保坂知寿・霧矢大夢・平体まひろが現代人に届く言葉で、“今”に響く「三人姉妹」を立ち上げる (2/2)

観るところがいっぱい、“人間たち”のシンプルな物語

──これから、unratoさんの節目となる「三人姉妹」の創作に入られるわけですが、どのように臨み、舞台を観た観客に何を持ち帰ってほしいと思いますか?

平体 「三人姉妹」は人間関係の豊かさが詰まっている作品なんですよね。なので、その土台を作り上げる過程では大変なことがたくさん起きてしまうと思うのですが(笑)、そういう困難も含め、素晴らしい先輩方と、楽しみながらその世界に入っていきたいなと思っています。出自が違う役者さんばかりなので、役の作り方や役への向き合い方、作品の立ち上げ方の違いを楽しみたいです。

霧矢 昨年挑戦させていただいた「薔薇と海賊」(参照:童話作家と青年の純愛描く、霧矢大夢・多和田任益ら出演「薔薇と海賊」開幕)もそうですが、偉大な戯曲って役者としてはあこがれがあるものの、どこか敬遠してしまう部分があって。でも、「三人姉妹」は掘り進めるととても人間くさくて、人間模様が多彩。出てくる人はロシア人ですから、奥ゆかしさを美徳とする日本人とは違って、直接的な表現をするし、急にしゃべり出したり、詩の朗読をしたり、歌い出したり、哲学を語り出したりもする。そういうところでけむに巻かれてしまうかもしれませんが、根底にあるのはシンプルな“人間”の姿。ぜひ、劇場で“人間”を観ていただきたいですし、やっている私たちも、生きた人間として舞台上に存在できたらなと思います。

保坂 そうだよね。この作品は、誰が主役という物語ではないと思うんです。お客様が舞台上の1人の生き様を追っていくような作品ではないので、どこを観ても、誰に感情移入しても良いんですよね。だから観るところがいっぱい(笑)。そういうふうになったら楽しいだろうなと思っています。

左から平体まひろ、保坂知寿、霧矢大夢。

左から平体まひろ、保坂知寿、霧矢大夢。

プロフィール

保坂知寿(ホサカチズ)

東京都生まれ。1981年、劇団四季に入団し、2007年の退団まで「オンディーヌ」、ミュージカル「キャッツ」「ウェストサイド物語」「マンマ・ミーア!」などの作品に出演。2008年、「デュエット」「スーザンを探して」の演技で第34回菊田一夫演劇賞を受賞。近年の主な出演作にミュージカル「モダン・ミリー」「ファースト・デート」、「ブレイキング・ザ・コード」「家族モドキ」など。2024年1月に「Yuichiro & Friends ~Singing! Talking! Not Dancing!~」への出演が控える。unratoではこれまで「メアリー・ステュアート」「楽屋」に出演。

霧矢大夢(キリヤヒロム)

大阪府生まれ。1994年、宝塚歌劇団入団。2010年から2012年の退団まで月組トップスターを務める。2014年、ミュージカル「I DO! I DO!」で第22回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。近年の出演作に、ブロードウェイ・ミュージカル「ピピン」、ブロードウェイ・ミュージカル「バイ・バイ・バーディー」、オフ・ブロードウェイ・ミュージカル「悪魔の毒毒モンスターREBORN」、ミュージカル「マチルダ」など。11・12月にこまつ座「連鎖街のひとびと」への出演が控える。unratoではこれまで「I DO! I DO!」「LULU」「メアリー・ステュアート」「ヴィヨン」「薔薇と海賊」などに出演。

平体まひろ(ヒラタイマヒロ)

北海道生まれ。2017年、文学座附属演劇研究所に入所し、2020年に座員となる。2021年、第76回文化庁芸術祭賞 演劇部門芸術祭新人賞を受賞。近年の主な出演作に、劇団道学先生 番外公演「アナプラス」、ala Collection vol.13「百日紅、午後四時」、もぴプロジェクト「令嬢ジュリー Miss Julie」、プテラノドン「サーカスがはじまらない」、ACO沖縄「与那覇家の食卓」、文学座「夏の夜の夢」など。

“三人姉妹”を取り巻く男たちの思いとは?

unrato「三人姉妹」で注目すべきは、姉妹たちのみならず。己の幸せを求める人間たちを描く「三人姉妹」に出演する、近藤頌利、大石継太、内田健司が公演への意気込みを語る。

近藤頌利

近藤頌利

トゥーゼンバッハを演じます。彼は簡潔に言うと、今を生きる真っすぐな青年だと思います。自分の思うことに真っすぐ行動し、想いを寄せる子に誠実に接します。セリフで「今を生きたい」という言葉があります。そのためにずっと考え、行動を起こし、自分で今幸せを手に入れようとします。その彼の「今を生きる」意思を大切に演じられればと思います。
「三人姉妹」に出演するのは初めてですし、チェーホフ作品、翻訳作品も初めてです。この作品に関わるまでは、難しいんじゃないかなと思っていました。僕と同じように初めて触れるお客様も多いと思います。特に同世代や年下の方たちは、僕が抱いていた気持ちと同じ気持ちの方もいるんじゃないでしょうか? そういった方々にも、この戯曲の面白さを届けたいですし、この舞台を楽しんでいただきたいです。

プロフィール

近藤頌利(コンドウショウリ)

1994年、大阪府生まれ。俳優。劇団Patch所属。主な出演作に「ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』」シリーズ、舞台「サザエさん」、「富美男と夕莉子」「アルキメデスの大戦」、ミュージカル「チェーザレ 破壊の創造者」、テレビドラマ「全ラ飯」主演(カンテレ)など。11・12月にKAAT神奈川芸術劇場プロデュース「SHELL」が控える。

大石継太

大石継太

「三人姉妹」に出演するのは3回目です。最初は1984年、蜷川(幸雄)さん演出の「稽古場という名の劇場で上演される三人姉妹」でクルイギンを、次が1982年でトゥーゼンバッハを演じました。今回演じるアンドレイは、登場人物の中で一番チャーミングな人。感情移入できる人間くさい役で、ずっとやりたかった役です。アンドレイは、父親の重圧もあり学者になろうとしていたけど、なれなかったことで、きっとほっとしているんだろうと思います。ナターシャと出会ったことで、成功しないまま人生が進んでいきますが、最後は自分の子供が味方でいてくれますしね。
チェーホフの中でも暗い話と言われていますが、皆が希望を持って前を向いている。オーリガの最後のセリフにあるように、ロシアならではのエネルギーがあるんです。2023年に上演する「三人姉妹」を、いろいろな寄り道をしつつ皆で作っていきたい。3回目なので新しいものを見つけられたらと楽しみにしています。

プロフィール

大石継太(オオイシケイタ)

1960年、大阪府生まれ。俳優。1984年より蜷川スタジオに参加。これまでの出演作に「血の婚礼」「近松心中物語」「真夏の夜の夢」「マクベス」「お気に召すまま」「恋の骨折り損」など。11月に劇壇ガルバ「砂の国の遠い声」、2024年2月にほろびて「センの夢見る」が控える。unratoではこれまで「受取人不明 ADDRESS UNKNOWN」「薔薇と海賊」に出演。

内田健司

内田健司

「三人姉妹」で私が演じるソリョーニは、一見すると脈絡がないことばかり言っているように見えますが、洞察力に長けたナイーブな人物だと思います。あまりにも行間が多すぎて多すぎて、他人から誤解を受けてしまう様は非常に現代的で共感を抱けます。ですから、この行間こそがこの人物の造形において大切なことなのだと思います。ほかの出演者の方々や、ソリョーニ自身をちゃんと観察し耳を傾けて、丁寧に演じたいです。
現代の僕らは“事実”というものの信頼が崩れていくのを、目の当たりにしている気がしています。その信頼はもう回復できないかもしれない。
でも、“真実”はまだ辛うじて発見できる。百年以上生き残ってきた「三人姉妹」を読んで僕はそう感じました。
この戯曲の中に大切に包み隠された真実。皆さんにもそんな風に楽しんでいただけたら……と思っています。

プロフィール

内田健司(ウチダケンシ)

1987年、神奈川県生まれ。俳優・演出家。蜷川幸雄主宰さいたまネクスト・シアター2期生。演劇企画ユニット第7世代実験室では演出も務める。主な出演作に蜷川幸雄演出「ハムレット」「NINAGAWAマクベス」「リチャード二世」、ノゾエ征爾演出「ベンバー・ノー その意味は?」「ピーター&ザ・スターキャッチャー」、藤田貴大演出「CITY」「cocoon」など。unratoでは2018年の「BLOODY POETRY」に出演。

※須賀貴匡さんの降板に伴い、初出時より本文を変更しました。

2023年9月12日更新