「ON VIEW:Panorama」|ダンスは世界を見るためのレンズ──生の身体、映し出される身体

ダンサーインタビューInterview with Dancers

「ON VIEW」には日本・オーストラリア・香港から6人のダンサーたちが出演する。ここではダンサーたちに“自己紹介”してもらいつつ、クリエーションや作品への思いを語ってもらった。なおインタビューの最後には、本作のドラマトゥルクであるショナ・アースキンも登場している。

「私の身体に訪れる変化が舞台に反映されるのを心待ちに」

ナリーナ・ウエイト

ナリーナ・ウエイト

シドニーを拠点にフリーで活動をしています。ここ数年は即興について博士号の論文を書いています。体と心がどのようにイメージとつながり、即興のダンスになるのかといった研究です。スーとは17年間の付き合いです。「ON VIEW」は同じ世界観をインスタレーションや映像や公演と、異なる形で展開しシリーズ化しているのが天才的なアイデアですね。初演から時間が経っても作品が古びることはなく、さらに蓄積され、多面的に内容が深まっていくのですから。私は今回、幼い頃に見た木の下で踊っていた祖母のキャラクターを少しだけ入れています。こうした創作の過程で生まれたキャラクターがいつまでも胸に残り、時を超えて作品に戻ってくるのです。

城崎国際アートセンターは素晴らしいところです。オーストラリアは乾燥しているので、水は一切無駄にできませんが、日本は実に水が豊かで、苔があり、木があり、妖精がいてもおかしくない(笑)。こういう環境に身を置いていたら、身体の感覚も変わってくるでしょう。私の身体に訪れる変化が舞台に反映されるのを心待ちにしています。

「常に問い続けることが、今作にも生きている」

ベンジャミン・ハンコック

ベンジャミン・ハンコック

2015年の初演時のショートフィルムで、一緒に踊る動物に、私は昆虫のナナフシを選びました。手足が長くて、生物学的に私と似ているからです。出演した頃の私は髪も短く、今とは見かけが全然違いますが、それが面白いですね。スーは長期にわたってアイデアを追求していくので、公演が終われば終了、ではないんですよ。初めのうち「自分は何者で、なぜ世界に存在しているのか?」を問い続けました。そして「ON VIEW」を通して「カメレオンのようにどこにでも順応できて、いつの間にか消えてしまう。存在感はあるが、コスチュームの中で見えなくなる」という自分のキャラクターをつかむことができました。皮膚の色や髪の長さ、女性的な私の顔立ちが舞台上でどう見られるのかなど、常に問い続けることが、今作にも生きていると思います。私は衣装も自作するので、今回の黒い羽根の衣装をぜひ観てください。今回は初めて多国籍のダンサーが集まったパフォーマンスになります。皆個性的で、城崎のリハーサルでも良いブレイクスルーがありました。本番を楽しみにしていてください。

「若い身体だけでなく、年齢を重ねた身体のダンスを示す機会をくれました」

ムイ・チャック-イン

ムイ・チャック-イン

私は初め中国伝統舞踊を、そのあとニューヨークでモダンやコンテンポラリーを学びました。おかげで伝統舞踊を新鮮な目で見直すことができました。例えば単に扇を使うのではなく、扇と対話しながら踊るようになる、などです。「ON VIEW」の香港版にスーが私を選んだのは、多様な年齢層のダンサーを求めていたのでしょう。私は今年60歳で最年長ですが、若い身体だけでなく、年齢を重ねた身体のダンスを示す機会をくれました。ショートフィルムで私が選んだのは猫です。ずっと飼っているので。ただ撮影のときに猫が緊張しすぎてうまくいかず、猫の映像を私の身体や扇に投影することで一緒に踊ることができました。今回は違う背景のダンサーが集まり、初対面のダンサーも多いので、どんな動きが生まれるか楽しみにしています。若い身体、年老いた身体、動ける身体、動けない身体、そしてそれぞれの背景を持った6つの違う身体。スーが身体を見る目はとても公平でオープンなものです。人生そのものが投影される舞台になると思います。

「『ON VIEW』は、常に限界を越えて成長し続けるプロジェクト」

ジョゼフ・リー

ジョゼフ・リー

香港版「ON VIEW」に出演したとき、私はまだプロとして活動を始めて間もない頃でした。ショートフィルムの撮影に参加した10名ほどは、いずれも香港では有名なダンサーばかりでした。撮影時に課されるタスクは創造的で、興奮しましたね。そういうアプローチは初めてだったので。動物は孔雀を選びましたが、一緒に踊るのは難しいと思いました。そこで孔雀をシンボルとして扱い、僕自身が孔雀のような衣装を着て踊りました。香港版で撮った2年前の自分の映像は、まだダンス界に入ったばかりのフレッシュなエネルギーに満ちています。もちろん「なぜこんなことをしたんだろう?」と思う部分もありますが(笑)。自分が昔とは違う身体になっていることを再認識できてとても面白いですね。これは身体のアーカイブだと言えるでしょう。今回の国際メンバーの中で日本チームだけが「ON VIEW」の舞台を未経験ですが、ノブヨシとエマは素晴らしいダンサーなので、どこに到達するのか楽しみです。私も振付やダンサーとしての経験を積んできているので、その成果を見せたいと思います。「ON VIEW」は、常に限界を越えて成長し続けるプロジェクトなのですから。

「いよいよ舞台で、6人の“不ぞろいな個性”が出会います」

湯浅永麻

湯浅永麻

私は長年オランダのNDT(ネザーランド・ダンス・シアター)に所属していましたが、現在はフリーで活動しています。ショートフィルムの撮影は面白かったものの苦労もありました。動物と踊ろうにも意思の疎通が取れませんからね……。なかなか決まらず困っていると「投影した映像と踊るのもアリ」との提案がありました。そこで動物と自分が共有できるものを考え、“細胞”に行き着きました。シンプルで、増えていけば何にでもなれる。細胞が死ぬ瞬間の映像が面白いのですが見つからず、結局アメーバのような単細胞生物の映像を身体に投影して踊ることになりました。フロアで踊る私をカメラは真上から撮らなければならず、大変でしたね。“エレメント”は液体にも固体にも気体にもなれる“みず”を選びました。名古屋にある「河文」という老舗料亭は、庭に石づくりの能舞台があり、周囲が水で囲まれている素敵なロケーションでした。そしていよいよ舞台で、6人の“不ぞろいな個性”が出会います。とても楽しみにしています。

「世界に対して、リアルに何かを訴える作品となることを期待」

浅井信好

浅井信好

私はストリートダンスのあと山海塾の舞踏手を経て、現在はダンサー・振付家として活動しています。舞踏には「身体を空っぽにして、あらゆるものを受け入れる」という考え方があるので、ショートフィルムの撮影でスーから出された課題も、わりとすんなり決まりました。動物に擬態することも舞踏の訓練にはあります。“動物”と踊る課題である猿にこちらも同化して撮影しました。僕やハラサオリさんは、自分でビジュアルアート作品を作ったりモデルの仕事も多いので、衣装で自分を変えることにも慣れていたと思います。もっとも私は、自分の舞台上では身体の追求に専念しているので、映像作品と踊るのは今回が初めてです。特に今回の撮影は「カメラマンがカメラマンのために作った」と言われる高品質のカメラで行われていて、映像のクオリティが素晴らしいですね。私自身は綺麗にスムースに踊るタイプではなく、観客にイメージの種を埋め込むようなダンサーです。日本版「ON VIEW」の6名のダンサーはいずれも豊かな多様性の中から選ばれています。今の世界に対して、リアルに何かを訴える作品となることを期待しています。

「作品と共に関わる人がみんな成長していく、本当にスペシャルな作品」

ショナ・アースキン(ドラマトゥルク)

私は2015年のオーストラリア版初演の出演ダンサーですが、現在はドラマトゥルクとして関わっています。パフォーマンス専門の心理学者でもあるので、スーのアイデアを実現する方法や、そこに至る思考プロセスの筋立てなどを助言しています。「ON VIEW」の根幹は、素晴らしいアーティストたちの映像とライブのパフォーマンスが舞台上に共存することです。パフォーマーとして見れば、自分の映像と踊ったりほかのダンサーと踊ったりソロだったり、各シーンごとに身体の在り方を変えて舞台に立つ必要があるダイナミックな作品です。スーは常に特別な個性を大切にし、作品に組み込んでいくのが好きなんです。ダンサーの体格や柔軟性の違いにも面白さを見出していました。そしてダンサーの側から作品にアイデアを提供できる余白を与えてくれますね。ダンサーのみならず、スー自身も年齢を経て進化しています。作品と共に関わる人みんなが10年後20年後も成長していく……これは本当にスペシャルな作品なのです。