岡山芸術創造劇場 ハレノワ誌上レポート&ゆかりのアーティストがハレノワへの期待を語る (2/3)

ハレノワのオープンをアーティストたちが祝福!

オープニングラインナップとして作品を披露する北尾亘、菅原直樹、木ノ下裕一、桑原裕子、金森穣が、劇場への期待や作品を楽しむためのヒントを教えてくれた。

北尾亘(演出家、振付家、俳優、ダンサー。Baobab主宰)

北尾亘(Photo by Kenji Kagawa)

北尾亘(Photo by Kenji Kagawa)

──岡山芸術創造劇場 ハレノワを訪れたときに受けた印象を教えてください。

訪れる人々を誰でも迎え入れてくれるような包容力を感じました! 晴れの国に相応しい太陽に光り輝く荘厳さと木や緑の温もりが共存していて、何度でも訪れたくなる印象です。「岡山にはこんな素敵な劇場があるんだよ!」と僕も紹介するので、県内外から沢山の人が集う場所になってほしいです。(いや、きっとなるでしょう!)

──北尾さんが、北村成美さんと共に演出・振付を手がけ出演もされる「100人ダンス」について、作品を観るときのポイントやキーワードを教えてください。

「ハレノワ誕生のダンス(=born dance!)」に誰もが集ってもらいたいです! 新しい劇場の誕生に立ち会える機会なんてそうそうありませんから、いっそみんな巻き込まれて共にお祝いしましょう。そ・し・て、せっかくなら表町商店街でのパレードダンスからぜひご一緒してもらえたらなおうれしいですっ! 風情が場所ごとに移り変わる長~い商店街を通って出会うハレノワは、一層素敵に感じられると思います。

菅原直樹(劇作家、演出家、俳優、介護福祉士。「老いと演劇」OiBokkeShi主宰)

菅原直樹(撮影:草加和輝)

菅原直樹(撮影:草加和輝)

──岡山芸術創造劇場 ハレノワを訪れたときに受けた印象を教えてください。

表町商店街を抜けると、高くそびえ立つハレノワにとても驚きました。かつて映画館街としてにぎわったこの一角が、今後、ハレノワの誕生によってどのように変わっていくのか。さらに色彩豊かで、深みのある岡山の街になっていくといいなと期待しています。
また、小劇場は、岡山で演劇をする者にとっては、待望のブラックボックス型の劇場です。ブラックボックスとは、舞台と客席が一体となった、黒い壁に囲まれた空間のことです。小劇場に入らせてもらいましたが、無限の可能性を感じる魅力的な空間で、とても想像力を刺激させられました。今後、さまざまなアーティストたちがこの空間をどのような空間に変えていくのか、とてもワクワクしています。

──菅原さんが作・演出を手掛けられる「老いと演劇」OiBokkeShi 開館特別公演「レクリエーション葬」について、作品を観るときのポイントやキーワードを教えてください。

9月に小劇場で、97歳の俳優・岡田忠雄さんが主演の「レクリエーション葬」という作品を上演します。話としては、老人ホームのレクリエーションで入居者の生前葬をやる、というものです。「レクリエーション」という言葉はとても面白くて、介護現場ではよく「レク」と軽い感じで使われていますが、語源はラテン語の「re-creare」で「再創造」という意味です。「舞台の上で死ねたら本望だ!」が口癖の岡田さんと一緒に、自身の人生を再創造するような生前葬ができたらいいなと思っています。

木ノ下裕一(木ノ下歌舞伎主宰)

木ノ下裕一

木ノ下裕一

──岡山芸術創造劇場 ハレノワにどんな期待を感じますか?

いつだって新しい劇場が誕生するときにはわくわくするものですが、ハレノワさんでは「魅せる」「集う」「つくる」の3つのコンセプトで岡山から活発な文化芸術を発信していかれるとのこと、とりわけ「つくる」を掲げているところが素敵です。単に魅力的な演劇人や作品を呼んでくるだけでなく、岡山の皆さんの指向や個性や要望にフィットしたオーダーメイドの作品が次々に生まれてくることでしょう。それは恐ろしく手間と辛抱強さが必要な試みですが、いままで劇場文化に触れたことのない方にもその光を届けるためには、不可欠でもあります。地元のお客さんや土地の風土や慣習のことは劇場が一番よく知っているのだから、「つくる」は地域の公共劇場の大切な大仕事です。
ハレノワさんが全国の公共劇場の一つのモデルとして飛び立っていかれることを願っています。

──木ノ下さんが監修・補綴を手掛けられる木ノ下歌舞伎「勧進帳」について、作品を観るときのポイントやキーワードを教えてください。

木ノ下歌舞伎の「勧進帳」は、歌舞伎の演目を現代演劇に仕立て直した作品です。現代服をまとった俳優が現代語で演じます。でも、単にわかり易くしているだけではありません。古典(原作)に深く潜り込み、そのエッセンスを凝縮したり、新しく解釈し直したりしています。演出は今をときめく演出家のひとり杉原邦生さんですが、スタイリッシュかつ深淵に“現代の勧進帳”として描き直してくれました。平易、だけど深い、そんな作品です。見終わったあと、「私たちの物語だった」と思っていただけるはずです。そして「これ、古典歌舞伎でも見てみたい」「なんなら、その奥にある能の『安宅』や、そのまた奥の『義経記』も読んでみたい」と知的好奇心が広がっていくかもしれません。劇場でお待ちしております。

桑原裕子(劇作家、演出家、俳優。KAKUTA主宰。穂の国とよはし芸術劇場芸術監督)

桑原裕子(撮影:伊藤華織)

桑原裕子(撮影:伊藤華織)

──岡山芸術創造劇場 ハレノワにどんな期待を感じますか?

これまで私は愛知県豊橋市を始め、いくつかの地方で演劇の滞在製作をしてきました。才能あふれる地方劇団の俳優たちや市民の方々と出逢い、創作する中で大きな刺激を受け、それまで東京を拠点に活動してきた私は、新たに演劇の可能性を見いだした気がしました。
ハレノワが新たに創造の拠点となり、多くの素晴らしい芸術作品を生み出し、発信していくことに期待しています。そして私自身もその一助となれればうれしく、これから演劇を通して岡山の皆さんにお目にかかれれることを楽しみにしています。

──桑原さんが作・演出を手掛けられる穂の国とよはし芸術劇場PLATプロデュース「たわごと」について、作品を観るときのポイントやキーワードを教えてください。

以前から自身の作品を紹介するうえで、「寄る辺なき人びとの生きづらさに焦点を当てる」といったような表現を用いてきました。ですが若い頃はどこか特異に感じた「生きづらい」という言葉も、今や日常的に聞かれる通常用語になっている印象を受けます。それほどに今、私たちはひとりひとりが生きづらさを抱えた時代にいるのだと思います。
そんな今を生きる人びとを見つめ直す作品として「たわごと」という作品を創ります。言葉にできない寂しさや、守られない約束、行き場のない声。それらを「戯言」と呼び捨てるならば、私たちは何をよすがに生きていくのか。拠り所を求めてさまよう6人の男女のものがたりをお届けします。

金森穣(Noism Company Niigata芸術総監督。演出振付家、舞踊家)

金森穣(撮影:篠山紀信)

金森穣(撮影:篠山紀信)

──岡山芸術創造劇場 ハレノワにどんな期待を感じますか?

この国にまた一つ、創造型の劇場が誕生したことをとてもうれしく思います。それが岡山という地方都市であることにも喜びを感じます。なぜなら私は、この国の劇場文化の豊かな未来には、地方公共劇場の発展 / 成熟が不可欠だと信じているからです。そしてそのためには劇場専属舞踊団の設立が必要であると信じる私としては、近い将来ハレノワにも、劇場専属舞踊団が誕生することを強く願っています。

──金森さんが演出振付を手がけられるNoism×鼓童「鬼」について、作品を観るときのポイントやキーワードを教えてください。

今回上演する「鬼」は、新潟から世界と勝負する舞踊団と太鼓芸能集団による、新潟をテーマにした作品です。新潟の可能性、そして魅力を存分に味わっていただける作品となっていますので、物語に拘泥せずに、舞踊と太鼓の競演という芸能の始原に身を委ね、“ある秘儀”に参加するような気持ちで観劇していただければうれしいです。とはいえ創作の背景について興味のある方は、ぜひこちら(参照:Noism × 鼓童『鬼』/ストラヴィンスキー『結婚』 | Noism Web Site)から演出ノートをご覧いただければと思います。