新国立劇場「かもめ」鈴木裕美×小川絵梨子|応募総数3396通、6週間におよぶフルオーディションの全貌に迫る

キャスト4人が語るフルオーディション

新国立劇場創立以来、初の試みとなったフルオーディションを経て、3396にのぼる応募の中から、若手からベテランまで個性豊かな13人の俳優が選出された。彼らはどんな気持ちでオーディションに挑み、オーディションを通して何を得たのか。アルカージナ役の朝海ひかる、ニーナ役の岡本あずさ、トリゴーリン役の須賀貴匡、コンスタンティン役の渡邊りょうに話を聞いた。

朝海ひかるやりたかったことが3つ同時に叶った

朝海ひかる

いつか新国立劇場のお芝居に出てみたい、チェーホフの作品をやってみたい、鈴木裕美さんとご一緒してみたい。自分のやりたかったことが3つ同時に叶う企画だったので、「これは応募するでしょ!」と早い段階で応募を決めたんです。

宝塚では演出家と俳優は先生と生徒という関係性に近かったので、どうしてもそのイメージが自分の中に残っていたのですが、裕美さんが「私が考える『かもめ』もオーディションしてください」と言ってくださったことでハッとしましたね。自分がアルカージナ役に決まってからも、ほかの方のオーディションの相手役をやるために何度か会場に足を運びました。相手の方の足を引っ張ってはいけないという思いがあったので、自分のオーディションよりもこのときのほうが気を張っていたかもしれません(笑)。

オーディションもそうでしたが、稽古場もとても開放的な雰囲気。裕美さんが提案してくださることにおんぶに抱っこではなく、俳優からもどんどんアイデアを出してアプローチしていいよという場になっているので、裕美さんが思い描く「かもめ」と自分自身が考える「かもめ」がうまくミックスできたらと思います。

朝海ひかる(アサミヒカル)
1991年、宝塚歌劇団に入団。2002年雪組男役トップスターに就任し、06年に退団。近年の主な出演作に、「黒蜥蜴」(演出:デヴィッド・ルヴォー)、「黄昏 -On Golden Pond-」(演出:鵜山仁)、ミュージカル「TOP HAT」(演出:マシュー・ホワイト)などがある。19年にはこまつ座「日の浦姫物語」(演出:鵜山仁)に出演予定。

岡本あずさハードルの高さを払拭できるのでは

岡本あずさ

「かもめ」は一度だけ観たことがあって、女優を目指すニーナの心境に重なる部分があり、惹かれました。オーディション中は記憶がないくらいいっぱいいっぱいでしたが(笑)、実際の稽古がどんなふうに進むのかを少し感じることができて楽しかったなって。

普通のオーディションに比べると後半はずっと稽古をしてるような感じだったので、稽古が始まってからもゼロから立ち上げると言うよりは、30パーセントくらい進んだところから始められた感じがします。オーディションで6週間一緒にやってきたメンバーなので、キャストはみんな同志みたいな感じがあります(笑)。私は一番年下ですけど、仲間に入れてくださってますね。中でも朝海ひかるさんは、少し歩くだけでもすごくきれいだしカッコよくて、仕草や細かい演技を勉強したいなって思うところがたくさんあります。

チェーホフとか「かもめ」って聞くと、私と同年代の子たちはハードルが高く感じるかもしれませんが、小川さんの翻訳によって親近感が湧く表現になっていますし、自分自身、チェーホフが言っている“喜劇”という部分を稽古の中で感じているので、事前に感じるようなハードルの高さは、払拭できているんじゃないかと思います。

岡本あずさ(オカモトアズサ)
2007年に雑誌「Seventeen」の専属モデルとしてデビューし、08年に女優デビューを果たす。近年の出演作に、「AZUMI 幕末編」(演出:岡村俊一)、劇団た組。「まゆをひそめて、僕を笑って」(演出:加藤拓也)、タクフェス「ひみつ」(演出:宅間孝行)などがある。

須賀貴匡人はうれしいと小躍りするんだな

須賀貴匡

鈴木裕美さんと小川絵梨子さんがタッグを組んで「かもめ」をやると聞いて、こんなにワクワクする企画はないなと。6週間のオーディションを経て出演が決まったとき、脱力感と“小躍り”が同時にきて……。人はうれしいと小躍りするんだなと思いました(笑)。あの感覚はここ20年くらいなかったかもしれません。

今回のフルオーディションは、作品との向き合い方や役に向かうエネルギーが、これまでとは格段に違ったと思います。中でも印象的だったのは、お芝居だけでなく人間的な部分もしっかり見てくださったということと、裕美さんが「これは、演出家としての私のオーディションでもある」とおっしゃっていたこと。オーディションが終わってキャストが集まったとき、みんなとお芝居を1本作ったような感覚がすでにどこかにあって。フルオーディションという刺激的な時間を共有できたことは、今後の稽古や作品の仕上がりにもきっと影響してくるのではないかと思っています。

須賀貴匡(スガタカマサ)
2002年、特撮ドラマ「仮面ライダー龍騎」に主演。19年には、17年ぶりに「仮面ライダー龍騎」の仮面ライダー龍騎 / 城戸真司役を演じ話題となる。出演作である「仮面ライダージオウ」のスピンオフ作品「RIDER TIME 龍騎」がビデオパスにて独占配信中。

渡邊りょう喜劇として、王道の「かもめ」になるのでは

渡邊りょう

「かもめ」は作品として好きだったので、オーディションを知って自分から応募しました。これまでもオーディションはいくつも受けたことがありますが、今回は劇場サイズや企画の規模が、普通ではなかなか関われないようなもの。その門戸を新国立劇場から開いてくれたのがうれしかったです。

オーディションでは、毎日本番のような気持ちで臨んでいたので、先のことはあまり考えられませんでした。でも一緒にオーディションを受けている先輩たちが緊張している姿を間近で見て、勇気をもらったと言うか。「先輩たちも緊張するんだ」って思いました。コンスタンティンの人物像について、オーディションで鈴木裕美さんが「秋葉原のオタク」とキーワードをおっしゃっていて、僕も同じイメージを持ちました。稽古ではそんなオーディションで得たイメージをベースに、出演者各自が自分の思いを持ち寄っている感じがします。

今回のトム・ストッパード版の「かもめ」は、群像劇として登場人物たちそれぞれの姿が非常にわかりやすく描かれているように思います。裕美さんがおっしゃっている、チェーホフが描いたままの“喜劇”として、王道の「かもめ」になるように、がんばりたいです。

渡邊りょう(ワタナベリョウ)
2008年、tpt「ミザントロオプ」で初舞台を踏み、14年から18年まで悪い芝居に所属。16年に出演したDULL-COLORED POP「演劇」で佐藤佐吉賞 優秀助演男優賞を受賞。近年の主な出演作に、悪い芝居「罠々 wannawana」「メロメロたち」「ラスト・ナイト・エンド・ファースト・モーニング」(いずれも演出:山崎彬)、第26回読売演劇大賞優秀作品賞を受賞した、劇団チョコレートケーキ「遺産」(演出:日澤雄介)などがある。
「かもめ」
2019年4月11日(木)~29日(月・祝)
東京都 新国立劇場 小劇場

作:アントン・チェーホフ

英語台本:トム・ストッパード

翻訳:小川絵梨子

演出:鈴木裕美

出演:朝海ひかる、天宮良、伊勢佳世、伊東沙保、岡本あずさ、佐藤正宏、須賀貴匡、高田賢一、俵木藤汰、中島愛子、松井ショウキ、山﨑秀樹、渡邊りょう