少年社中25周年のメモリアルイヤーを駆け抜けた今、毛利亘宏・井俣太良が思うことは? (2/2)

少年社中はずっとここにある

──25周年記念興行第2弾は、ザ・ポケットで上演された「光画楼喜譚」。劇団員を中心とした「光画楼喜譚」では、女主人が切り盛りする夜にしか開かない写真館・光画楼を舞台に、“記録”と“記憶”を巡る物語が描かれました。

毛利 やっぱりさあ、ザ・ポケットって良い場所だよね。

井俣 うん。なんだかすごく安心する場所。大きな劇場でケータリングをいただくのも良いんだけど、ザ・ポケットに行くとカップラーメンがうまいのなんのって!

毛利 若い頃の感覚を思い出すよねえ(笑)。

井俣 たぶん毛利も同じ気持ちだと思うんですけど、作品を作るうえで、常にハングリー精神を忘れずにいたい。この飢えた感情を思い出させてくれるのは、やっぱり小劇場という場所が持つ力なんだと思います。

毛利 そうだね。そういう意味でも、25周年興行でザ・ポケットは外せない場所だったし、自分たちのルーツを再確認するための公演が「光画楼喜譚」だったと思う。そして、あの場に生駒里奈という存在がいたことも、少年社中にとってすごく大きな意味があった。

左から井俣太良、毛利亘宏。

左から井俣太良、毛利亘宏。

──2017年の「モマの火星探検記」、2019年の「トゥーランドット~廃墟に眠る少年の夢~」、2020年の「モマの火星探検記」再演に出演された生駒さんは、以前インタビューで「少年社中さんは私にとってのホーム」とおっしゃっていました(参照:少年社中20周年 毛利亘宏×生駒里奈×松田凌 座談会 / 毛利亘宏×細川展裕 対談)。

毛利 そう言ってもらえると本当にありがたいですよね。自分は、劇団員とそれ以外の人っていうくくりがあまり好きじゃなくて、もっと強固な心のつながりが欲しいと思っているんです。例えば、劇団員を辞めたとしても、気が向いたらいつでも帰って来てほしいし、逆に劇団から離れたいときは離れても良いと思ってる。「少年社中はずっとここにあるから、疲れたときに戻って来てね」っていう感じ。

井俣 そうだよね。堀池(直毅)とか森(大)くんとか劇団を離れた人たちも、いつでも戻って来て大丈夫だよと思ってる。何度も少年社中の作品に出てもらったことがある矢崎広や鈴木勝吾は、劇団という母体に所属していないからこそ、「テンペスト」で劇団の物語をやることに対して熱い思いを持って作品に取り組んでくれたのがうれしかったな。特に鈴木勝吾とは飲みすぎた!(笑) 毛利もみんなもギリギリまで調整してなんとか完成させた「テンペスト」、俺はすごく好きな作品です。あれで“究極の劇団感”が出せたと思う。

少年社中 25周年記念ファイナル 第42回公演「テンペスト」(2024年)より。

少年社中 25周年記念ファイナル 第42回公演「テンペスト」(2024年)より。

少年社中 25周年記念ファイナル 第42回公演「テンペスト」(2024年)より。

少年社中 25周年記念ファイナル 第42回公演「テンペスト」(2024年)より。

毛利 俺としては、劇団というくくりや、自分の演劇人生に一度区切りをつけたかったんだよね。劇団も続けていきたいし、演劇を辞めるつもりもないんだけど、もう一度スタートしたいっていう気持ちが強かった。そんなタイミングで上演した「テンペスト」は、今までの自分にとって最高なものが作れたと思う。たぶん次の公演からは、新しい少年社中に生まれ変わるんじゃないかなという予感がしています。

「テンペスト」以降の毛利亘宏はすごく愛おしい

──毛利さんはご自身が抱えるこういった思いを、劇団員の皆さんに共有することはあるのでしょうか?

毛利 「テンペスト」の前に少し話した気がするけど、やっぱり自分は作品を通して伝えたいと思っているから、あまり言葉で語ることはないですね。

井俣 そうだね。シェイクスピアの最後の作品と言われる「テンペスト」をもとにした作品を、25周年記念興行ファイナルで上演することになって、「毛利、もしかして25周年で劇団に区切りをつけようとしてないか?」という雰囲気を作品から感じ取ったんですよ。でも、「テンペスト」のラストで、「やるぜ、30周年!」みたいなことを言い出すものだから、「やっぱり毛利は面白いやつだなあ」と思って(笑)。

──「テンペスト」は25周年を迎えた架空の劇団・虎煌遊戯のお話でしたが、少年社中と重なる部分が多くありました。毛利さんが作品の中で、次の目標である30周年を目指して走り続ける宣言をしたことに対して、井俣さんはどう思われましたか?

井俣 毛利が終わらせるつもりならおしまいにするし、毛利が続けるつもりなら続ける、という感じでしたね。ああ、俺たちはこれからも老体に鞭を打ちながら、あと5年は劇団をやっていくんだと思いながらニヤリとするという、すごく不思議な感情になりました(笑)。

毛利 最近、劇団をどう終わらせるかについてよく考えるんだよね。終わりを考えないで走り続けるのも良いと思うんだけど、ちゃんと終わらせたいっていう気持ちが強くなってきていて。今後は、“8割解散公演、2割結成公演”という気持ちで、“解散”と“結成”を繰り返しながら毎年公演を続けていくんじゃないかなと思います。そう言えば「テンペスト」が終わってから、目の前のことにすごく集中できるようになったんですよ。今、むちゃくちゃコンディションが良いの!

井俣 うん。「テンペスト」以降の毛利はすごく愛おしいですよ(笑)。

毛利 愛おしい!? 本当!? ありがとう!(笑)

井俣 毛利とは今も外部の現場で一緒なんですけど、作品をさらに良いものにすべく、不器用ながらも奮闘している毛利を見ているのがすごく楽しくて。

毛利 ははは! 全力で過重労働してるけど、そんな毎日が楽しくて仕方ない。

左から井俣太良、毛利亘宏。

左から井俣太良、毛利亘宏。

──とても素敵なことですね。コロナ禍に毛利さんにお話を伺った際、演劇をはじめ、エンタテインメントとどう向き合うべきか苦悩されていたように感じたのですが、現在はとても晴れやかな表情で演劇のお話をされているなと思います。

毛利 25周年興行で芝居を3本上演する中で、復活したというか、生まれ変わった瞬間があったんです。「光画楼喜譚」の稽古中、たまたま井俣さんがいない日があって、そのときのディスカッションで川本が珍しくたくさんしゃべったんですよ。川本がみんなの前で自分の意見を主張するの、初めて観たよ!

井俣 確かに、俺がいるときは一歩引いて、自分は話さないでおこうってなるタイプだもんね。

毛利 うん、川本はほかの人を立てるタイプだから。あのときに川本が言っていた言葉がストレートに心に響いて、憑きものが取れたような気持ちになったんだよね。

毛利、次はこういう作品を書いてくれ!

──少年社中25周年興行のフィナーレを飾った「テンペスト」も無事に幕を下ろし、7月10日には本作のBlu-rayが発売されます。25周年という節目の公演を終えて、井俣さんは現在どのような心境ですか?

井俣 毛利と同じく、晴れやかな気持ちです。「自分が少年社中として舞台に立ち続ける意味は何だろう?」と改めて考えてみると、結局は自分自身が感動したいからなんですよね。まず、この気持ちがないとここまで続けてこられなかった。

毛利 ああ、久しぶりに思い出したよ、この感覚。劇団に対する思いは、俺より井俣っちゃんのほうがずっと強いんですよ。井俣っちゃんがこうやって言い続けてくれたから、俺も今まで続けてこられたんだと思う。

少年社中 25周年記念ファイナル 第42回公演「テンペスト」(2024年)より。

少年社中 25周年記念ファイナル 第42回公演「テンペスト」(2024年)より。

井俣 俺と毛利の関係性は昔からずっと変わらない。「俺を感動させる作品を書いてくれ!」と俺がオーダーして、毛利が戯曲を書いて、俺がその物語を演じる。俺たち2人はずっとそういうサイクルで歩んできたんです。

毛利 「テンペスト」の台本を提出したとき、珍しく褒めてくれたよね。「『テンペスト』、良い作品だよ」って個人的に言いに来てくれて。

井俣 うん。命を削る価値のある作品だなって思った。しかもギンっていう大役ももらってさ。

ごめん。最後にまったく関係ない話をしてもいい?(笑) 今、娘が量子物理学を勉強してて、俺も最近興味を持ってるんだよね。一般的に、時間は過去から未来へ流れるものだけど、量子物理学における仮説だと、時間は未来から過去に向かって流れていて、今現在の原因は未来が作っているっていう話があって。それがむちゃくちゃ面白いなと思うんだよ。……ということで、毛利、次はこういう作品を書いてほしい!

毛利 オッケー、わかった!(笑) うわあ、この感じ、すごく懐かしいな。若いとき、飲みに行ってはこういう話ばかりしてたね。「俺、今すごいこと思いついた!」っていう導入から始まって、最終的に「戯曲を書いて!」で締める。俺、こういうときの勘に従ってそのテーマに取り組んだら、絶対に面白い作品ができるの。だから書いてみるよ。

井俣 ははは! 書けるときで良いから書いてくれ。

毛利 この作品をやるときまで元気でいよう(笑)。俺さ、公演の最後に井俣っちゃんが言う「また劇場でお会いしましょう」がすごく好きなの。あの言葉が「また劇場に帰ってこよう」と思わせてくれるんだよ。

井俣 ふふふ、ありがとう(笑)。

左から井俣太良、毛利亘宏。

左から井俣太良、毛利亘宏。

プロフィール

毛利亘宏(モウリノブヒロ)

1975年、愛知県生まれ。脚本・演出家。少年社中主宰。「宇宙戦隊キュウレンジャー」の脚本・メインライター、「REAL⇔FAKE」の監督・脚本、「アルゴナビス from BanG Dream!」のシリーズ構成・脚本などで知られる。4・5月に「ミュージカル『薄桜鬼 真改』土方歳三 篇」(脚本・演出)、5月にリーディングシアター「シャーロック・ホームズシリーズ」(脚本・演出)、5・6月に三人芝居「怪物の息子たち」(演出)、7月に「歌絵巻『ヒカルの碁』序の一手」(脚本・演出・作詞)、8・9月に東映ムビ×ステ 舞台「邪魚隊 / ジャッコタイ」(演出)が上演される。

井俣太良(イマタタイラ)

1975年、愛知県生まれ。俳優。少年社中の創立メンバー。2013年から「ミュージカル『薄桜鬼』」シリーズで近藤勇役を演じ、4・5月に上演される最新作「ミュージカル『薄桜鬼 真改』土方歳三 篇」で同役を務める。今後は5・6月に上演される劇団おぼんろ「聖ダジュメリ曲芸団」に出演予定。

少年社中(ショウネンシャチュウ)

1997年に早稲田大学演劇研究会(以下早大劇研)出身の毛利亘宏、井俣太良らが中心となり結成された劇団。1998年に旗揚げ試演会「侍核ーサムライ・コアー」を行い、2002年に早大劇研から独立した。架空世界、冒険、夢などをキーワードにしたファンタジックな世界観と、そこに渦巻くリアルな人間ドラマ、スピーディーかつスタイリッシュな演出で多くの観客の心をつかんでいる。

結成15周年を迎えた2013年には、記念公演として「贋作・好色一代男」を上演。2018年から2019年にかけて20周年記念公演を行い、「ピカレスク◆セブン」「MAPS」「機械城奇譚」「トゥーランドット~廃墟に眠る少年の夢~」を上演した。

現在は主宰・脚本・演出を担う毛利を中心に、俳優の井俣、大竹えり、田辺幸太郎、加藤良子、廿浦裕介、長谷川太郎、杉山未央、山川ありそ、内山智絵、竹内尚文、川本裕之の12名で活動している。