラワーコミックス版の黄色いカバーを再現した「BANANA FISH 復刻版BOX」。vol.1には1~5巻、vol.2には6~10巻、vol.3には11~15巻、vol.4には16~19巻と、フラワーコミックス版に未収録の「PRIVATE OPINION」を含む、すべての番外編を収めた20巻が同梱される。vol.1~3の各BOXには「Special ポストカード 8枚入りセット」を封入。vol.4には、別冊少女コミック(小学館)の創刊30周年を記念して2001年に発売された「BANANA FISH SPECIAL BOX」より、英二がアメリカで発表した写真集をコンセプトに制作されたアートブック「奥村英二ファースト写真集 NEWYORK SENSE」の復刻版が収められる。全4セットを揃えると、アッシュ、英二、シン、ブランカが横一列に並ぶイラストが完成する。
- 吉田秋生「BANANA FISH 復刻版BOX vol.1」
- 2018年3月9日発売 / 小学館
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2800円
- 吉田秋生「BANANA FISH 復刻版BOX vol.2」
- 2018年4月10日発売 / 小学館
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2800円
- 吉田秋生「BANANA FISH 復刻版BOX vol.3」
- 2018年5月10日発売 / 小学館
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2800円
- 吉田秋生「BANANA FISH 復刻版BOX vol.4」
- 2018年6月8日発売 / 小学館
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2800円
- 内海紘子(ウツミヒロコ)
- アニメ演出家、アニメーター、監督。テレビアニメ「Free!」「Free!-Eternal Summer-」で初監督を務める。「けいおん!」「文豪ストレイドッグス」「将国のアルタイル」などの作品にも原画や絵コンテ、演出で参加した。
- 林明美(ハヤシアケミ)
- アニメーター、アニメーション演出家、キャラクターデザイナー。「フルーツバスケット」「PEACE MAKER鐵」「同級生」などのアニメ作品でキャラクターデザインを担当。「少女革命ウテナ」などでは作画監督を務めた。