「現象を見る」をテーマに掲げた「ヨコハマダンスコレクション2023」に海外アーティストがメッセージ

1996年にスタートした「ヨコハマダンスコレクション」が2023年は11月30日から18日間に渡り開催される。「現象を見る」をテーマに掲げた今回も、公募型コンペティションをはじめ、国内外の注目の振付家、ダンサーが集結する。

ステージナタリーでは、今回来日する海外アーティストより、ナセラ・ベラザ、Choi x Kang Project、ワン・ユーグァン、ソア・ラツィファンドリアナ、パロマ・ウルタード+ダニエル・モラレスに作品のこと、また「ヨコハマダンスコレクション2023」参加への思いを聞いた。また後半は、「ヨコハマダンスコレクション2023」参加作品のラインナップを紹介している。

構成 / 熊井玲

海外アーティストが「ヨコハマダンスコレクション2023」にメッセージ

ナセラ・ベラザ「L'Envol」

人間同士の縁を深め、普遍的な言語でつなげたい

ナセラ・ベラザ「L'Envol」より。©︎Laurent Philippe

ナセラ・ベラザ「L'Envol」より。©︎Laurent Philippe

──あなたの、日本のダンス界や日本のダンサー、振付家の印象を教えてください。

日本の舞台芸術についての専門家ではありませんが、言えるのは私にとっては山海塾が大きなインスピレーションです。実際、日本の舞踏は深くて強烈的内面性を含んでおり、そのテクニックはこの内面の力の賜物のように思われます。非常に貴重で珍しく感じます。壮観な要素を優先したために多くのダンスが失ってしまった“財産”です。ある意味で、私もこのダンスの実践方法や世界観に非常に近いものを持っていると感じています。

──今回上演される作品の、創作のきっかけを教えてください。

意識してもらいたいのは、踊り手にとって最も恐れることのほとんどは、舞台で失敗し、転倒することです。そのため、転倒は、私たちがある種の真の自由、より大きな自由にアクセスできない、“無意識の制約”を表しています。したがって、「L'Envol」では、何らかの方法で私はこの深い恐怖に立ち向かいたいと思いました。自分が最も恐れることを受け入れるとしたら、どうなるでしょうか? 信じられないほど目まぐるしい空間が開くのでしょう。

──「ヨコハマダンスコレクション2023」の観客に作品のどんなところを楽しんでほしいですか? 今回、作品を発表することへの思いを教えてください。

私の作品はすべて、脳の指令から解放された、自分の知覚、感情、想像を信頼するように、大衆に向けた1つの体験への誘いを目指しています。この体験を通じて、私は物事や人の表面上の違いを超え、人間同士の縁を深め、普遍的な言語でつなげたいと願っています。なぜなら、私たちは皆、存在の本質にまつわる巨大な問いの数々を抱え、それらに立ち向かうことを避けるために謎のベールをかけているからです。恐怖を避けることは、その恐怖に、自分を制御する無限の力を与え、その力を倍増させることに等しいです。現在の国際政治的な文脈において、今ダンスすることは非常に特別な意味と緊急性を持っており、芸術を介した訴えは必要な要素です。歴史の中で最も暗い時期の1つである今だからこそ、その表現が無駄でばかげたものに見えないようにしなければなりません。

Choi x Kang Project「A Complementary Set_Disappearing with an Impact」

「見えない先にある可能性」を思考する

Choi x Kang Project「A Complementary Set_Disappearing with an Impact」より。©︎KNCDC Mok Jinwoo

Choi x Kang Project「A Complementary Set_Disappearing with an Impact」より。©︎KNCDC Mok Jinwoo

──あなたの、日本のダンス界や日本のダンサー、振付家の印象を教えてください。

初めて日本のダンスに深い感銘を受けたのは、大学時代に舞踏のパフォーマンスを観たときでした。演者たちは青白い顔と超俗的な存在感を持ち、生と死の境界をまたぐかのようでした。劇場はシャーマン的な雰囲気に包まれ、鮮やかな色彩の照明によって一層強調されました。現代の日本のダンスは、舞踏の直接的な影響が見えにくいほど多様な形態に発展してきました。しかし、それには独自の本質があり、現代の韓国のダンスとは対照的です。速い動きの中にも静かな流れがあり、大胆な色彩と香りを放っています。私はしばしば、あの舞踏の舞台から感じた香りがほかの独特の香りと混ざり合い、複雑な感情を作り出しているように感じます。また、日本のダンサーは、鮮やかな個性とキャラクター性を放っています。

──今回上演される作品の、創作のきっかけを教えてください。

きっかけは、人の“視野”に含まれないものを制御できるかという問いから始まりました。ビデオならではの特性から生じる“視線の制御能力”、または“見えない先にある可能性”に着想を得て、“カメラは振付を制御しようとする”というコンセプトで始めました。この作品の前身である「여집합집집집합집여(complement)」は、過去、現在、未来が交差し、時間が重なり合い、永久的に再生される無限の時間性について考えさせられました。この作品は、その考察から生まれました。

──「ヨコハマダンスコレクション2023」の観客に作品のどんなところを楽しんでほしいですか? 今回、作品を発表することへの思いを教えてください。

カメラ(映像)とパフォーマー(動き)の関係に注目することをお勧めします。カメラは、現在いるパフォーマーの動きを見ながら、5分前の過去を思い出し、5分先の未来を予測します。この新しい視聴形式をお楽しみいただければ幸いです。

今年、「ヨコハマダンスコレクション」でのパフォーマンスは、コロナ禍の影響により数年間延期された後に、ついに実現します。コロナは舞台芸術界でもさまざまなことを改めて考えさせられ、変化のきっかけとなりました。私は、この数年間により成長できたと信じています。パフォーマンスに参加できること、また私たちを覚えていただけたことに大変感謝しています。

ワン・ユーグァン <Shimmering Production>「Beings」

「人」という文字から着想して、1人から2人へ

ワン・ユーグァン <Shimmering Production>「Beings」より。©You-Wei CHEN

ワン・ユーグァン <Shimmering Production>「Beings」より。©You-Wei CHEN

──あなたの、日本のダンス界や日本のダンサー、振付家の印象を教えてください。

過去にはいくつか、日本のアーティストによるダンスパフォーマンスを観賞しました。その中でも、特に勅使川原三郎さんと梅田宏明さんの作品に深い感銘を受けました。ステージ空間やオブジェクトの使い方、マルチメディアの活用、そして彼らが独自に開発した身体表現には、大いに感動しました。彼らをとても尊敬しています。また、2022年の「YPAM」で、新進気鋭の振付家やダンサーによるエネルギッシュで情熱的なダンス作品も観させていただきました。それもあって、自分の作品を日本に持ち込む機会を得て、日本のダンスプロフェッショナルとの深い交流ができることを、とても楽しみにしています。

──今回上演される作品の、創作のきっかけを教えてください。

「Beings」は私の振付プロジェクト「A Trilogy - Quest of Relationships(三部作-人間関係の探求)」の最初のエピソードです。この作品は中国の“人”という文字からインスピレーションを得て、支え合う2本の筆画から動きを発展させています。紙の上で2人のパフォーマーが踊り、動きと時間が流れると、インクが踊り手から滴り落ち、痕跡となり、印となります。“1人から2人へ。私は、私達を通じて、私を見る”。これこそが「Beings」が関係性を考えるうえで、表現しようとしていることだと思います。

──「ヨコハマダンスコレクション2023」の観客に作品のどんなところを楽しんでほしいですか? 今回、作品を発表することへの思いを教えてください。

「Beings」を「ヨコハマダンスコレクション2023」で発表できることを非常にうれしく思っていて、ワクワクしています! 2021年のコンペティションでファイナリストとなりましたが、コロナ禍のため来日できず、映像での参加となりました。そのため、日本の観客の皆さんとお会いすることを本当に待ち望んでいましたし、今年こそ参加できてうれしい限りです。演劇や舞台芸術において最も重要なことは、観客と共に現場を体験することですからね。

ソア・ラツィファンドリアナ「g r oo v e」

“私にとってのダンスとは何か”を探して

ソア・ラツィファンドリアナ「g r oo v e」より。©Lara Gasparotto

ソア・ラツィファンドリアナ「g r oo v e」より。©Lara Gasparotto

──あなたの、日本のダンス界や日本のダンサー、振付家の印象を教えてください。

以前から私は、日本のクリエーターたちの伝統と現代性との流暢な対話能力に常に感銘を受けてきました。私はベルギーとフランスに住む日本のダンサーや振付家と共に仕事をしたり交流を持ったりしてきました。例えば、池田扶美代や伊藤郁女、Anika Edström Kawajiや橋本唯香などです。彼女らは、人間として、そしてダンサーとして成長をさせてくれた重要な存在です。日本は、マダガスカルのような島国だからなのか、何か魔法的で神秘的な要素があるように感じます。

──今回上演される作品の、創作のきっかけを教えてください。

「g r oo v e」では、私にとってのダンスとは何か、その本質に立ち戻りたいと思いました。それは、音楽と喜びと共にあるものです。パフォーマーとしていろいろな振付家と一緒に仕事してきましたが、自分が参考にしてきたものと、自分のセンスを持ってステージに立つときがいよいよ来たと思っています。この作品には多くの影響とインスピレーションがありますが、その中でも主に子供のときに日曜日の午後に家族と一緒にリビングでやったダンスセッションから来ています。

──「ヨコハマダンスコレクション2023」の観客に作品のどんなところを楽しんでほしいですか? 今回、作品を発表することへの思いを教えてください。

皆さんに楽しんでもらうこと、それだけです。今回はヨーロッパ以外で初めてこの作品を発表します。この作品では観客との距離が本当に近いので、日本の皆さんがどう反応するか、それを観て、感じたいです。好奇心でいっぱいですし、ワクワクしています。

パロマ・ウルタード+ダニエル・モラレス「INA.0」

私たちは無数の光である

パロマ・ウルタード+ダニエル・モラレス「INA.0」より。©Luca Lorenzo Sala

パロマ・ウルタード+ダニエル・モラレス「INA.0」より。©Luca Lorenzo Sala

──あなたの、日本のダンス界や日本のダンサー、振付家の印象を教えてください。

日本のコンテンポラリーにおける構成には、何か魔法のようなものを感じます。作品にドラマティックな力を持たせる重要なディテールは、通常のスペインやヨーロッパのコンテンポラリーとは全く違います。心に刻んでいるものでいうならば、私が観た日本のダンサーたちのショーの全ては、非常にパーソナルな空間への招待状のようなものでした。(ダニエル)

──今回上演される作品の、創作のきっかけを教えてください。

単なるアイデア以上に、私にとっての「INA」は、私たちが一つの全体の一部であること、無数の光であることを感じさせたいという深い願望から生まれました。私たちは皆、星と同じ要素でできています。光はどこにでもあり、私たち自身の内外に存在し、個人と他人をつなげています。ある意味、創造性のエネルギー、愛のエネルギーです。(パロマ)

──「ヨコハマダンスコレクション2023」の観客に作品のどんなところを楽しんでほしいですか? 今回、作品を発表することへの思いを教えてください。

思考はなく、あるのは感情だけ。この旅では、「やることを少なくする方が、より豊かな存在になれる」かもしれません。(パロマ)