現代能楽集Ⅹ「幸福論」~能「道成寺」「隅田川」より特集 瀬奈じゅん×長田育恵×瀬戸山美咲 鼎談|能にすくい上げられる現代人の声、そして“幸福”観

ゆかりあるシアタートラムで

──今回の会場はシアタートラムです。お二人は過去にシアタートラム ネクスト・ジェネレーションで受賞され、作品を上演されていますね(編集注:シアタートラム ネクスト・ジェネレーションは、世田谷パブリックシアターによる、若い才能を発見・育成するため実施される事業。受賞団体にはシアタートラムでの上演機会が提供される)。

瀬戸山美咲

瀬戸山 私は2011年、長田さんは2012年ですね。

長田 当時、職業として劇作家になれるかどうかというところだったんですけどネクスト・ジェネレーションで選ばれるまでは私はサラリーマンとして働いていたんですね。でもネクスト・ジェネレーションが獲れたから演劇の世界でやっていっても良いんだと思って会社を辞めました(笑)。だから人生を変えたのは何ですか?と聞かれたら、本当にわかりやすく、ネクスト・ジェネレーションです。

瀬戸山 私は3回応募して3回目で通って。それまで挑戦したことのないサイズの劇場で上演ができて、そこで「できた」という実感が持てたことは大きかったですね。私も「演劇やってもいいのかもしれない」と思うきっかけになりました。

長田 シアタートラムには劇場にお客様がついていらっしゃるので、劇場のお客様に自分の作品を観ていただけたのはすごくうれしかったです。

瀬戸山 そうですね。私は、実は大学生のときにこの劇場でバイトをしていたんです(笑)。だから憧れの劇場で上演することができたという印象でした……と思うと、今以上にがんばらないと!

長田 本当ですね。

作品を自分の体験にしてほしい

──コロナの影響で止まっていた劇場が、少しずつ動き出しました。改めてどのような気持ちで上演に臨まれますか?

瀬奈 いろいろな状況にいらっしゃる方がいるので、大手を広げて「ぜひ劇場に来てください!」と言えないところもあるなと、正直思っているのですが、生で観ないとわからない何かは確実にありますし、こういう状況の中で少しでも光を目指して、少しずつでも歩き出せたら。シアタートラムのスタッフの皆様も私たちも、細心の注意を払ってお客様をお迎えしようとしていますので、「ぜひ劇場へ足をお運びください」とあえて、言いたいです。

瀬戸山 この半年、演劇って何だろうと日々考えていました。今、稽古場で人間と人間がぶつかり合い、何かが生まれる瞬間に立ち会っていると、それをリングサイドで観る体感ってすごく面白いと改めて思っていて。この作品は、わかりやすく元気になる内容のものではないかもしれませんが(笑)、最終的には救いのある芝居になると思いますし、ちょっとでも未来に向かっていこうと思えるようなものにできたらと思います。

長田 演劇って、“体験”ということに尽きると思うんですね。配信で演劇を観ると、ストーリーを理解することはできるかもしれないけど、皮膚感覚には降りてこないんですよね。でも劇場空間に身を置くと、それが自分の体験になって目や皮膚感覚に焼き付く。なので、肉眼でこの物語を目撃し、体験してもらうことが何よりも大切だと思っています。